2011年は、正月に日本海側はどか雪となった。元旦の夜は瀬戸内側でも積もったので、宍粟市の山では十分な雪が降ったのではと思われた。そこで正月休暇の最後の日となる4日に、宍粟市内の雪山を楽しむことにした。前夜に天気予報を見ると、兵庫は北部こそ雪の降る天気のようだったが、南部の天気は良さそうだった。それなら宍粟市の南部も天気は良いだろうと考えて、その範囲で雪の楽しめそうな山を考えた。そして決めたのが黒尾山だった。その黒尾山へのアプローチが簡単なのは東麓の安積側からだが、久々に西側から登りたいと、大国農場に向かうことにした。但しパートナーは仕事始めのため、単独行動だった。
4日朝の空は予想以上に晴れており、姫路の空は快晴と呼べるものだった。宍粟市に入っても晴れの空は続いていたが、北の空を見ると雲が広がっていた。予想通り宍粟市の南部までが晴れのようだった。県道429号線を走って上ノ地区に向かう。路肩の雪は少しずつ増えて、中野地区を通る頃には路面にも見られるようになった。上ノ上で大国農場への県道546号線に入ると、途端に雪が増えてきた。但し除雪されていたので、スタッドレス車なら問題無く進んで行けそうだった。ただ奥に向かうほどに路面が凍結してきて、ABSが作動するようになった。そしてもうそろそろ大国農場ではと思われたとき坂の傾斜が少しきつくなると、そこでタイヤが空転してしまった。四駆なら問題無く進めるのだが、無理はしたくなく、車の駐車出来そうな場所まで戻ることにした。そうなると路肩は雪とあって駐車に適した場所が見当たらず、とうとうキャンプ場のような所まで戻ってしまった。大国農場まで3kmはありそうだったが、これも足慣らしと思ってその距離を歩くことにした。ところが歩き出して数分後に除雪車が現れたのは皮肉だった。車道歩きと決めたので、そのまま歩いて行った。凍った所は滑らないようにと気を付けたため、少し歩度は遅かった。1kmほど歩くと延ヶ滝のそばを通った。小ぶりな滝だったが、暫し足を止めてその奔流を眺めた。道の雪は山かげでは多く残っていたものの、除雪の後だけにもう四駆で無くとも進めそうだった。白い建物が現れてその先で大国橋を渡ると、大国農場が見えてきた。歩き始めてから50分だった。空に雲は少し増えていたが、大国農場はちょうど陽射しに包まれていた。その先から黒尾山林道が始まるが、除雪は林道の起点までだった。林道入口にはクサリが張られており、その先はただ雪面が広がるのみ。トレースは無く、雪の量は30cmはありそうだった。ここでスノーシューを付けることにしたが、このときスパッツを忘れていることに気が付いた。ちょっと困ったと思ったが、スノーシューがあれば大丈夫だろうと、気にしないことにした。いざ歩き出すと、新雪だけにスノーシューを履いていても20cm近く潜った。これはちょっと疲れることになりそうだったが、歩幅を短くして一歩一歩をていねいに歩いて行った。林道が緩やかに続いてくれるのは良かった。雲が多くなったとは言え、陽射しが雪面を照らすときがあり、そのときはけっこうまぶしかった。ただひたすら林道歩きを続けるのは足が重い上に少々退屈なことだったが、慰めになるのが動物の足跡だった。シカであったりトリであったりウサギであったりと、どの動物のものかと推測するのも雪山の楽しみの一つだった。林道上の雪は増えたり減ったりすることがあり、登山口が近づいたとき10cm近くまで減ったときがあった。これは助かったと思うと、途端に増えてきて、また足が重くなってきたとき登山口に着いた。登山道はすっかり雪の下のため、標識が無ければ通り過ぎるところだった。登山道が見えないため目印テープのみが頼りだった。雪まみれにながら登っていると、すぐにコースがはっきりしてきた。もうコースのままに登って行くだけだった。左手の木々を通して山頂の電波塔が見えると、まだ少し距離があった。東へと登って山頂から南に延びる尾根に合流した。その位置は南への展望が良く、意外な近さで瀬戸内海が眺められた。その展望地を過ぎると樹林帯に入った。その辺りで積雪は50cmほどか。どの木も雪をまとっており、雪山の雰囲気は十分だった。ただ霧氷となった木は見られなかった。登るほどに木に付く雪が増えてきた。傾斜もあるためけっこう足が重たくなって歩度が落ちてきたとき、忽然と電波塔が現れた。山頂に立つ廃墟となった電波塔だった。それを見て少しは足が軽くなり、いそいそと山頂に着いてみると、そこは静寂の世界だった。誰かは安積側から登っていると思っていたのだが、足跡一つ無い無垢の雪面が広がっているだけだった。上空には黒い雲があるも南の方向は晴れているため、山頂は陽射しに照らされていた。風もほとんど無く、暖かい山頂だった。漸く着いたことで、ただほっとする思いだった。北の方向は雪雲が広がっており、視界は閉ざされていた。かろうじて東山が見える程度だったので、黒尾山を登ったのは正解だったようである。視界の良いのは東から南にかけてで、そちらの展望を楽しみながら昼食とした。そのうちに陽射しがあるのに、雪がちらつきだした。北の雪雲から流れて来ているようだった。その北を見ていると、雪雲の薄れるときがあって、植松山が見えたり、一山が見えたりした。雪雲は薄いようだった。その雪雲が上空を越えて南へと流れ出すと、陽射しが遮られるようになった。それをしおに下山に移った。下山では林道に出るまではときおり陽射しを受けたが、林道歩きに入ると常に曇り空の下、小雪がちらつく中だった。小雪の振り方が少し強くなることがあったが、下山は自分が付けたトレースを辿るだけなので、なんとも気楽だった。その小雪も林道を下り終えて大国農場が見えて来ると止むことになった。その後は天気はどんどん良くなり、明るい中を県道546号線を歩いた。既に雪は緩んでおり、この車道が緩い下り坂でもあるので、少しばかり駆け足をしたりしながら下ると、けっこう時間が短縮出来て、大国農場から35分ぐらいで駐車地点に戻ってきた。2011年の冬山第一番は、新雪を踏む楽しさを十分に味わっての終了となった。
(2011/1記)(2021/5改訂) |