中国山地で特別な存在は何と言っても大山で、その有名さには第二も第三も無いが、そのそばにある烏ヶ山も実に堂々とした山で、その鋭い風貌は人を惹きつける魅力を持っている。ただあまりにも大山に近すぎて、見る角度では大山の中に溶け込んでしまい、その存在すら見落としがちになってしまう。ちょっと不幸な山とも言えるかもしれない。
この烏ヶ山を訪れたのは1996年10月半ば。朝から雲一つ無く、年に数度と無さそうな透明感のある澄み切った空が広がっていた。また風は涼やかそのもので、風に吹かれているだけで楽しくなる日だった。スタート地点は大山鏡ヶ成にある国民休暇村の駐車場。この日は平日とあって、絶好の日和でしかも紅葉が始まっていたにもかかわらず、人出は少なかった。駐車場から新小屋峠までは自動車道を歩く。そして峠からはブナ林に取り囲まれた尾根道が始まった。ブナは黄色く色づいており、それを眺めながらの登山だった。また落ち葉の踏み心地も良かった。その尾根の勾配が次第にきつくなって来たが、紅葉の美しさと爽やかな空気に、勾配も気にせず登って行けた。登るほどに大山が姿を見せて来た。やはり迫力ある姿だった。急坂を登り切ると一気に展望が良くなった。烏ヶ山の鋭い山頂と共に大山が全貌を見せている。まずは烏ヶ山山頂を目指す。遠くからは鋭角的に見える山頂も、いざ登ってみると特に問題もなく山頂に立てた。そしてそこは大山の最高の展望地。大山がまさに壁となって眼前に聳えていた。そして大山の裾野を見ると、そこは樹海となっており、今が紅葉の盛りで鮮やかな色あいを見せていた。暫しこの風景に圧倒されて、ひたすら眺めるだけだった。風景として一級品と言えそうだった。この山頂からは北に日本海、南は岡山県との県境尾根、東は蒜山と、大山以外にも十分に満足できる展望があり、もう下山するのが惜しく、2時間ばかりを山頂で過ごしてしまった。そして14時を回ったところでようやく下山とした。下山はカーラ谷へのコースをとる。こちらもブナの色づきが美しく、なかなかの展望コースだった。高度による紅葉の変化も面白かった。急坂とあって一気に標高を下げて行くが、それがもったいなく、出来るだけゆっくりと下って行った。それでも下山を終えてみると、1時間半とかからず駐車場に戻っていた。本当に登山としては最高の一日を過ごせて、大満足の想いで帰路についた。
(2005/10記)(2012/6改訂) |