赤穂市の福浦地区は旧備前国の領地。岡山県の日生町に属していたが、昭和38年に赤穂市に編入されている。そのときは一騒動があったとか。今は至って静かな海ぎわの集落である。この地を02年11月初めに訪れた。目的は県境尾根にある福浦向山だった。この山に東側から登ろうと近づいて行くと、古土手集落に近い位置で溜め池が現れた。そのそばに駐車スペースを見たのでそこに駐車とした。山裾道を歩いて古土手集落に入る。この日は集落で葬儀があるのか、路傍に多くの車が止められており、弔問客の姿をよく目にした。集落を抜けて舗装路を南に向かっていると、左手の海ぎわにお椀を伏せたような姿の良い小山が見えている。山腹には道も見え、山肌は低木か灌木程度で、どこでも登れそうに見えた。それに何と言っての展望が良さそうだった。今向かおうとしている福浦向山については全く知識を持っておらず、ただ地図の破線路から尾根へと山頂を目指す考えだったのだが、見た感じではどうもヤブがきつそうだった。そこで展望が期待出来そうなことが決めてとなって、急きょその小山に目的を切り替えた。今度は東へと田んぼの中の舗装を歩いて行く。そして西麓の五軒屋集落に入る。ちょうど居合わせた人に山のことを尋ねたところ、地元では「ぬか山」と呼んでいるとのこと。また道も途中まで続く道を教えていただいた。その道はいかにも山裾道で、畑の中を細々と続いていた。その道そばに墓地を見ることが多かった。小径の終わりも墓地になっていた。そこからは適当に登って行くことにしたが、灌木とイバラが密生しており、ちょっと厳しい所だった。そこをムリヤリ登って行くと、すぐに別の道に出た。その道は防災工事用として一時的に作られたもののようで、車も通れる道幅があった。それを西の方向に歩いて行くと、山頂から見て真西の位置で終わってしまった。そこはちょっとした展望地になっており、瀬戸の風景から岡山県境の山並みまで一望だった。それにしても風が強かった。台風並みではと思える強い風で、吹き荒れていると言う表現がぴったりだった。ただその風のおかげで、視界は澄み切っており、風景が鮮やかだった。その位置から上を見ると、木立は空いており適当に登って行けそうだった。そこで登り易そうな所を選んで登って行く。山肌は治山事業として金網などで補強されていた。その工事が終わってから数年しか経っていないため、まだ膝丈ぐらいの草しか生えておらず、いたって登り易かった。山頂近くまで一気に歩けたが、山頂が間近になって俄然歩きにくくなった。一帯はイバラと灌木のヤブになっていた。仕方なくイバラを鋏で切りながら登って行く。ただ小さな山だけに長くは続かず山頂に着いた。山頂は灌木の茂る所もあったが、低木や膝丈までのササやシダが主体で、また露岩が覗いている所もあり、そこからは先ほどの展望地以上の素晴らしい展望が広がっていた。西向かいの福浦向山が対峙して見えており、けっこう登り甲斐がありそうだった。南西には日生諸島最大の鹿久居島が地続きのように見えている。その向こうには小豆島が更に大きな姿を見せていた。この山頂が目的で立ってみたものの、時間としては短すぎるため、東隣りにある三角点ピークにも立ち寄ることにした。その三角点ピークまでは広々と刈り払われており、点々と植林されていた。どの木も樹高は2メートルほどの常緑樹だった。その風景は見た目は優しかったが、実際に歩いてみると灌木の切り株が多くあり、歩き易いとは言えなかった。ただ広々とした展望を見ながら歩くのは気持ちが良かった。東には赤穂市街と背後の山並みが見えている。相変わらず冷たい北風が吹き荒れていたが、眩いばかりの陽光もあって、気持ちよく尾根を歩いて行けた。三角点ピークが近づくと、そこは自然のままに残されており、イバラと灌木が密に混じり合っていた。その中に突っ込んで三角点(点名・網先山)を捜した。程なく南よりの地点に三角点を見つけた。そこは南の展望が良く、広々と瀬戸内海が眺められた。右手には鹿久居島が見えている。その三角点の位置はうまく風が来ないため、早いがそこで昼食とした。その昼食中は上空は曇っていたが、食事が終わる頃には再び陽射しが現れてきた。ハイキングはその位置までとして、引き返すことにする。再び鷲ヶ山の山頂に戻り、改めて山頂展望を楽しんだ。瀬戸内海を見る山としては好展望地の一つと確信する眺めだった。ただ雲が増えたためか陽射しの消えることが多かった。また相変わらずの強風の中だった。下山は北西方向に下って行く。そちらは果樹が点々と植えられており、また下草刈りもされていたので、登りのコースと比べて断然楽だった。呆気なく作業道に下り着いた。後は作業道から五軒屋集落への小径を辿って集落へと入って行った。この下山のコースが鷲ヶ山への登山コースとしては一番簡単ではと思えた。後は昼どきでひっそりとした集落内を抜けて駐車地点へと戻って行った。
(2003/2記)(2008/2改訂)(2020/9写真改訂) |