雪に覆われた白い山頂に立って周囲の雪山を眺めるのは、雪山登山の楽しみの一つだが、そうなると展望の良い山頂を持つ山が良い。そこで山域として後山から三室山の尾根を考えたとき、大海里峠のそばに立つ大海里山が思い出された。雪山としては2001年の3月に登っていたが、ちょうど10年が経っており再訪するのも良いのではと考えたのは2011年2月のことだった。その大海里山に登るのであれば、ついでに駒の尾山にも登ろうと考えて向かったのは2月の最終土曜日で、兵庫全域で晴れの予想された日だった。前月の1月は大雪が何度かあったが、2月に入ると天気は落ち着いてきており、大雪は聞かなくなっていた。この日、千種町に入ると、もう雪は僅かに残っているだけだった。それも西河内集落に入ると、どの家の屋根にも30センチほど雪が積もっていた。宍粟市の中でも豪雪地と言えそうだった。車は駒の尾登山口に近い公園のそばに止める。2台の車が止められる程度には除雪されていた。道路を挟んで向かい側の登山口を見ると、1メートル近い雪が積もっていた。明るい陽射しに上空を見上げると、少し薄雲が見られるものの、青い空が広がっていた。スノーシューを履いてスタートする。コースにはうっすらとトレースが付いていた。歩き出すと雪の表面は固い所が多く、あまりスノーシューは潜らなかった。このコースは一度沢を渡って左手の尾根を越すのだが、そのポイントを見過ごしてしまった。どうもトレースがはっきりせず、雪のために目印も隠れ気味だったためかと思えた。通り過ぎたのは分かったが、尾根は低いので引き返さずに、適当に乗り越えることにした。やや急斜面を10メートルほど登って尾根を越し、少し下ると予想通りに登山コースに合流した。そこにはトレースが続いていた。コースはトラバース道で、左手から沢音が聞こえていた。ごく緩やかな登り坂だったが、小さなアップダウンはあった。雪面は固い所ばかりで無く、軟らかい所もあるので、スノーシューは十分に必要な状況だった。植林地から自然林に変わるかと思うと植林地に戻ったりと、樹林は混合林として続いた。左手に木立の切れ目が出来ると、後山が眺められたり船木山が眺められたりした。その上空には薄雲が見られたので、南の空は少し悪いようだった。50分ほど歩いて、目印テープは沢筋を離れる。そして斜面の登りにかかった。目印テープは付いているものの、雪の斜面とあって登り易い所を選んで登った。途中で目印テープが見えなくなったが、気にせず登って上を目指した。そして斜面が緩くなって、県境尾根が目前になった。そこには大海里峠(大海里谷)の標識が立っており、ほぼコースに近い所を登って来られたようだった。一帯は緩やかな雪面が広がっており、西側が広く開けていた。そこに見えるのは岡山、鳥取の雪山で、遠くに一際白いのは大山だった。はっきりと見えており、この日の視界は良いようだった。そばに大海里山があったが、先に南へと駒の尾山を目指す。沢を離れたときからトレースを見なくなっていたが、県境尾根にもトレースは付いていなかった。そこで好きな所を歩いて行くことにした。新雪がうっすら積もっており、スノーシューは軽く潜る程度だった。植林の尾根は始めは緩やかだったが、すぐに傾斜が増してきた。登るほどに、尾根の木立は自然林に変わってきた。後ろを振り返ると、大海里山の山頂がすっかり白かった。急斜面を登りきると緩やかな尾根となって、点々と続く目印テープを追って進む。木立は疎らなため、ときおり空いた所からは後山の尾根だけでなく三室山も眺められた。進む方向は木立が視界を妨げていたが、それが切れたとき、一気に前方が開けた。そして避難小屋がごく近くに見えていた。一面白銀の世界は何とも伸びやかな風景で、冬の登ってこその味わいだった。ここまで来ると、霧氷をうっすら付けた木立もそこここに見られるようになった。漸く駒の尾山も当面も眺められた。その駒の尾山の緩い斜面を登って行く。そこは岡山県の領域だった。雪面にはこの日に歩かれたトレースが付いていたが、一人だけのものだった。山頂に立ったのは12時前。登山口から2時間少々だった。やはり2月は雪がたっぷりあり、山頂の山名標柱は半分以上埋まっていた。その山頂で暫く佇んでいると、岡山側から登山者が一人上がってきた。聞くと毎週来ているようで、2月だけで4回目の駒の尾山とのことだった。十分に多い雪だったが、それでも先週と比べるとだいぶ減っているようで、先週は山名標柱がほぼ隠れていたそうだった。山頂の気温は5℃で、風はほとんど無く穏やかだった。ちょうど昼どきでもあったので、周囲の風景を楽しみながら昼食とした。その広々とした展望は良かったが、どうも次第に薄雲が広がっており、青空は少なくなっていた。白い雪面と白っぽい空で、鮮やかさの乏しい風景だった。そのうちに南の薄雲が厚みを増したのか、陽射しが弱まってきた。それと共に風が出てきたので、駒の尾山山頂を離れることにした。ただそのまま大海里峠には向かわず、避難小屋の近くを散策して、まだ落ちずに残っている霧氷を少時楽しんだ。大海里峠に戻ってきて、さて次は大海里山だったが、白くなった北面が間近に見えている。その北面側は急斜面だったが、最短距離でもあるので、そのまま尾根を真っ直ぐに歩いて行くことにした。始めは植林地の緩斜面を登って行く。植林地が終わって裸木の自然林となると、急斜面に変わってきた。その斜面の雪は締まっておらず、スノーシューでも一歩一歩が大きく潜ることになった。木に掴まりながら登るが、何度もずり落ちることがあって、出来るだけ緩い斜面を見つけながら右に左にとコースを変えながら登った。その斜面が緩やかになり木立が減ってきて、前面はただ真っ白な雪面だけとなった。そのピークに出ると、そこが山頂では無く、前方に一段高くなった所が山頂だった。もう緩やかな尾根で、楽なものだった。その手前のピークに着いたとき、突然のようにトレースが現れた。スキーのトレースで、北側からここまで歩いてきて引き返したようだった。僅かな時間で大海里山の山頂に立つ。山頂は無雪期はカヤト類が意外と視界を妨げているが、冬ともなればそれらはすっかり雪の下となるので、すこぶる展望は良かった。先ほどまでいた駒の尾山に負けていない素晴らしい展望の山頂だった。その駒の尾山は南に見上げるようにして眺められた。後山からここを通って三室山まで続く県境尾根、そして岡山、鳥取の雪山と、ここでも思いっきり展望を楽しんだ。二つのピークに立てたことで十分な思いとなり、下山に向かうことにした。大海里峠までの急斜面を下るのは、スノーシューを履いていては危険なので、スノーシューを脱いでツボ足で下ることにした。滑り落ちるようにして下ると、ごく僅かな時間で急斜面を下りきった。後は再びスノーシューで雪面を歩く。大海里峠からの下山は、ほぼ忠実に登山コースを辿った。自分が付けたトレースと赤テープの目印を追ってで、最初の斜面を下った後は楽だった。その下山路の最後が近づいたとき、朝の登りでコースを外れたのはどこかと注意していると、往路で越えた小さな尾根は、ほぼ水平に歩いて回り込み、そして小さな沢に架かる小橋を渡って樹林間の道に出た。どうやら小橋が雪を被っていたために、それを見落として進んでしまったようだった。もう県道72号線は目と鼻の先の距離だった。
ところでこの日の駒の尾山、大海里山では、駒の尾山の山頂で一名、避難小屋付近で一名の登山者と出会っただけだった。穏やかな天気で、十分に雪山を楽しめると言うのに、ごく僅かな人しか楽しまないのは、何とももったいないことだと思わずにはいられなかった。
(2011/3記)(2021/3改訂) |