赤穂市の有名な山として高山と黒鉄山があるが、この二つの山に挟まれるようにして標高300メートルに満たない準平原と呼べそうな緩やかな丘が広がっている。その丘を東から眺めると、千種川を前景にして一つの立派な山として悪くない姿を見せてくれる。その東から眺めて一番高く見える山を稲荷山と呼ぶことを「花と緑の散歩道 ふる里赤穂の山と植物」で知った。その記事を読むと展望も良さそうなので、ちょっと登ってみたい気持ちが湧いてきた。「相生」の地図を見ると、著者の歩いた南麓からのコースが一番容易そうに思えて、こちらもそのコースを登ってみることにした。訪れたのは2009年12月の第三月曜日のこと。平日とあってパートナーは同行出来ず、単独で目指した。
この日は雲が少し多い程度で、まずまずの晴れだった。冬の日らしく空気はよく澄んでいた。稲荷山の南は細い尾根となって山陽自動車道のそばまで続いており、その姿から細尾山と呼ばれているようだが、その尾根端へと車を走らせた。ところが途中で車道に柵が置かれて進めなくなっていた。そこで少し離れてはいたが、川そばの位置となる山陽自動車道の高架下に車を止めた。そして山陽自動車道の北側の側道を歩いて行った。柵の置かれている位置を越えて進むと、右手から山陽自動車道の高架を抜けてくる車道と合流した。どうやらその車道ならすんなりと先へ進めたようだった。一度、トラックがそばを通り過ぎた。左手に送電塔が建つ細尾山が見えたが、車道のままに歩いて行くと、程なく資材置き場のような所で車道は終わってしまった。その位置より細尾山へと雑木の中を無理やり進むと、すぐに林道に出た。その林道を歩いて細尾山の南端に出ると、はっきりとした山道が始まっていた。また山陽自動車道側からその位置まで車道も来ていた。どの位置からその車道が分かれていたのかと、興味を持って車道を戻ってみると、すぐに側道に出た。どうやら側道を歩くことに注意をして、枝分かれのその車道を無視していたようだった。これで登山口までの経路も分かったことで、改めて登山口へと戻った。登山口の側には広場もあったので、そこまで車を進めて駐車出来ることも分かった。登山道を登り始めると、道の中央辺りが少し掘れているのに気が付いた。その掘れ具合から、オフロードバイクが何度と登って出来たものではと思われた。すぐに送電塔の前に出た。関西電力の赤穂火力線13番鉄塔だった。尾根の先が見えており、点々と送電塔が尾根上に建っていた。どうやら尾根の道は巡視路のようだった。そこからは尾根はぐんと緩やかになって、ごく気楽なハイキングの雰囲気となった。登山道の土の色は薄く、陽射しを受けてまるで白い道のように見えていた。周囲に常緑樹の灌木が茂っている様は、ちょうど東に位置する高山辺りと似ており、赤穂の山の特徴と言えるかも知れなかった。2番目の送電塔(14番鉄塔)、3番目の送電塔(15番鉄塔)と過ぎて、少し道の傾斜がきつくなった。白い道を登っているときに背後を振り返ると、赤穂市の市街地の向こうに小豆島が大きく眺められた。急斜面を登りきると、地形は一気に緩やかになった。準平原と呼べそうな地形で、そこに道ははっきりと続くが、周囲はすっかり常緑樹の森になっており、展望が良くなることはなかった。道はすぐに二手に分かれた。右への道は16番鉄塔への道と思われたため、北へ向かう道を進んで行った。緩やかに登って小さなピークを通った。通った後に地図を開くと、ピークには282mの標高点が付いており、一帯では一番高い地点のようだったが、あまりピークらしさは無く、単なる通過点の雰囲気だった。その先で道はまた二手に分かれて、そこを右手に進むと、程なく稲荷山の山頂に着いた。そこには送電塔(17番鉄塔)がどんと建っており、その送電塔の範囲に草木は無く平らになっていた。登山口から一時間弱で着いたので、手軽なハイキングと言えそうだった。送電塔の下に立つと、周囲の灌木が展望をけっこう邪魔しており、比較的木々の少ない南の方向に海が眺められると言った感じだった。ちょうど昼どきでもあり、送電塔の台座に腰掛けて昼食とした。一休みしたところで、今少し展望を楽しみたくなった。そのためには送電塔に登るのが一番なのだが、送電塔は当然登ることは禁止である。ただ一段目に登るだけでも十分に展望を得られそうに思えて、2メートルほどの高さとなる一段目まで遠慮しながら登った。やはり展望は一気に開けて、南には瀬戸内海、西には黒鉄山の尾根、そして東には千種川流域の山並みが一望となった。この風景が眺められたことで、稲荷山を十分に楽しめた気分になれた。この後は更に丘の上を散策しようかとも考えていたのだが、これ以上の行動はせず、すんなりと登ってきたコースを引き返すことにした。この昼休憩を境に空は青空よりも雲の占める面積が大きくなって、陽射しが長く隠されるようになった。下山途中からはずっと陽射しは消えている状態となり、気温も7℃まで下がってきた。風に冷たさも感じながら登山口に下り着いた。稲荷山は赤穂の山の特徴を多く持っており、白い道の印象も良く、気分良くハイキングを終えることが出来た。
(2010/1記)(2021/10改訂) |