TAJIHM の 兵庫の山めぐり <中播磨 
 
嫦峨山  (嫦娥山) 265.7m たつの市
 じょうがやま
1/2.5万地図 : 網干
 
【2006年2月】 No.4 2006-13(TAJI&HM)
 
    雄鷹台山から仏ヶ台山へと続く尾根より  2003 / 3

 嫦峨山とは雅な響きであるが、「嫦峨」が何を意味するのかと事典を見ても載っていない。「嫦娥」ならあり、こちらは中国の伝説に出てくる美女のこととも月の異名のこととも記されていた。「嫦峨」も同じ意味を表しながらも、山のイメージを出すために「峨」の字を当てたものであろうか。初めて登ったのは1994年4月のことだったが、道も分からず、屋津坂から歩き始めて南西尾根の端近くに出て、そこからはヤブコギをしながら尾根を適当に登って山頂に立ったものだが、道中も山頂も展望は今一つで、ヤブ山の印象が強かった。それが近年は御津山脈の尾根が整備されて、程良いハイキングコースが出来、嫦峨山の山頂にも気軽に立てるようになったのはうれしいことである。ところでこの嫦峨山の南麓には、播州室津港がある。今はたつの市御津町の一漁村でしかないが、江戸時代には瀬戸内の重要港として参勤交代の港としても使われて、栄華を誇っていたものである。その室津の歴史や文化を紹介する雑誌として「むろのつ」が不定期で刊行されているが、その一冊を覗いたとき、嫦峨山の方向から写したと思われる、室津の古い家並みの写真が載っていた。今よりもいっそう整然とした家並みで、古き日本の美しさを見た思いだった。そこで同じように嫦峨山から室津を眺めてみたいとの思いが湧いてきた。思い立つとすぐに行動に移した。昼に図書館で見たのだが、午後にはもう室津へ向かったものである。2006年2月の第一日曜日のことだった。
 この日は朝から快晴の空だったが、午後に入って少し雲が増えていた。それでもまだまだ良い天気で、視界も澄んで、どの山もくっきりと見えていた。嫦峨山には簡単に登って、後は室津の方向へ展望を求めながらゆっくり下ろうと考えた。そこで駐車地点は屋津坂峠とした。北からだとダイセル化学工業のそばを抜けてごく簡単に峠まで車で来ることが出来る。そこは嫦峨山の登山口でもあり、2台分ほどの駐車スペースもあって、そこに駐車とした。2年ぶりに登ることになったが、その道は御津山脈の縦走路であり、以前よりも更に歩き易くなっていた。人の訪れが増えて、よく踏まれて来たためであろう。また以前には見られなかったものとして、登山道と平行して山頂へと続く柵が見られた。柵内はダイセル化学工業の敷地のようで、不審者を警戒してのものだろうか。会社にとっては大きな出費だったと思われる。登山道には的確に赤テープが付けられており、ごく気楽に山頂へと向かって行けた。山頂が近づくと道幅が広くなり、そこから振り返ると、雄鷹台山の尾根を眺められた。そして山頂へ。山頂も前回に比べて整備が進んだようで、下草も少なく、木々が疎らに生えるのどかな風景が広がっていた。そして冬枯れの木々の向こうには瀬戸内海が望まれた。但し、それは室津の方向では無く、西の方向で、新舞子から網干にかけての海岸線の風景だった。昼時であれば、ここでのんびりと昼飯を楽しみたいところである。ここからはいよいよ室津の家並みを眺めるべく、南へと向かう小径を辿ることにした。ひと一人分の幅で続く小径は、少し多いのではと思えるほど赤テープが付けられており、問題なく下って行けた。ただ展望は最初に大浦湾が見えただけで、後は雑木林の中の下りが続いて、展望は開けそうもなかった。一度、小径からは少し離れていたが、木々の空いた所があったので、少しヤブをこいで近づいてみた。そこからはすっきりと瀬戸内海が見えていたが、室津はと言えば、北東側から眺めることになり、港を見ることは出来なかった。小径に戻って下りを続けて行くが、また木々の中となって、展望の無い薄暗い道を下ることになった。麓が近づくと竹林が鬱蒼とし出し、もうこの小径からは展望は得られないのではと思えだした頃、林を抜けて畑地のそばを通ることになった。まさにそこから室津の家並みが眺められた。港も見えている。もう国道が近かったが、家並みを俯瞰出来て、漸く思いを叶えることが出来た。そこを過ぎると住宅が現れて、国道250号線に下り着いた。その合流点には、小さく「嫦峨山登山口」と標識が付いていた。もう16時が近くなっており、室津の町中を散歩するほどの時間は無いので、駐車地点へと戻ることにした。そうなると屋津坂口まで国道沿いを歩いていかなければならない。最初は歩道が有ったが、すぐに終わり、その後は路肩歩きとなった。これは少々憂鬱なことだったが仕方がない、と思いながら歩いていると、すぐに「室津街道入口」の標識が現れた。室津街道と言えば、鳩が峰に続く道で、江戸時代には参勤の道としても使われた由緒ある道である。整備されたとは聞いていたが、まさかそこが入口だったとは知らず、喜んで室津街道に入った。道はいきなり坂道で始まり、再び山登りをするような感じで山中へと入った。始めは竹林の中を続いていたが、道が緩やかになってくると、辺りは次第に雑木林へと変わって行った。途中では広く開けた所も現れ、ミカンの木が実を付けていた。また風格のあるクスノキの大木も立っていた。そこを過ぎると道は嫦峨山の西側へと出て、屋津坂を少し下に見ながら平行して続くようになった。道の周囲は穏やかな雑木林で、落ち着きのある良い風情だった。展望もあって、大浦湾の姿や雄鷹台山の尾根も望まれた。優しげな風景に囲まれて、そののどかな道を歩いていると、なぜか江戸時代にタイムスリップしたような錯覚さえ覚えさせられた。やがて鳩が峰で屋津坂峠からの登山道に合流して、現実に戻された。もうそこから駐車地点までは僅かな距離だった。この日は午後も3時に近い時間からのハイキングだったが、いろいろな風景や気持ちの良い小径に出会えて、ちょっとした小旅行をしたようで、得をした気分にさせられた。
(2006/2記)(2011/4追記)(2021/1改訂)(2024/4写真改訂)
<登山日> 2006年2月5日 14:32スタート/14:50〜15:10嫦峨山/15:46室津側登山口/16:25鳩が峰/16:30エンド。
(天気) この日の午前は素晴らしい快晴だったが、午後は雲が増えて来る。夕方には西の空より薄雲が広がって来た。風はほとんど無く、陽射しが快かった。気温は低めで、木陰では5℃ほど、陽射しの中でも7℃ほどだった。視界はくっきりとしていた。
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屋津坂の峠に駐車した そのそばに嫦峨山の登山口があった 登山道より北はダイセル化学の敷地のため、柵が作られていた 山頂が近づいた頃、登山口の方向を振り返った
山頂のササは刈られて、すっきりとした雰囲気になっていた 縦走路が北東に続いているのを見る 山頂を少し離れて眺める 雑木は葉を落としており明るい陽射しを浴びた

山頂から少し東に
下ると家島諸島が
眺められた

山頂からは南東方
向の展望が良かっ


室津の町へと下り
出すと、すぐに大
浦湾を見た

中腹辺りで小径か
ら少し離れた位置
に立つと、家島諸
島が眺められた
家島を大きく見る 下山は室津への道に入った 常緑樹林帯を抜けて行く 麓が近づくと、木々を抜け出して畑地に出た
(←)
畑地のそばから、
漸く室津の家並み
と港を眺めること
が出来た

 (→)
  登山道の室津側の
  入口には、登山口
  と記した小さな標
  識があった
国道250号線に下りる前に、坂から室津の家並みを眺めた 室津街道に入って北へと向かっていると、中ほどにある広場でクスノキの大木に出会った 室津街道は、やがて雑木林に囲まれて、長閑な風景となった

鳩が峰が近づいた
とき、雄鷹台山が
大きく眺められた

「鳩が峰」の標識
の位置で屋津坂峠
からの登山道に合
流した