富士の名の付く山は、ほとんどが別称と思えるが、兵庫にも多く存在する。いずれも本家の富士山に似て円錐形で、すそ野を長く引いた端正な姿をしている。芝田(こげた)富士の名を見たとき、まず位置を確認したが、新宮町の市街地に近く県道724号線(姫路新宮線)のそばであることが分かった。しかしこの道ならよく通る道だったが、どうも富士山型の山は見なかったように思えた。そこで逆にどのような山なのかと興味が湧いて来た。その思いで訪れたのは2006年の2月に入っての最初の土曜日のことだった。この日は播磨南部は朝から快晴の空が広がっていた。しかも澄んだ視界で、ハイキングを楽しむのには上々の日だった。但し、快晴だけに朝の冷え込みは厳しく、姫路でもマイナス気温になっていた。この空を見て雪山へと向かいたかったが、快晴は播磨南部だけのようで、北の空はおもわしくないとの予報だった。そこで思いついたのが芝田富士だった。ただこの山だけを登るのでは物足りないところだが、芝田富士から始まる尾根は西へと延びており、揖龍アルプスの最高峰となる大蔵山まで続いている。そこまで歩くのは厳しいので、2時間程度のハイキングとして、芝田富士から西隣の三角点ピーク(点名・市野保)までの尾根歩きを楽しむことにした。
国道29号線を追分交差点で離れて県道724号線に入り、觜崎橋を渡って船渡交差点を直進する。すると道は新龍アルプスの尾根と平行して走り、やがては芝田橋を渡って国道179号線に合流するが、その手前にある尾根の端が芝田富士のはずである。近づくと、快晴の空の下に尾根はすぐ分かったが、芝田富士の位置にあるのは、三つのピークが段々に並んだ形をした山で、全く富士山型には見えなかった。そこで山名になっている芝田集落に入り、そこの野菜販売所の人に尋ねると、やはり今見た山が芝田富士とのこと。見る角度によって富士山型に見えるとのことだった。また芝田富士は俗称で、正式な名は別にあるとも言われたが、忘れたとのこと。東からなら富士山型に見えるのではと、東向かいの新田山へ回ってみたが、やはり富士山型には見えなかった。そこで姿のことは後にして、まずは山頂を目指すことにした。登山道はよく分からないとのことだったので、名前にちなんで芝田集落側から登ることにした。ただ山すそを巡る舗装路を走ったのだが、芝田集落の近くには適当な駐車場所が見当たらなかった。結局は集落の西にある柳森工業団地の西外れの空き地に車を止めた。駐車地点は山の北側となるだけに辺りは霜で白くなっており、気温も−2℃だった。歩き始めたものの芝田富士の山すそはすっかり害獣除けのフェンスが張られており、どこから入ろうかと思案させられた。それでも適当に近づいた位置に倒木があり、それを利用すると、うまくフェンス内に入ることが出来た。その先はと言うと、植林が山肌を占めていた。手入れの悪い植林地で倒木も多く見られたが、下生えが少ないのはなによりで、まずまず無難に登って行けた。ただときおりイバラには引っかかったが。登り易い所を選んでほぼ真っ直ぐ山頂を目指して行くと、山頂が近づいて辺りの木立が植林から雑木林へと変わって来た。木立の空いた所も現れて、北の宮内遺跡辺りが広く眺められた。間近に大鳥山が見えており、遠くの尾根の後ろには明神山の頂が覗いていた。そこを過ぎると、程なく芝田富士の山頂に着いた。山頂は北からの風が厳しいと思っていたところ、一帯の雑木林が風を遮っており、木漏れ日が暖かい、落ち着きのある山頂だった。また木立に少し視界を遮られるものの展望も少しはあって、南向かいの祇園嶽や、揖保川流域の風景、遠くは瀬戸内海も見えていた。木陰こそ気温は0℃を指していたが、陽射しの中では10℃以上と思われる暖かさで、暫し日なたぼっこを楽しんだ。ひとときを過ごした後は、尾根を西へと歩き出す。遠くから見た印象ではヤブ尾根と思われたのだが、道こそはっきり付いていないものの意外と整然とした尾根で、葉を落とした木立は陽射しがあふれており、また落ち葉の踏み心地が快かった。そしてときおり南に展望が現れた。尾根には昨夜でも降ったものか、うっすらと雪が残っていたが、問題なし。歩き易いままに340mピークとの鞍部へと下っていると、尾根そばに露岩地が現れた。そこに立ってみると、思いっきり展望が開けていた。南向かいの祇園嶽の尾根から始まって、これから目指す340mピークまで、あっけらかんと見えていた。この日は、昼時には下山することを考えていたので、簡単にパンしか持ってきていなかったが、この展望を得て、少し早いが腰を下ろして食事とした。北風を受けることも無く、のんびりと風景を楽しんだ。そして次は340mピークを目指す。尾根は歩き易いままだったが、340mピークが近づくと尾根は斜度を増して来た。またシダも現れて、そのシダに雪が残っていた。多少は歩きにくくなったが、シダはひざ丈までで、歩度を鈍らすほどでは無かった。そこを登り切って340mピークに着く。ピークは三角点辺りも含めて程よく空いており、いかにも山頂と言った雰囲気があった。そこで休憩をしてもよかったのだが、今少し西へと進むと、そちらは一段と開けており、暖かい陽射しがあふれて、休憩には最適の場所だった。そこでもまた日なたぼっこをすることにした。展望もよく、南向かいの尾根をのんびりと眺めていた。ところでその位置より少し離れて小さな岩があったのだが、そこは尾根から突き出したようになっていたので、その上にも立ってみた。すると全く遮るものの無い展望が開けていた。南の展望だけで無く、西の丘陵地帯も一望で、この日一番の展望場所と言えた。但し、そこは北風をまともに受けることにもなった。もう十分にこの尾根の楽しさも分かったことでもあり、下山をすることにした。下山は今少し西へと歩いて、328mピークに立ち、そこより北へ向かう尾根を下ることにした。340mピークを離れると少しヤブっぽくなり、シダがはびこり出した。少しかき分けることになったが、ここのシダもひざ丈ほどなので、ヤブコギとまでは言えない。328mピークからは尾根の歩き易いままに北へと下って行った。植林が主体の尾根で、途中では倒木が目立ったが、まずは無難に下って行く。ふもとが近づくと林道が見えて来た。その境にはフェンスが張られており、また越さなければと思っていると、ちょうどゲートがある位置に下り着いて、うまくフェンスの外に出ることが出来た。駐車地点からは少々離れた位置だったが、後は山すそ近くの車道を辿ることにした。札楽集落を歩いて行くのだが、周囲は低山だけに山あいの暗さは無く、陽射しを十分に浴びて戻って行く。そして柳森工業団地が近づいたとき、前方にすそ野をきれいに引いた山が見えて来た。左半分だけだったが、どう見ても富士山型だった。もうその位置にあるのは芝田富士しかなく、北西方向から富士山型に見えたことで、芝田富士の名に納得した。帰宅後、芝田富士の名を調べてみると、「揖保郡地誌」に正しくは荒神山だと記されていた。
(2006/2記)(2016/10改訂) |