波賀町の赤西川源流部、音水川源流部には1000mを越す尾根が重なって、兵庫の中でも山深さを感じさせる魅惑的な山域である。しかし三角点の無い山が多くあって、どうも見過ごされがちではある。その山域を地図で眺めていると、竹呂山の東向かいにあって、裾野が広がった円錐状の山容を想像させる山が目に付いた。それが1106mピークだった。標高点のみで山名も無かったが、とにかく登ってみたくなった。訪れたのは1997年8月17日のこと。澄んだ青空に夏空に相応しい白い雲が浮かんでいた。山頂から南に真っ直ぐに尾根が延びているが、その尾根がアプローチとしては一番楽に見えた。但し標高差は600mあった。まずは赤西渓谷沿いの林道を進み、キャンプ場を少し過ぎた位置となるその尾根の末端辺りに駐車した。季節柄キャンプ場やその上流には結構キャンパーの姿が見られた。取り付き点を探していると、キャンプ場のそばから尾根に向かって遊歩道が付いていた。これを利用しようと遊歩道に入った。手頃な遊歩道で、木々には名札も付けられていた。遊歩道の距離は長くは無く、程なく尾根を離れ出した。そこでそのまま尾根を辿って行くことにした。尾根には踏み跡程度の道が付いており、傾斜もさほどきつくは無く、ゆったりとした気分で登って行けた。周囲はブナを始めとして自然林が取り囲んでおり、木々の緑が美しかった。途中より尾根道は消えたが、尾根を辿る分には問題なかった。そして標高1000m辺りよりクマザサが現れ出した。
一部では密集していたが、概ね疎らな感じだったので進むのに苦になる程では無かった。登り始めてから2時間ほどで山頂に到着した。一帯はクマザサが広がっており、その中に杉の大木が林立していた。その迫力ある姿に目を奪われた。そしてこの山頂について漸く展望を得られることになった。登っている間は木々の間から南向かいの尾根が覗ける程度だったが、山頂では西に展望が開けており、間近に竹呂山を、その遠方には後山から日名倉山にかけたが眺められた。竹呂山が見えるのなら三室山も見えるだろうと辺りを探ったが、杉木立の間から山頂部を僅かに見るにとどまった。標高1100mともなると下界の暑さとはやはり違い、山頂には快い風が吹いていた。陽が陰るとやや肌寒さも感じるほどで、憩うには適度な快適さのため、山頂に腰を落ち着けてしまった。あまりうろつかずのんびりと過ごしていると2時間ばかりはあっと言う間に経ってしまった。下山はコースを変えて西北西に延びる尾根を下って行くことにした。ところが途中よりやや北寄りに下ってしまい、目的の尾根を少し外れてしまった。そのうちに沢に下り着き、後はその沢沿いを下って行ったが、途中でその沢が滝になってしまったのは誤算だった。少々難儀するも何とか迂回して下りを続けた。林道に下り着くと、後は林道を歩いてスタート地点へと戻った。ところでこの山の名は知らなかったが、その端正な姿と裾野を赤西川が巡っていることからも、赤西山とでも呼んでみたいと思ったものだった。
(2001/12記)(2007/7改訂)(2023/3写真改訂) |