鹿児島県に縁遠い者にとっては分県登山ガイドの「鹿児島県の山」は有りがたい本である。2002年12月15日の日曜日はハイキングに長い時間が使えないこととなり、そこで短い時間で気軽に尾根歩きを楽しめ山として、この本を頼りに白鹿岳を選んだ。西麓の池ノ段集落からの林道を歩き始めると、辺りは最初こそ植林地だったが、登山口から尾根への登りとなって周囲は照葉樹林が占めるようになった。尾根上に出ると道は緩くなり、美しい森と相まって長閑な尾根歩きと言った雰囲気は悪くはなかった。途中では展望も現れて、大きく霧島連山が眺められた。そのままガイド本通りに静かなまま山頂へ歩けるものと考えていたのだが、中ほどで様子が一変した。北側から真新しい舗装路(林道・白鹿岳線)が延びて来ていたのである。この道が尾根沿いにどうやら山頂に向かっていた。そうなるとこの舗装路を歩くしかなかった。中央に白線も引かれて町中の道を歩いているようなもので、味気ないハイキングになってしまった。そして山頂に着くと、一帯は公園になっており、中央にはどでかい展望台まで作られていた。丁度おじいさんが孫といっしょに車で来ていたが、山頂に来たというよりも、公園で遊ぼうと孫を連れて来たといった様子だった。何とも様変わりしたものである。物静かな雑木の山頂に立つ期待は見事に裏切られてしまった。それでも展望台に上がってみた。大きな展望台だったが、北西から北にかけては喬木が多くあってそちらの展望は無かった。眺められたの南西方向だったが、モヤの強い視界になっており、風景は薄ぼんやりとしていた。それでもうっすらと桜島が遠望された。但しその桜島も中腹から上は雲に隠されていた。また高隈山地も桜島同様、モノトーンの色合いでうっすらとしか見えていなかった。一通りの展望を楽しんだものの、がっかりとした気持ちは消えず、その気持ちのまま往路を辿って帰路に着いた。その下山時のことだったが、舗装路を歩いていたときに出会った人に言われてしまった。「この山は登山する山じゃないよ」と。本が出版されて5年経っていたのだが、すっかり山が変わっていたとは思いもよらなかった。
(2003/2記)(2014/8改訂)(2022/6写真改訂) |