フォレストステーション波賀からの登山道で東山を登る東山尾根コースは、雪の季節に何度か利用したが、尾根に出たときにまず捜すのは、北隣の一山の姿だった。千メートル峰にしては小さく見えるが、その山頂の西から北にかけての笹地は雪の季節とあって真っ白になっており、樹林の緑と好対照になって、まるでヒゲを生やした人の頭のようにも見ることが出来た。その一山を眺めて一息入れたところで、東山山頂を目指して雪道歩きを続けるのだった。
その一山を無雪期は1993年10月に、雪の季節は1998年1月に登ったが、どちらのときも山頂からの展望の良さには感心させられらた。ただ登山として楽しめたかと言うと、1993年は林道を歩いたこともあって、簡単に登れ過ぎたきらいがあり、冬は雪に足を取られてばかりで、尾根歩きを楽しんでいたとは言えなかった。そのため山頂の展望の良さには惹かれるものはあったが、もう一度との気持ちはなかなか起きて来なかった。それが2006年6月に入ってのこと、最近ご無沙汰している兵庫の千メートル峰は何かと考えたとき、この一山を思い出した。そこで久々でもあり、コースを変えればまた新鮮な気持ちで登れるのではと思えて地図を開いてみた。そしてすっと目に飛び込んで来たのが、山頂から南西に延びる尾根だった。その尾根端は国道429号線に接しており、そこからの標高差は500mほどあるので、じっくりと登れそうだった。また下山は山頂から北西に下れば林道に出て、その林道は国道429号線に繋がっている。これまでの二度の登山が一宮町側からだったが、このルートなら波賀町側から登ることになり、是非このルートで登りたくなった。こうと決めると、その週末となる24日にさっそく一山を目指した。この日は前日の梅雨空と替わって、淡いながらも青空が広がっていた。どうやら好天は一日中続きそうで、梅雨の中休みと言えそうだった。宍粟市波賀町に入り、水谷地区で国道29号線を離れると、後は国道429号線で高野峠へと向かった。フォレストステーション波賀への道が分かれると、国道の道幅は狭くなり急カーブが現れた。そこを過ぎて次の急カーブが近づいたとき、路肩に広い駐車スペースが見えた。その位置は目指していた南西尾根の始まる所でもあり、帰路として考えている林道の起点も近いとあって、そこに駐車とした。すぐに南西尾根に取り付いた。地図をよく見ておらず、緩やかなままに尾根は始まると考えていたのだが、けっこう急斜面で、いきなり踏ん張っての登りとなった。それも50mほど登ると、一気に緩やかになった。尾根に小径は無かったが、下草も少なく木々も空いてぐんと歩き易くなった。尾根は植林が主体で展望の無いまま尾根なりに登って行くと、地図の800m標高点を過ぎた頃に北の方向が明るくなった。そちらに近づくと伐採地が広がっており、北の阿舎利山が大きく見えていた。尾根登りを続けると、伐採地は尾根に接するようになり、一気に展望が広がった。阿舎利山だけでなく、その右手には三久安山が覗いていた。そして行く手の北東方向には一山の山頂がすっきりと見えていた。やがてネット沿いを歩くようになると、更に展望は良くなり、藤無山も見えて来た。西の方向を振り返ると、植松山から三室山の尾根も見えていた。伐採地はその後の植林が行われていないために腰丈までの笹地になっているのだが、そこにイバラや灌木が混じっておりけっして歩き易いとは言えなかった。そこで笹地に入ったり樹林の中を歩いたりと、歩き易い所を選んで登って行った。ネットは古くなって倒れていたり切れているため、気にせず登って行けた。一度ケモノ道に出会ったが、それは長くは続かなかった。標高が900mに近づき出して尾根が北へと向きを変えると、そこは尾根の途中としては一番の展望地で、西から北にかけて何一つ遮るものの無い展望が広がった。そこはイバラも減ってただ笹原を歩くだけとなり、登るだけでも感じの良い所だった。尾根が再び北東方向へと向かい出して傾斜が少しきつくなりだすと、笹原を離れて右手の植林帯を歩くことにした。そこは展示林とあって整然としており、また涼しさもあって気楽な感じで登って行けた。そして尾根の傾斜が緩くなって山頂部が近づくと、木々は自然林の佇まいとなって森を歩いている雰囲気となった。そしてその森を抜けて再び広い伐採地に出ると、もう山頂は目前だった。後は裸地の目立つ尾根を登って山頂に立った。こうして登山道の無い尾根を2時間以上かけて登ったわけだったが、そんなに時間がかかったと思えなかったのは、尾根に変化があり展望もあって面白かったからだろう。山頂がまた良い雰囲気だった。回りは笹地が広がり、涼しいばかりの風が吹いており、まさに伸びやかな高原に立つ思いだった。そして一級の展望が広がっていた。西には黒尾山から植松山、三室山と続き、うっすらと氷ノ山も見えている。北は間近に阿舎利山、そして三久安山から藤無山、須留ヶ峰が並んでいる。東は笠杉山に段ヶ峰、千町ヶ峰とこれまた千メートル峰が並んで、離れて暁晴山が南東に位置を占めている。その素晴らしい眺めの中心は笹原の広がる一山である。登って来たコースが楽しかった上に、山頂では草原の雰囲気の中で広大な展望も得られて、これまでの一山のイメージは払拭されてしまった。そしてただただ良い山だと思ってしまった。その素晴らしい山頂には他に誰も居らず、ただパートナーと二人っきりである。その贅沢な雰囲気の中で昼食を済ますと、快い風に吹かれていることもあって眠気を催して来た。そこで樹林に入って横になったところ、涼しさも手伝ってか寝入ってしまった。肌寒さで目が覚めると14時前になっており、山頂に着いてから2時間近く経っていた。どうやら1時間ばかり寝ていたようだった。その間に誰も来た様子も無く、山頂はひたすら静かで、ひたすら柔らかな陽射しが注いでいた。いつまでも山頂に居たかったが、時間も遅くなることでもあり下山とした。下山は西側に走る林道を目指してまず北西方向に下ることにした。その方向には笹原の中にうまく小径が続いていたので、それを辿ると大展望を見ながらの下りとなった。そのまま鞍部まで行けるのではと期待していたが、小径はすぐに不確かになってしまった。そこでそばに見えた北西方向への尾根に取り付いて、その尾根なりに下ることにした。尾根は植林地だったが、枝打ちがされておらず、その枝がけっこう煩わしかった。そのまま鞍部へと近づくと害獣避けネットに出会い、後はそのネット沿いに西方向に歩いて行った。程なく左手に広く伐採地が現れると、そこに作業道が見えたので、その道を目指してネットを離れた。始めは笹地の中を下っていたが、やがて一帯はタケニグサとなり、独特の匂いが漂っていた。ただ一面伐採地だけに展望は良く、その伐採地が山頂まで続いているのが見上げられた。作業道に着くと、後は林道へとその作業道を歩いて行った。作業道は伐採地を離れると樹林帯を貫いており、これは自然破壊ではと思えてしまう荒々しい道だった。その道も林道に合流して終わると、後は沢沿いの落ち着いた林道歩きとなり、沢音を聞きながら駐車地点へと戻って行った。
(2006/8記)(2010/2改訂)(2021/12改訂2) |