王子が岳は岡山県玉野市の渋川海岸に間際まで迫る山で、渋川漁港側から山頂まで遊歩道が通じている。ただし山頂へは北側から車道も通じているので、車で楽々と山頂に立てる山でもある。そのことに少し抵抗を感じたが、稜線からは瀬戸内の風景が楽しめるとのことで、それに期待して向かったのは2013年2月の風が冷たい日だった。参考にしたガイドブックは「新・分県登山ガイド 岡山県の山」。王子が岳の東側に渋川港があり、その前が駐車場になっていた。そこに車を止めたのは正午が間近に迫った時間で、駐車場から遊歩道の入口までは100メートルほどの距離だった。その登山口の位置は交差点になっており、海岸沿いを続く国道430号線から北へと車道が分岐していた。その車道が王子が岳の山頂へと続く道だった。遊歩道は階段の道になっており、登るほどに渋川港が遠くなってきた。見上げる空は澄んだ青空も見えたが、北から絶えず雲が流れており、ときに上空に広がることがあった。階段道を中腹まで登ると、足下に明るい瀬戸の風景が広がってきた。意外な近さで大槌島が見えていた。澄んだ空と青い海は、ちょっと旅情を感じさせた。階段の急坂を越すと一気に緩やかになり、最初のピークは矢出山だった。その手前も緩い階段道になっていた。ピークに立つと標識があって、登山口から700m、山頂まで1200mと記されていた。そのそばから南の方向へ脇道が分かれていた。そちらに行くと瀬戸の展望が楽しめるのではと寄り道することにした。少し入るとベンチが現れて、そこで休もうとしたとき、アクシデントが発生した。その内容はここには書けないが、その処置が終わるまで結局矢出山に一時間半ほど足止めをすることになってしまった。漸くハイキングを再開出来たもののアクシデントが少々尾を引いて、すぐにはハイキングへと気持ちが切り替わらなかった。それでも明るい空の下を歩くうちに、少しずつハイキングに集中出来るようになった。尾根は緩やかなアップダウンがあり、前方に山頂に建つ東屋が見えていた。その山頂が近づいたときに現れたのが、巨大な岩だった。二つの大きな岩とその他の小さな岩の集まりで、ニコニコ岩と呼ばれる所だった。そこからは展望があり、瀬戸の風景が一望だった。瀬戸大橋までも見えるその風景は、一級品と言えるものだった。ただ山頂も展望は良いだろうと思えて、すぐに先を目指した。そのときすぐ近くで大勢の人の声が聞こえてきたので、木立の切れ目から覗くと、山頂そばの斜面に中学生らしい子供が何十人と遊んでいるのが見えた。ニコニコ岩の先にも展望の良い所があり、ニコニコ岩と同様に瀬戸が広く眺められた。けっこう展望を楽しめる山のようだった。その先で登山道は林道に合流した。その林道を少し歩いて山頂に近づくと、パークセンターの建物に出た。そのそばはハングライダーの基地になっていた。、後は舗装された遊歩道歩きだった。もう山頂の東屋が間近に見えており、そこにも大勢の中学生が休んでいた。記念撮影も行われており、それを見ると倉敷市立西中学校の生徒のようで、「立志ウォーク」として王子が岳に来ているようだった。山頂の東屋でその中学生の動く様を見ていると、若さというのは何ともパワーがあるものだと、ちょっと感心させられた。その山頂で10分ほど佇んでいると、中学生集団は山頂を離れ出した。程なくして山頂は静かな佇まいとなった。そこで王子が岳の山頂を改めて眺めた。芝生の広がる山頂は、ニコニコ岩と同様に瀬戸の風景が眺められる絶好の展望地だった。燦々と降り注ぐ陽射しを浴びながら瀬戸の穏やかな海を眺めていると、先ほどの自殺現場が遠い過去のように思われた。その山頂で憩った後はどう戻るかだったが、ガイド本では南に下って国道沿いを歩くとしていたが、どうも車の通行する所を歩くのは気が進まず、往路を引き返すことにした。ニコニコ岩で再び展望を楽しむと、後は尾根道を東へと戻って行った。矢出山を過ぎると、後は登山口へと階段道を下って行ったが、瀬戸を見ながら下るのも悪くなかった。王子が岳は瀬戸の多島海風景を楽しむのに絶好の山だったと思いながら、駐車地点へと近づいた。
(2013/2記)(2021/3改訂) |