赤穂市の山はどの山も低山ながら、急峻な山、なだらかな丘としての山、史跡を訪ねる山と、いろいろと楽しめて低山散策には悪くない地域である。2009年の年末に赤穂市の市街地北部に広がる丘陵地帯の一ピーク、稲荷山を南側からのルートで登ったが、はっきりとした登山道がずっと続いていることが分かった。その日は稲荷山までのピストンで終えたが、登山道はその先も続いていることが分かった。その稲荷山登山で参考にしたのが「花と緑の山歩道」。帰宅後改めて読むと、その北への道は更に二手に分かれて、一つは千種川へと近づいて真殿地区まで続いており、もう一つは水晶山の尾根へ繋がっているようだった。その二つのコースを比べたとき、真殿へのコースは途中で真殿山を通ることになり、山歩きとして楽しむのなら、次はこちらのコースが面白そうに思えた。それを実行したのが三週間後の2010年1月の第2土曜日だった。北麓の林集落から尾根伝いで登って、まずは真殿山の山頂に立ち、道も良く雰囲気も良ければそのまま稲荷山まで歩いてみようと考えた。
この日は風も無く、白い雲が点々と浮かぶ穏やかな晴れだった。千種川の右岸道路を南下して林集落に入った。集落内の細い道を抜けて行くと、見覚えのある小さな祠が建つ位置に出た。この日は林集落の南の尾根を登るのだが、ここを2006年に水晶山を登るときに歩いたことを思い出した。祠の前に数台程度なら止められるスペースがあり、そこに駐車とした。車の外に出ると、外気の冷たさに身震いした。気温を見ると1℃だった。やはり朝の山陰は冷え込みがきついようだった。「花と緑の山歩道」によると巡視路で登って行けそうだったので、それを探すことから始めることにした。山裾には害獣避けの柵が巡っており、柵に沿って歩けるようになっていた。柵沿いを歩きながら山裾に注意していると、すぐに巡視路の入口が見えた。ただ柵にゲートが見えなかったので、不安定な柵を越すのが少々面倒だった。巡視路はごく普通の山道として始まっていた。落ち葉が積もっていたので、滑らないように注意しながら登った。少し登ると尾根に出て、後は真っ直ぐ尾根を登って行く。その尾根道に沿って共同アンテナのケーブルが付けられており、それがけっこう低い位置だったので、ひっかからないようにと気を使った。尾根の道はけっこう急坂になっており、一所懸命登ることになったが、冬の日は体が温まることになり、むしろ気持ち良く登って行けた。後ろを見ると、林集落が朝日に明るく見えていた。また千種川流域も眺められた。尾根の途中で鉄塔に出会うと、それは関西電力のもので、赤穂火力線の21番鉄塔だった。先日登った稲荷山山頂の鉄塔は同じ赤穂火力線の17番鉄塔だったので、その送電線がここまで続いているようだった。むしろ今歩いている道が赤穂火力線用の巡視路として作られているので、当然稲荷山まで続くことになる。その鉄塔からは千種川の対岸、川向山の尾根が間近く眺められた。そこで暫し足を止めたが、その鉄塔の位置より少し登ると登山道のそばに露岩が現れて、そこからは更なる展望が広がっていた。千種川流域が一段と広く眺められた。尾根には高い木は見られないので、展望は悪くない尾根と言えそうだった。尾根はずっと急坂として続き、ひと汗かいて登りきると、道そばに三角点(点名・門前奥)を見た。ただ三角点の位置はピークでは無く、ピークはその先、1メートルほど高い位置だった。そのピークは灌木に囲まれていたが、よく見ると南の位置で裸地になった所があり、ちょっとヤブをかき分けて立ってみるとそこからは広く南の風景が眺められた。陽射しの暖かさもあって小休止とした。この後は稲荷山のある準平原部までに三つのピークを越すことになる。尾根歩きを再開すると始めに20番鉄塔の建つ位置を通ったが、その先に三角形の姿の良いピークが現れた。白い尾根道が緑の中に目立っていた。その小ピークを越えると、更に姿の良いピークが現れた。露岩も見えてちょっとしたミニアルプスの雰囲気だった。また山水画に見る風景とも言えそうだった。それが真殿山だった。麓から眺めたときは単なる小ピークにしか見えていなかったのだが、近づくほどに姿の良さが際だってきた。ただごく小さな山なので、山頂に立つのはすぐだった。すぐと言ってもけっこう急坂になっており、地肌がもろいために滑り易く、登るのに慎重さを必要とした。この真殿山の山頂に立ったときに、大きな雲が陽を遮ってしまった。真殿山でこそ明るい陽射しを受けたいと考えていたので暫く待ってみると、結局30分近くも留まってしまった。漸く陽射しを受けて満足したときが11時半前。ハイキングとしてまだたっぷり時間があったので、予定通り稲荷山を目指すことにした。次の244mピークは真殿山よりも少し高かったが、同じく鋭い姿をしているものの登るのはいたって簡単で、単なる一ピークを踏む雰囲気だった。その244mピークから一度30メートルほど下り、それを50メートルほど登り返すと、緩やかな地形となった。真殿準平原に出たようだった。前回の稲荷山は南側から登ったため、真殿準平原の展望は少いとの印象を受けていたが、北側からだとそのようのことは無く、まずまず展望に恵まれた。西に黒鉄山の尾根がすっきりと見えていた。また道は起伏が少ないとあって、いたって歩き易く、全くの散策気分だった。18番鉄塔に立ち寄った後に道は二手に分かれて、稲荷山に向かう南の方向への道とは別に、もう一つは西の方向に向かっていた。それが水晶山に続く道のようだった。244mピークを離れてから30分ほどで稲荷山に到着となった。ここに着いて始めて小豆島を眺められることになったが、三週間前に来たときと比べると、薄ぼんやりとした見え方だった。ここから見る千種川流域の山並みもややうっすらとしていた。次第に北から雲が増えていたが、どうやらその影響で視界もややうっすらとし出したようだった。この稲荷山山頂で昼休憩としたが、陽射しは雲に隠されている時間の方が多くなっていた。その雲の多い空を見て、稲荷山は20分ほどで切り上げることにした。ここからは単純に歩いてきた道を引き返すことにした。この帰路では特に休みを取らず、ごく普通のペースで歩いて行った。やはり真殿山を中心とした小ピーク群は、露岩が多くあって、風景としても歩くのも面白いと改めて思った。三角点のある223mピークからは急坂のため少しピッチが上がったが、そうなるとどんどん麓が近づいて、結局稲荷山から林集落の登山口まで1時間少々で戻ってしまった。前回は南の方向から稲荷山までのピストンを、この日は北から真殿山経由で稲荷山までのピストンと、2回に分けて真殿の準平原部を歩いたことになる。2台の車を使えば、北の真殿から南の大津までの縦走が出来ることになり、雄鷹台山から高山までのハイキングコースに負けない、高レベルのハイキングコースであることを確信した。
(2010/1記)(2021/10改訂) |