三度目の三川山はシャクナゲの季節に訪れたいと考えていたが、そこで2009年に入ったとき、4月下旬から5月上旬に焦点を合わせた。人の多そうな5月連休を外してと考えて、ちょっと遅いかと思ったが、結局向かったのは連休明けの土曜日、5月9日だった。快晴ながら少しうっすらとした空の日だった。姫路の自宅を8時過ぎに離れたため、国道178号線から三川集落への道に入ったときは10時半を過ぎていた。車道は佐津川沿いを続いており、遡る形で南へと向かって行った。畑集落を過ぎると周囲は山の迫る風景に変わってきた。そのまま山中に入って行きそうな雰囲気だったが、その先で数軒あるだけの三川集落が現れ、そして車道終点の三川権現の前に出た。そのそばの駐車場に車を止める。他に2台の車を見た。三川権現は鎮守の森が見事なばかりの新緑で、まぶしいぐらいだった。車道の終点から先が登山道になっており、始めは遊歩道を歩く感じで平易な道で始まった。道そばでシャガの花が満開だった。堰堤のそばを歩く頃にはすっかり山道の様相になり、沢を渡ると程なくAコース(シャクナゲコース)とBコース(奥の院コース)の分岐点に着いた。これまでAコースのピストンばかりだったので、この日はBコースを登って行くことにした。右手の径を進むとBコースの標識が現れ、その先で急坂登りが始まった。少し登るとちらほらシャクナゲの木が見られるようになり、いずれ花も目に付きだすものと思っていると、いっかな花にお目にかかれなかった。これはおかしいとシャクナゲの木をよく見ると、既に落花した後だった。どう見ても一週間以上前が見頃になっていたのではと思われた。ちょっとがっかりしたが、そうなれば新緑の尾根を楽しみながら登って行くことにした。特に目立つほどの木は無かったが、自然林が新緑の最中を迎えている中を登って行くのは気持ちの良いものだった。気温は23℃と少し高めで、けっこう汗をかきながらの登りだった。ただ蒸し暑さはなかった。登るうちにクマザサが周囲に多く見られるようになったが、登山道に被ることは無く、歩く妨げにはならなかった。その登山道には「山頂まであと***m」の表記で道標が100m単位で付けられており、登る目安になっていた。登ることに集中して急坂ながらけっこう軽快に登っていたとき、思わぬアクシデントに会ってしまった。登山道に張り出していた木があったのだが、それに気付かず思いっきり頭をぶつけてしまった。帽子を被っていたのだが、けっこうな痛みだった。ちょっと痛みが大きいので額に手を当ててみると、手が真っ赤になっていた。どうやら帽子を通り越して枝の先で大きく引っ掻いていたようだった。ちょっとしくじったの思いが起きたが、とりあえずタオルできつく頭を縛って登りを続けた。そして「あと1300m」の標識を過ぎたとき、突然のようにピンクの花が目に付いた。そこに来て漸くシャクナゲの花にお目にかかれたようだった。その一角だけ残っているようで、他には見えなかった。それだけに花の色がよけいに鮮やかに感じられた。とにかく目に出来たことで、登って来た甲斐があったと言うものだった。そこを過ぎるともう花を目にすることは無く、程なく植林地の中へと入って行った。その植林の中を歩く時間は長く、けっこう退屈する所だった。ただ急坂は終わっており、平坦な所もあってほぼ山上に出ていると言っても良さそうだった。植林を通して山頂の電波塔が見えるともう残りは100mとなり、最後のひと登りで電波塔群の立つ山頂の西端に出た。三角点は目と鼻の先だった。先着者が二名いたが、入れ替わるように下山したため、パートナーと二人きりの山頂だった。三角点のそばが木陰になっており、そこで昼休憩とする。山頂は電波塔群が立つだけで無く、植林が周囲を占めており、展望はほとんど無いと言ってもよさそうだった。僅かに北の植林の切れ目から、香住港に近い海岸が眺められるだけだった。その山頂だが、少し東寄りの位置で林道工事が行われており、地表が大きく削られて殺伐としていた。どうも三川山の山頂はいつ来ても無粋な印象を否めなかった。30分ほどの休憩で、山頂を離れることにした。下山はメインコースと言えそうなAコースを下ることにした。始めに工事中の林道を横切るため、その辺りはちょっと分かり辛くなっていた。登山者に留意したロープが張られており、それに沿って歩くうちにAコースの登山道を下るようになった。山頂に近い所はブナ林が広がっており、その雰囲気はBコースよりも良いのではと思えた。けっこう傾斜がきつかったが、登山道がはっきりしているので、特に慎重にならずとも下って行けた。こちらのコースにも「山頂まであと***m」の道標が100m単位で付いていた。ブナ帯を離れるとシャクナゲが周囲に広がってきたが、こちらのシャクナゲも花は終わっており、全く一輪も見られなかった。どうも4月中には訪れておくべきようだった。もう花の楽しみは無いので休まずどんどん下って行った。気温は午前より少し高めで24℃を越えていたが、空気がからっとしているためか、森の中は涼しさも感じられて助かった。70分ほどでAコースBコースの分岐点に下り着いた。後は沢沿いを三川権現へと歩いて行くだけだった。その三川権現の前に戻ると、朝には気付かなかったがそこにもシャクナゲの木があり、一群を作っていた。そのシャクナゲだが、落花が始まっているもののまだまだ花は残っており、山中では出来ずにここでシャクナゲ見物出来るとは少々皮肉なことだった。この日は少々消化不良ぎみの気持ちを持って三川権現を後にした。
(2009/5記)(2021/11改訂) |