相生市の最高峰は三濃山。遊歩道が整備されて気楽にハイキングを楽しむことが出来る山であり、その三濃山への入口には瓜生羅漢で有名な瓜生の里が佇んでいる。相生市街地から北へと走ってその瓜生の里に近づいたとき、左手に小ぶりながらすっきりとした姿の山が見えて来る。地図を見ると山頂には四等三角点(点名・中筋)があるものの山名は記されていない。この山に興味を持ったのは2005年の1月に近くの荒神山に登ったおりで、その山頂から端正なその姿が目に入って、記憶として残っていた。いつかは登ろうとは考えていたが、低山ということでいつでも登れるとの気持ちがあり、ずるずると先延ばしにしていた。その四等三角点山を漸く目指したのは2008年の梅雨どきで、薄雲の広がる日だった。地図を見て瓜生集落の西にある溜め池(瓜生大池)から始まる尾根でアプローチしようと考えた。
瓜生大池に近づくと、辺りは田植えを終えたばかりの水田風景が広がっていた。その一角に少し広い駐車スペースがあったので、近くで農作業をしている人に断って車を止めることにした。ついでに山のことを聞くと、瓜生では「トッケツ」とちょっと珍しい名で呼んでいることを聞かされた。但し山頂への道の有無は分からなかった。そのトッケツを目指すことを話すと、この朝に大勢のハンターが山に入っているので注意が必要と言われた。ハンターに出会えばそのときのことと考えて、まずは瓜生大池を目指して歩き始めた。そのそばまで来ると害獣避けフェンスが張り巡らされていた。扉の位置を見つけて中へと入った。大池のほとりに立つと、前方にトッケツが大きく見えており、北東にそれよりも低く感状山が望まれた。大池の北東角からトッケツの南東尾根が始まっており、その尾根端に取り付いた。尾根端は墓地になっており、小径が付いていた。その小径も墓地の敷地内だけで、その先は踏み跡程度の杣道となり、それを伝って行った。木々は疎らで下生えもほとんど無く、さほど無理なく尾根を登って行けた。ときおり灌木の小枝やシダを払うこともあったが、軽いヤブコギ程度だった。何となく細々と続く小径を伝っていると、尾根はやや急角度になり最初のピークが近づいて来た。少しシダが増えてきたと思ったとき、大きな岩のテラスに出た。そこは前方を木立で塞がれることも無く、絶好の展望地だった。思わず足を止めて一休みすることにした。足元には瓜生大池と田植えを終わった水田が広がっていた。その先は瀬戸内海まで一望だった。その瀬戸内海は薄曇りの空と同じ色になっており、海と空の区別は判然としていなかった。この展望にうれしくなって、足も少し元気が出たようだった。その勢いのままに山頂へと向かった。その先にもう一つ展望の良い岩場があり、そこを過ぎるとシダが増えてきた。細々と踏み跡程度の道は続いていたが、シダに隠れ気味だった。ヤブコギになるのかと思われたとき、山頂手前の330mピークに着いた。そこは雑木に囲まれており、その雑木を通して北に山頂が見えていた。ほとんど立ち止まらず北に向かった。緩く下り出すと、そこには少しはっきりした小径が付いていた。足元には相変わらずシダがあり周囲は雑木林だったが、小径のおかげでスムーズに歩けて、330mピークから10分とかからず山頂に着いた。そこも下生えとしてシダが広がっており、雑木もアカマツがあったりコナラがあったり常緑系の木だったりと雑然とした感じだった。当然展望は無し。そこに着いて肩に痛みが走った。見ると大きな毛虫が貼り付いていた。あわてて払い落としたが、先ほどから毛虫を点々と見ていたので、枝を払うときに付かれてしまったようだった。せっかく着いた山頂だったが、山頂としてはさほど面白みは無かったので、小休止で離れることにした。最初の考えでは山頂から南に延びる尾根を下って近畿自然歩道に出る予定だったが、山頂から木々を通して北を見ると送電塔が見えており、その辺りまで歩いてから西の谷へ下ることにした。その送電塔の位置からトッケツを眺めてみたいとの気持ちもあった。山頂から北へも小径は続いており、途中から巡視路を示す標識が現れると、道ははっきりしてずっと歩き易くなった。尾根は緩やかに続いており、山頂を離れて13分で送電塔(No.58鉄塔)に着いた。送電塔とあって周囲の木々は切られており、少し高い位置から思惑通りにトッケツの鋭い姿が眺められた。これで尾根歩きを終えることにした。その送電塔に着く手前で別の巡視路が西の谷へと分かれていたので、その位置まで戻って下山を始めた。さほど下らずNo.59鉄塔に着いた。そこから巡視路はNo.60のある南に向かったのか、尾根の小径は消えてしまった。但し尾根の木々は空いており、適度な歩き易さで下って行けた。下るうちに傾斜は少しきつくなったものの、無難な感じで林道に下り着いた。後は林道を歩いて小河(おうご)集落へと向かった。その林道の途中で意外なビューポイントがあった。それは小ぶりの滝で西の山肌を流れていた。石碑が立っており「小河北峯の滝」と名が付いていた。水量は少なかったが落差があって姿は悪くなかった。山あいを抜けて小河集落にはいるとオレンジ色の服を着た大勢の人が集まっていた。どうやら朝に聞いたハンターのようで、15人は居るようだった。朝に2頭のシカを仕留めたとのこと。小河集落からは近畿自然歩道を歩いて東の尾根へと向かった。自然歩道は丸太の階段道となっており、植林地を緩やかに登って行った。いかにも遊歩道の感じだったが、それも峠までで、その先は少し荒れた感じの普通の山道となって瓜生の里へと向かうことになった。それも自然な様と思いながら下って行くと、程なく瓜生大池が見えて来た。
(2008/6記)(2021/12写真改訂) |