鳥取と兵庫の県境尾根の中にあって、三室山と氷ノ山の中間点にこの1200mを越える三角点ピークがある。地図では無名だが、波賀町の表記では「落折山」とあり、また「赤谷ノ頭」の名で呼ばれていたのを見たこともある。このピークは標高もあって、兵庫の高峰を目指す者は、誰しも一度は登ろうとするのではないか。この落折山に1997年11月下旬、波賀町戸倉の戸倉スキー場からの尾根で訪れた。
戸倉スキー場にある振子沢ロッヂの前に駐車した。上空は雲が多いながらも快晴と言える天気だった。スキー場はススキも刈られリフトも取り付けられて、ほぼ準備が出来ていたが、まだ雪のかけらも見られなかった。そのゲレンデを登って、まずはスキー場最高部を目指して歩いて行った。急斜面の上に刈られた草が滑り易
く、注意しながら登って行く。最高部近くに[880m]三角点が有るはずなので、暫く探してみたが見つからない。あきらめて先を急ぐ。スキー場最高部から先は、潅木とクマザサが疎らに生えた尾根となった。辺りの紅葉はとっくに終わっていた。一度鞍部に下りたが、登り直してからは緩やかな尾根で続いた。小さなピークを幾つか越して行ったが、あまり高度は上がっていかない。ときおり右手に木立を通して氷ノ山が見えていた。暫く進むとクマザサが密集し出した。ケモノ道が細々とクマザサの中を続いておりそれを辿るが、これが結構長かった。漸くそのクマザサ帯がまばらになると、下草の少ない落ち着いた落葉樹林が現れた。木漏れ日が優しく、心がなごむ風景だった。もう頂上も近いと思われた。ところがその落葉樹林も長くは続かず、最後の登りとなる辺りで、今度はネマガリダケが現れた。ここも有るか無きかのケモノ道を頼りに進んだが、ぐんと歩度は落ちた。やがて傾斜は緩くなって、ほぼ山頂は間近と思えたが、一段とネマガリダケが密集してきた。それを体全体でかき分けて進んで行く。もう山頂に着いてもおかしくないと焦り出したとき、目の前にポッカリと三角点が現れた。本当に人心地の付く思いだった。だが、そこは2m程はあるネマガリダケの茂みのまっただ中で、展望は全く無し。そばにブナの大木が1本有るのみ。展望を得るにはそのブナを登るしかないが、そのブナの太さは諦めざるを得ない太さだった。しかし周囲の眺望を見たい思いが勝った。パートナーの助力を得て必死にしがみつくと、なんとか最初の枝に取り付けて、木に登ることが出来た。そしてそこで見えたのは、思わず絶句するほどの見事な展望だった。昼となって雲はほとんど無く、視界は澄み切っていた。氷ノ山は眼前で言うに及ばず、波賀町、大屋町、一宮町、千種町の山々が、見事な青空の下に鮮やかな色合いで、その美しい姿を見せてくれた。全く言葉を失う思いだった。写真を撮ったりして、この絶景をひたすら満喫した。ただここでは昼食を採らず、同じコースを戻り、ネマガリダケを抜けて落葉樹林帯に入った所で、遅い昼とした。そして同じ道を辿って戻り、スキー場に着いた時はもう夕暮れが迫っていた。夕暮れとなって一段と空気は澄み、光りもあでやかさを増していた。そこにはこの戸倉スキー場も絶好の展望地であることを改めて認識する展望が広がっていた。暫し、夕日の作る明暗が織りなす山々のたたずまいを楽しんだ。
(2001/11記)(2005/5改訂)(2021/2改訂2) |