この山の名を始めは知々見山として知ったのだが、その名を目にしたのは「浜坂町城砦遺跡調査概要」と言う浜坂町の資料の中のことで、諸寄の知々見山及び愛宕山の踏査状況としての項からだった。また城跡調査のため、西麓の八坂神社から登ったとあった。この知々見山の北向かいには城山がありその城山のハイキングを考えたとき、どちらもごく低山だったので二つの山を一日で登ろうと考えた。向かったのは2010年4月の第一日曜日のことで、最初に登った城山は桜の見頃を迎えていた。その城山のハイキングがけっこう見所があり、矢城ヶ鼻灯台を訪れたりしているうちに、すっかり午後の時間になってしまった。そして城山だけで十分に満足の思いになってしまった。そうなると知々見山への気持ちが薄らいでしまい、無理をして登ることもないと、この日はあっさりと城山だけで帰路についた。ただせっかくそばまで行っていたのに、登ってこなかったことが少々心の中にひっかかった。そこでその気持ちに整理をつけようと同じ月の最後の日に、改めて知々見山を目指した。
この日は雲が多いものの、まずまずの晴れで、少し視界がうっすらしている程度だった。登るコースとしては西麓の八坂神社からしか考えていなかったので、車は諸寄の集落から少し離れた県道262号線のそばとした。JR線路に近い位置だった。線路沿いを細い道が集落へと続いており、それを歩いて行った。集落へと入り八坂神社に近づくと、集落と神社の間をJR山陰線が横切っていた。神社に行くにはその線路を渡らなければならないが、何と渡る位置に横断禁止の標識が立っていた。どうも矛盾しているが、標識は安全を促す注意書きと考えて線路を渡った。石段を登って八坂神社に着くと、そこから山上に向かう小径は特に見られなかった。尾根なりに登って行こうと、神社の裏手より斜面に取り付いた。やや急傾斜ながらも下生えが少ないため、特に無理もなく登って行けた。自然と尾根を登るようになり、その尾根は東に向かっていた。そのうちに陽射しを良く受けるようになるとササが下生えとして増えてきて、ちょっとヤブコギ状態になってきた。まだ山頂まで距離があるのに、このまま難儀が続くのかと気が重くなり出したとき、北からの尾根に合流した。その尾根には目印テープがあり尾根道が続いていた。これで一気に楽になって、足をスムーズに運べるようになった。スムーズと言っても尾根の傾斜はけっこうきつめで、ロープも張られていたので、足下に注意は必要だった。その急傾斜の尾根が山頂が近づいて緩くなると、広々とした所が現れた。漸く城跡の雰囲気が感じられる所に着いたようで、そこには立派な展望台も作られていた。さっそく上がってみると、足下には諸寄の港が見えており城山が対峙していた。そしてその先は日本海が広がっていた。その何とも伸びやかな展望にうれしくなってしまった。北からの風には少し冷たさがあったが、それが気にならないほど展望を楽しんだ。その展望台からほんの目と鼻の先が三等三角点のある山頂だった。そして山名標識も立っていたが、そこに書かれている名は「千々見山」とあった。知々見山の名がなぜ千々見山になったのか分からないが、山頂の展望に相応しいこちらの漢字を使うことにしたのかも知れない。その山頂からは更に南へと登山道は延びており、そちらはもう遊歩道と呼べそうな道だった。道幅は広く、階段状に整備されていた。この千々見山の山頂に立てば、後は登ってきたコースを引き返すことで終わろうかと考えていたのだが、その南へと続く遊歩道に興味を持った。そこで小さな山でもあるので、一度南の登山口まで下ってしまうことにした。緩やかな下り坂で遊歩道は始まっており、その先で緩やかに登り返した。小さなピークに着いたが、その先も尾根の遊歩道は階段状の道としてずっと続いていた。その尾根の形に城跡を持つ山の雰囲気が感じられたが、ごく小さな城だったように思えた。その遊歩道を囲む木々は新緑の盛りで、若葉が清々しかった。ときおり展望が現れて、北東に観音山がすっきりと眺められた。また歩くうちに前方も開けて、南向かいの三成山が堂々と見上げるばかりに眺められた。尾根は緩やかな起伏を繰り返して南へと続き、そしてやや急な下り坂が始まった。どこに下り着くのかと興味を持っていると、麓までは下りず尾根の峠の位置を横切る林道に合流して終わった。そこには登山口の標識が立っていた。持っていた「浜坂」の地図は古いためか林道は載っていなかったが、西は奥町側から来ているようだった。東はどこへ続くのかと思っていると、そちらからダンプカーが上がってきた。そして峠の位置までは来ず、北へと分かれている支林道へと入って行った。ダンプカーが来るほどなので、浜坂の町へと通じているものと思われた。これで遊歩道の起点が分かったが、ちょっと里から離れ過ぎているように思えた。林道を西へと下っていけば大回りとなるものの駐車地点に戻れそうだったが、今度は千々見山の北コースの起点が知りたく、再びハイキングコースを歩いて山頂を目指すことにした。30分ほどで山頂に戻って来ると、再び展望台に上がって日本海の風景を楽しんだ。そしておもむろに北への下りを開始した。ロープの張られている急坂を下って、ヤブ尾根との合流点の先が初めて歩く道だった。尾根は緩やかになって、途中では平坦な所も現れた。そして少し上り坂の先に社が建っていた。愛宕神社だったが、その名からここが愛宕山ではと思えた。地形的に物見をする所だったのではと思えたが、今はすっかり木々が周囲を囲んでいた。この愛宕神社までは人の訪れが多いのか、その先は古くからの参道の雰囲気となって、ごく歩き易い道となった。つづら折れで坂は続いており、ときおり右手の木々の切れ目から諸寄港が眺められた。そして下り着いた所は明星保育園のそばであり、諸寄駅のまさに駅前だった。千々見山は駅からすぐにハイキングを始められる山だったようで、これはちょっとした驚きだった。後は駅から続く諸寄集落の中を抜けて行くと、10分ほどで駐車地点に戻り着いた。
(2010/6記)(2021/10改訂) |