小野市と加古川市を限る低山の尾根がハイキングコースとなっており、別名、小野アルプスとも呼ばれているが、間近を走る山陽自動車道から見る姿はごく低山で、山と言うよりもただの丘ぐらいにしか見えない。アルプスの名はその姿よりも、岩場の尾根があったり展望も良いことで付けられたかと思われる。その小野アルプスは登山口が何カ所もあって、コースの選び方によっては一日かけて楽しむことも出来るし、ハイライトだけを楽しむことも出来て、多彩な楽しみ方が出来るのはハイカーとしてはうれしいことだった。ただハイキングのレベルとしてはごく簡単な部類に入るので、どうも好天の日に向かう対象では無く、北の天気が怪しいときに近場で過ごすときの対象と考えてしまうことになる。その小野アルプスを好天の日に登ることになった。
向かったのは2009年10月の第三日曜日。この日は朝から快晴だったが、午後からでないと出かけることが出来なかった。そこで思い付いたのが小野アルプスの中心部だけを午後の半日で楽しもうというものだった。自宅を離れたのは12時半を回ってから。移動に時間をかけたくなく、山陽自動車道を走って加古川北ICで下りた。そして県道43号線、118号線と走り、権現湖PAの北東の位置で県道79号線に合流した。そこから南下して山陽自動車道の高架を潜ると、すぐに側道の入口が左手に見えた。その側道に入って高速道に平行して東進すると、程なく広い場所に出た。その側にも山陽自動車道の高架があり、その先に登山道の入口が見えていた。見上げると送電塔が見えており、その後ろに小山が見えていた。それが小野アルプス最高峰の惣山のようだった。最高峰と言っても200mにも満たない山だったが。広い場所の一隅に駐車とする。時間は13時半を回ったばかりで、3時間ほどハイキングを楽しめそうだった。予定していたコースは、始めに東へ向かって惣山から総山までを歩き、引き返して紅山から岩山までを歩く。岩山からまた引き返して現在地に戻ってくるという考えだった。まさに小野アルプスのハイライト部だけを楽しむことになる。登山道に入ると、すぐに東と西へ小径が分かれたが、それはハイキングコースでは無く、送電塔の巡視路だった。ただその道も山頂に続いているので、東のコースに出るべく東に分かれる小径に入った。木立は灌木が多く、山の姿のままに低山の雰囲気だった。登るうちに山陽自動車道が右手に見えてきて、その音がうるさく聞こえてきた。そして急坂となって送電塔(姫二火力線72番鉄塔)に着いた。そこは展望が良く、ひと休みすることにした。加古川市北部の風景が一望だった。空を見ると午後に入ったとあって少し雲が増えていたが、まだまだ快晴の空だった。その鉄塔の位置より僅かに北へ登った所が惣山の山頂だった。そこは木立に囲まれていたので、更に北へと進むと、あまり高度は変わらないまま岩場の展望地に出た。そこより更に北へと進むと展望台が建っていた。先ほどの送電塔は南に向かっての展望だったが、こちらは北に向かって遮るものの無い展望だった。遠くは笠形山が望まれた。ただそちらは少しうっすらとした見え方だった。その山並みも良かったが、足下に広がる播州平野が秋の色になっているのも美しかった。この惣山では展望台を含めて30分ばかりも休んでしまったが、その間に何組かのハイカーと出会った。やはり小野アルプスは人気のハイキングエリアのようだった。三角点の位置まで戻って、東への尾根歩きを開始した。緩やかに下って登り返すと、そこがアンテナ山。ちょっと無粋な名前だが、その名の通りに山頂の少し東に共同アンテナが立っている。ここではドングリがいっぱい落ちているのが目に付いた。辺りの木にもまだたくさん残っているのが見えていた。アンテナ山は東面側が展望が良く、東向かいの総山がこぢんまりと姿良く眺められた。その総山へは少し下り坂が続き、下った分だけ登り返す。総山の山頂には三角点(点名・総山)があったが、木立に囲まれて展望は良いとは言えなかった。東への尾根歩きはここまで。ひと息入れて引き返す。アンテナ山はさっと通過して惣山に戻って来ると、そこはもう誰もおらず静かだった。ベンチでひと休みをして、次に紅山との鞍部へと向かう。登って来たときは巡視路を歩いたが、今度はハイキングコースを歩いた。そこは今までの登山道と違って丸太の階段道になっており、また周囲は植林も見られて、ちょっと退屈さがあった。ただ下り着いた所は「きすみ見晴らしの森」の西林間広場になっており、雑木の佇まいが優しい風景を作っていた。次は紅山に向かう。紅山は一枚岩の南尾根がハイライト。その岩肌が登山道に入る手前で、木立を通して明るく輝いているのが眺められた。登山道を登り出すと、すぐに岩尾根の端に出た。山頂まで続く岩の固まりは迫力があったが、鷹ノ巣山の百間岩よりは少し小ぶりかと思われた。もう15時半を過ぎているとあって、陽射しには少し赤みが加わっており、紅山の名の通りに岩肌が少し赤みを持って眺められた。ただ岩肌を近づいて眺めると、オレンジ色の模様がたくさん付いているので、橙山の名の方が相応しいかも知れなかった。その岩肌は粗目で滑りにくく、急傾斜にしては楽々と登って行けた。おかげで一気に登れてしまい、すぐに紅山山頂に着いてしまった。この紅山も展望は良く、山頂からは南の方向がすっきりと眺められた。次は更に西へと岩山までの予定だったが、ゆっくり歩いていると紅山に戻ってきたときは薄暗くなっているかも知れなかった。そこで早足で向かうことにした。但しパートナーはこの紅山がお気に入りのようで、ここでじっとしていたいとのこと。そこで単独で向かうことにした。午後も遅いとあって惣山を離れて以後は誰とも出会わなくなっていたが、この岩山に向かっているときも、全く静かなものだった。始めに展望の岩場を歩いてから灌木帯に入ると、下草が多くなってちょっとヤブっぽくなった。かまわず体で押すように進むと、鞍部への下りが始まった。その辺りも岩場があり、そこに立つとすっきりと岩山が眺められた。下りになってからは草ヤブは無くなりごくスムーズな下りだった。また鞍部に着いてからの岩山への登りも易しかった。早足気味に歩いたため、紅山の山頂から20分ほどで岩山の三角点(点名・岩山)に着いた。その三角点の位置こそ雑木に囲まれて展望は無かったが、少し南に移動すると、南に向かって広く展望が現れた。本当に小野アルプスは展望には恵まれていると思った。もう光は夕方のものになっており、すぐに引き返すことにした。紅山に戻ってきたときは、太陽が雲に隠されていることもあって、岩尾根は少し薄暗くなっていた。そこで陽射しが現れるまで紅山の山頂で過ごすことにした。太陽は権現湖の方向にあり、そちらは明るくなっていた。もう権現湖は夕暮れのオレンジ色に光っており、太陽が落ちるに従ってオレンジ色を濃くしていた。その様を眺めるうちに雲の下から太陽が現れて紅山の陽射しを受けるようになった。すると岩肌がさっと明るい色に変わってきた。少し前は橙山ではと思っていたのだが、もう橙色よりも赤い色に近くなっており、まさに紅山だった。夕暮れの光でこそ紅山の本領発揮と言えそうだった。それを楽しむハイカーはこちらとパートナーの二人きりで、ちょっと贅沢な気分だった。暗くなるまで過ごしていたかったが、薄暗い岩尾根を下りたくは無かったので、明るいうちに下ることにした。そして赤い岩肌を名残惜しむように下って行った。そして何度も足を止めて、紅山を振り返った。午後のハイキングはこの日のように夕陽が落ちるまで過ごすのも悪くないと思いながら紅山を後にした。
(2009/11記)(2021/3改訂) |