国道312号線を北へと走り、生野北峠を越えて旧・生野町から旧・朝来町に入ると、まず婆々山が目に入ってくる。次にその後方に両翼を広げたような姿の良い山が見えてくる。その山頂には三等三角点があり、その点名は物部山だった。東麓には物部集落があるので、おそらくこれが山名であろうか。この山を2002年5月下旬に目指した。
地図を見て西麓側からアプローチすることにした。朝来市の上八代集落と養父市の長野集落をつなぐ県道70号線には八代坂トンネルが出来ており、八代峠を越さなくても行けるようになっていた。そのトンネルを抜けた先で、建屋川に沿って唐川集落への道が分かれた。車1台がやっとの道幅だったが、すぐに10メートル
以上と思える幅広の道に変わった。まだ造成中らしく土がむき出しになっており、それが唐川集落まで続いていた。この日も工事が行われていた。唐川集落に入ってほぼ真ん中にある祠のそばに駐車とした。地図では山裾に神社があり、その近くより谷に沿って破線の道が書かれていた。その破線路を登るつもりで山裾に向かうと、一帯は工事中で神社は見当たらなかった。そこで駐車地点の近くから山に向かう道があったので、それを歩いて行くことにした。すると道は工事中の道路を横切って進んで行き、探していた谷倉神社の前に出た。それは良かったのだが、そこから始まっているはずの山道が見えなかった。そこで神社の裏から始まる尾根が登り易そうに見えたので、それを登って行くことにした。はっきりした道こそ無かったが、尾根は下生えも少なく灌木が疎らに生えているだけでけっこう歩き易かった。傾斜が緩いことも歩き易さを助けた。中腹を過ぎると尾根の傾斜は増して来たが、掴まる木があったので、木を頼りに登って行けた。尾根の雑木は新緑とあって、明るい尾根だった。そして主稜が近づいて来ると、尾根にクマザサが見られるようになった。程なく主稜に出ると、そこには小径が付いていた。その小径にクマザサや灌木が少し被さっていたが、ほんの僅か登っただけで山頂となる三角点ピークに着いた。山頂の西側は赤松の高木が並んでおり東側は雑木林に塞がれていた。そのためどちら側にも展望は無かった。この物部山を登った目的の一つに、山頂からの展望があったのだが、木々の隙間から僅かに見えるだけで、すっきり見ようとすればどうも木に登るしかないようだった。そこで辺りに目をやると、三角点のそばの赤松が登れそうだったのでチャレンジすることにした。取り付いてみると意外と登れて、6メートルほど登った辺りで、漸く視界を塞いでいた木々の上に抜け出ることが出来た。眺められたのは西の方向で、そこには期待を越える展望があって思わず絶句するほどの見事さだった。中でも須留ヶ峰の堂々とした姿は印象的で、目を凝らすとその右手奥には氷ノ山から妙見山まで見えていた。暫し写真を撮ることも忘れて瞠目していた。ただその木からは東は見えないので、そちらの展望も得ることにした。この物部山の山頂は南北に長くなっており、三角点ピークから少し離れて南にも同じ高さのピークがあり、そちらへと歩いて行った。尾根の西側はずっと松林に塞がれており、東側も雑木林が続いた。その雑木林が植林地になった所が次のピークだった。展望を得られぬまま南ピークに着いてしまったが、昼が近いとあって、まずは昼休憩とした。一段落した所で改めて東の展望にチャレンジすることにした。そちらの展望を得るには、やはり木に登るしか無さそうだった。ヒノキの植林地だったが、手入れが悪いためかどの木にも下枝が残っており、なんとか登れそうだった。手頃な木に取り付いて登って行くと、こちらは周囲の木々も高いため、およそ10メートルは登らなければならなかった。漸く周囲の木を越したところで、一気に展望が広がった。それだけ登るとすっかり見渡せ、西は三角点ピークとほぼ同じ展望だったが、婆々山が一段と近くに見えていた。そして期待した東には間近に大きな山が見えた。それは朝来山のようで、その右肩には粟鹿山も見えていた。その視線を南にずらすと千ヶ峰も木々の間から見えていた。一通り展望を楽しんでその木を下りると山頂に戻った。今の風景を眺めたことにより、今一度山頂の木に登りたくなったものである。我ながら自分の物好きさかげんには呆れる思いだった。再び同じ木に登って十分に展望を楽しむと、漸く下山に移った。下山は尾根を南へと辿って659mの標高点の位置まで来ると、そこより西に向かう支尾根に入った。659m標高点までは相変わらず雑木に囲まれた尾根だったが、西へ下る尾根に入ったとたん、一気に展望が良くなった。一帯は腰までのブッシュだったため南から西へと広々と開けていた。その尾根に沿って害獣避けネットが続いており、どうやら伐採の跡地のようだった。始めは植林の計画があったのだろうが、植えずに放っておいたため灌木やブッシュがはびこってきたものと思われた。その辺りは風も無く強い陽射しをまともに受けることになり、けっこうな暑さだった。そして下り出してみると、そのブッシュにはやたらとサルトリイバラが多く、ひっかかれっぱなしとなった。仕方なくブッシュを歩くことはあきらめ、尾根の北側に入って雑木の中を下ることにした。けっこう急斜面のため、木に掴まりながら下って行くことになった。途中、伐採地側が下り易そうに見えたのでそちらを下ったが、その伐採地もすぐにブッシュになったので、また雑木帯を下ることになった。そのうちに尾根全体が植林地となり、程なく車道に下り着いた。そこは唐川集落の駐車地点から1kmほど南の位置だった。
(2002/6記)(2007/6改訂)(2022/10写真改訂) |