沖ノ山は兵庫鳥取の県境尾根から見ると、優しげな山容を見せており、しかも高度感もあって一度は登りたいと願っていた。訪れたのは1997年5月下旬のこと。南を走る大井谷林道からのアプローチを試みた。その林道を車で進んで行くと途中にクサリが張られており、その先は私有林道のようで、一般車は進入禁止になっていた。やむなくその近くに駐車とした。大井谷林道を東へと歩いて行くと、20分ほどで別の林道が分かれた。それが地図の山頂近くまで破線で示される林道と思え、そちらに入った。林道にしては勾配のきつい道だった。地図では標高1200m付近まで続くはずだったが、標高の900m辺りまで来たときに終わってしまい、その先には登山道も見当たらなかった。仕方なく後は尾根に取り付いて山頂を目指すことにした。踏み跡程度の道があって、それを登って行く。林道を歩いているときは周囲は植林帯であったが、尾根道になると徐々に雑木帯へと変わってきた。またクマザサが混じり出した。標高が1100mほどとなると、小径も怪しくなってきた。またクマザサに替わってネマガリダケが増えて、しかも密集してきた。その中に点々とブナの巨木が立っている。クマザサ帯になった頃より小径が消えただけで無く尾根筋もはっきりしなくなったので、ヒモで目印を付けながら登ることにした。更に小雨が降り出した。山頂が近くなるとネマガリダケは太くなり体全体で押し分けるように進んだ。そして前方に見えるブナに辿り着いては一息入れるを繰り返した。厳しい登りだったが季節がらスズコが出ていたので、それを採る楽しみはあった。ただスズコを採りながらとなっていっそう時間がかかるようになった。そして漸く山頂に着いたときは、歩き始めてから4時間近くが経過していた。そこはすっかりネマガリダケに取り囲まれており、ネマガリダケのジャングルと呼べそうだった。山頂に着いたときはまだ小雨は降り続いていたが、小止みになったのを見計らって昼食とした。その昼食後にまた小雨が降り出したので、山頂には1時間とおらずに下山とした。目印のヒモを外しながら下って行く。その下山を始めて100mほど下ったと思えたとき、空が晴れ出した。そして周囲が明るくなって来た。視界も開けてきたので展望を得たく、そこで近くのブナに登ってみると、南東に後山からダルガ峰へと続く尾根が爽やかな青空の下に広がっていた。遠く植松山や黒尾山も見えている。ようやく沖ノ山にいることが実感出来た。ちょっぴり満足の気分で下山を続けると、目印を付けていたおかげでさほど間違えずに林道に下りることが出来た。
(2002/8記)(2008/6改訂) |