阿蘇山に登ろうと、2005年10月の体育の日をはさむ連休に九州に向かった。阿蘇山を登ったのは10日の日で、仙酔峡から登り始め、高岳から中岳を巡って、再び仙酔峡に戻って来たときは、まだ11時を過ぎたばかりの時間だった。当初の予定では、午後は根子岳を目指すことを考えていたのだが、早朝こそ快晴だった空は、そのときほぼ曇り空に変わっており、高岳の山稜にはガスがかかっていた。これでは根子岳登山は期待出来ないと思えた。そこで思いついたのが烏帽子岳だった。高岳山頂からも中岳山頂からも、草千里ヶ浜の南に佇むその端正な姿を目にしており、またそちらの空は薄曇り程度だった。一度、国道57号線に戻り、阿蘇登山道路を走って草千里ヶ浜へと近づいた。連休とあって車は多く、草千里の駐車場(有料¥410)は八割方埋まっていた。その駐車場の前が草千里ヶ浜と呼ばれる広々とした草原で、散策する人や馬に乗る人で大賑わいだった。烏帽子岳はその南に悠然と佇んでいた。空は薄曇り程度で薄日も洩れており、歩き出すと涼しい風があって、高原の爽やかさがあった。コースとしては草千里ヶ浜を巡るようにして烏帽子岳を通る登山道を、左回りに北尾根側から登ろうと考えていた。但し、車道を歩いて北尾根側の登山口には向かいたくない。そこで草千里ヶ浜の東端を横切って、尾根に取り付くことにした。草千里ヶ浜も端ともなると人は僅かだったが、北尾根が近くなると、全くの無人となった。道もケモノ道程度である。そして北尾根が間近になって、その手前に谷のあることが分かった。やはり車道を歩いて正しく登山口から登るのが賢明だったようだが、ただ谷と言っても草地のままであり、ケモノ道も続いていたので、谷を越すことにした。やや草深くなったものの道なりに歩いて何とか北尾根上に出た。この頃には陽が射してきて、けっこう汗をかいての登りだった。尾根に出ると、はっきりとした尾根道に出会った。但し、あまり歩かれているようには見えなかった。登るうちに次第に展望は良くなり、右手に草千里ヶ浜、左手には阿蘇の火山風景が広がっていた。阿蘇は薄モヤがかって、ぼやけて見えていた。前後に人影は無く全く静かな尾根で、草千里ヶ浜の賑わいとは大違いだった。前方に大きく見える烏帽子岳に向かってひたすら登って行く。草原の雰囲気のままに歩けるものと思っていたのだが、荒れた所もあって、足元に注意が必要だった。特に山頂が近くなって急坂になり出すと、道は滑り易くなり、辺りはブッシュとなって少々厳しさが出てきた。また灌木も増えて、木立に囲まれての登りだった。そして山頂が目前になると木立が減って、再び草地となって優しげな山頂に着いた。ここまで二人の登山者とすれ違っただけで、無人の山頂かと思っていたが、狭いその山頂には一人の外国の青年がぽつねんと座って、無心に阿蘇をスケッチしていた。その山頂の展望は良かったが、少し草千里ヶ浜に下った所に一段と広く草千里ヶ浜の見える位置があったので、そちらで休憩とした。上空はほぼ曇り空となって、風景はやや沈んで見えていたが、暫し草千里ヶ浜をのんびりと眺めて過ごした。ときおり雲間から薄日が射して、草千里ヶ浜や北向かいの杵島山を照らすことがあった。阿蘇は火口見物と草千里の散策で代表されるが、そのどちらをも一段高い位置から眺めるのは良い気分のものである。下山は草千里ヶ浜へと向かう尾根道を下って行く。この尾根の方が主コースなのか、登りで歩いた北尾根コースと比べるとよく踏まれており、楽に下って行けた。そして終始、草千里ヶ浜を眺めての下りだった。やがて尾根は草千里ヶ浜を抱くように西方へと向かう。そのまま歩くと草千里ヶ浜の西辺を巡って北西端で車道に合流するのだが、草千里ヶ浜にある二つの池が近づいたところで、尾根より草千里に下りる道のあることに気が付いた。そこでその道を下って草千里ヶ浜に下り着いた。後は大勢の観光客の歩く遊歩道を歩いて、駐車場へと戻って行った。晴れた日なら一段と素晴らしい展望なのだろうが、この日のように薄曇りで風景の落ち着いた日も、涼しい風の中でゆっくりとハイキングが楽しめて良かった。
(2005/10記)(2014/7改訂)(2022/11写真改訂) |