烏帽子の名は山名としてはポピュラーな名前のようで、烏帽子岳、烏帽子山を合わせると、2万5千分の1地図に記載の名だけで全国に90近く有るとか。兵庫県内でも幾つかあり、この烏帽子山は加美町南部、八千代町と接する尾根に位置し、北東側から見る姿は名前通りの烏帽子の形状で眺められた。
2002年7月初め、台風5号の余波で強風が吹きつける日に向かった。市川町側から舟坂トンネルを越えて翆明湖回りで八千代町から中町へと入ったため、ずいぶん遠回りをして加美町に向かった。国道427号線で中町から加美町に近づくと、左手に烏帽子山が現れた。ただ山頂は平らになっており全く烏帽子の形には見えていなかった。それが国道が西に折れて烏帽子山に近づき出すと、山頂は鋭角的になり、なるほど烏帽子に似て来た。更に加美町に入って北麓の寺内集落が近くなると、三角錐のように更に鋭角的な姿に変わった。見る方向によって大きく姿を変える山のようである。ところで登山コースは寺内集落の奥から始まる林道からと考えていたが、寺内集落内に入ってもその林道がすぐに見つからなかった。何度も集落内を行き来して、集落の外れにある墓地のそばの細道が林道に繋がることが分かったのは、集落に入って20分は経とうとしていた。墓地内の駐車スペースに駐車とした。空を見ると黒雲が覆っており、速い流れで動いていた。ただ雲に厚みは無く、雨が降るようには見えなかった。湿気の多い空気がじっとりとからみついてきた。墓地を離れて林道へと向かった。このコースは烏帽子山を北側から登るコースだった。スタートしてすぐに害獣避けネットが現れて、それを通過した。その先を少し進むと溜め池が現れた。後はごくありふれた土道の林道がつづ折れ状に続いた。周囲は雑木林で、路傍にワラビを多く見かけた。地図では林道は標高300m辺りまでで、その終点には無線塔の記号があったが、それらしき施設に会わないまま林道は続いていた。どうやら林道は延伸しているようで、標高400m辺りまで続いていた。その林道終点からは小径は見えなかった。そこで山頂に向かって植林の斜面を適当に登って行くことにした。けっこう急斜面で、木に掴まりながら登って行った。100m近く登っただろうか、山頂につながる尾根に合流した。その尾根は雑木が主体で傾斜も緩く、小径も有って気楽に登って行けた。山頂手前で少し急坂になったが、まずは無難に山上に出た。北側の尾根を登って来たため、強風に会わずに済んだが、山上に着いて俄然、強風が吹き付けて来た。まずは三角点を確認することにした。頂上部は南北に長くなっており、辿り着いた地点より少し南に辿った所に三角点を見た。そこは周囲を雑木に囲まれており、展望はいたって悪かった。ところで麓からこの山を仰いだときに、山頂の北東に岩が大きくせり出しているのが見えていたので、そこは展望が良いに違いないと、山頂を離れてすぐにそちらに向かった。山頂から20〜30mほど下がった位置になるだろうか、岩肌が多く露出した所に着いた。雑木が点々とあって、好展望とまでは言えなかったが、南東から南に向かってまずまずの展望が広がっていた。東に見える石金山の背後には黒田庄町の妙見山や西光寺山など丹波国境の山々が広がっており、南の翠明湖周辺もよく見えていた。翠明湖周辺で一番高く見えているのは原山であろうか。少し移動すると、西の笠形山から飯森山まで見える位置もあり、この展望にまずは満足した。それにしてもすごい風だった。強く吹く度に、木々の葉がいっせいに裏返しになった。ここで小休止の後、この尾根のまま下山しようと北東方向に下り始めたところ、少し下った位置で急斜面となってしまい、それ以上は下るのは危なそうだった。そこで諦めて山頂に戻ることにした。すると諦めた地点の間近に展望の良さそうな大岩が見えた。試しにその上に立ってみると、もう驚かされた。その岩の周囲には視界を遮る木は全く無く、思わず歓声を上げたくなるような見事な展望が広がっていた。眼前には中町の妙見山が全姿を見せており、飯森山から千ヶ峰、篠ヶ峰など加美町を取り巻く山並みも素晴らしかった。ただ北の空は雲が厚く、千ヶ峰の頂には雲がかかっていた。そこは南東の眺めもまた素晴らしかった。ともかくこの眺めを得ただけで、この日の烏帽子山登山にすっかり満足してしまった。その後は山頂に戻って、登って来た尾根を下った。まずまずの小径が続いており、林道終点への分岐点を過ぎても、そのまま下って行けた。ところが今少し下った辺りで周囲にシダがはびこり出し、やがて小径はシダヤブに埋もれてしまった。それでも道自体ははっきりしていたので、道のままに下って行った。そのシダヤブ帯を過ぎると、今度は灌木が茂って来て、容易に歩き易くはならなかった。道自体もはっきりしなくなり、後は尾根なりに下るしかなかった。その尾根を何とか下りきると、麓近くに有った溜め池のそばに出た。もうそこから駐車地点までは僅かな距離だった。ところで駐車地点の墓地には井戸があったので、試しに汲んでみたところ、何とも清冽な水で疲れた体には有り難かった。
(2002/7記)(2012/4改訂)(2021/6写真改訂) |