たつの市の旧新宮町域に万燈山があることが「播磨 山の地名を歩く」に書かれているのだが、記事を参考に「三日月」の地図を見たものの、どの山が万燈山なのかはっきりと特定出来なかった。本には標高は320mで、この辺りでは一番高い山と書かれているのだが、奥小屋地区を囲む尾根には400mを越すピークが幾つもあり、本の内容とは矛盾していたので、そのこともあって万燈山を訪れることには躊躇していた。それでも一度は登っておこうと向かったのは2013年6月の最初の土曜日だった。万燈山のことは地元で聞けば分かるのではと思っての行動だった。梅雨入り直後とあって、雨は降らない予想であったが、薄黒い雲が広がるどんよりとした空だった。目的地は新宮町奥小屋。国道179号線を相坂峠の手前で離れて県道44号線に入った。その県道をどんどん北へと進めば奥小屋地区で、その先で県道は終点になっていた。そこで県道を引き返して、八幡神社の前に駐車とした。さて万燈山のことを聞こうと、近くで農作業をしていた里の人に尋ねたのだが、生まれてから聞いたことがないと言われてしまった。そこで別の里人にも聞いたのだが、やはり知っていなかった。但し「大乗さん」の位置は教えていただけた。そこでまずは大乗さんを訪ねることにした。八幡神社前より北へと県道を歩いて行くと、左手の斜面に小径の付いているのが見えた。それを登って行くと、程なく小さな祠の前に出た。それが大乗さんのようだった。本では万燈山は大乗さんの背後にそびえると書かれていたので、この背後の尾根の320m地点を万燈山と考えることにした。そこで背後の斜面を登って尾根に出ることにした。斜面は竹林になっており、特に難しくもなく登って行けた。竹林はすぐに植林地に変わったが、そこに見えたか細い作業道を歩いて尾根に出た。一帯は雑木林で平坦になっていた。また尾根筋は空いており、楽に歩いて行けそうだった。その辺りで標高は280mほどだった。そこより北へと少し登って、320m辺りの平らになった所が万燈山ではと推測された。ただすぐには向かわず、昼でもあり、尾根に着いた位置で昼食をとることにした。尾根の気温は20℃ほどだったが、湿度が高いためか、23℃はありそうに感じられた。周囲は木立が囲んで展望が無いことでもあり、食事を済ませると尾根歩きを開始した。標高320m辺りまで来ると辺りは平らになっていたが、万燈山と呼ぶほどの雰囲気は無かった。単なる尾根の一部だった。これで万燈山に立ったことになるが、これでは全く物足りないと言えた。そこで昼休憩中に考えたことだが、今少し尾根歩きを楽しむことにした。地図を眺めると、そこより北西方向に440mほどのピークがあって、一帯では一番高いピークだった。そのピークまで歩いて、その先で南へと下れば八幡神社のそばに出られそうだった。それを実行しようと、尾根歩きを続けた。尾根は緩やかで、所々で倒木があるものの、概ね歩き易かった。但し展望は全く無かった。北向かいの尾根が近づくと、そちらへと植林地のやや急斜面を登った。尾根に出ると、再び緩やかな尾根歩きだった。今度は西方向へと歩いて行く。430mピークを越して440mピークに立ったものの、そこもすっかり樹林に囲まれていた。木の間よりちらりと近くの尾根が見えるだけだった。もう展望には出会えないのではと諦めて、西方向へと尾根歩きの続きを始めたとき、右手となる北西方向に展望が現れた。そちらは植林地なのだが切れ目が出来ており、遠方が眺められた。後山や植松山、それに水剣山など馴染みのある山が眺められて、これで漸く登ってきた甲斐があったと言うものだった。尾根が折れて南の方向に歩くようになると、今度は花が目を楽しませてくれるようになった。足下に小さな白い花がいっぱい落ちていたのでよく見ると、それはエゴノキの花で、頭上に目をやるとまだまだ沢山の花が咲いていた。それが一本や二本で無く、何本ものエゴノキが白い花を咲かせていた。他にもウツギの白い花もちらほら見られ、ちょっとうれしくなった。尾根の小さなピークに着くと、そこからは南南東方向へと急斜面を一気に下った。一帯は植林地で、その幹に掴まりながら休まず下ったのだが、標高差にして200mほど急斜面を下ることになった。麓が近づいて漸く緩斜面になると、沢そばに下り着いた。後は沢沿いを歩いて行くと、長くも歩かず畑地に出た。そこからは間近に八幡神社の鳥居が見えていたので、予定通りに下山出来たようだった。下山を終えると八幡神社にも立ち寄ってみようと、神社の石段を登って境内に出てみた。そこで目にしたのは見事なイチョウの巨木で、神社のことよりもいっぱいに葉を茂らせたその姿に目を瞠ってしまった。
(2013/6記)(2021/3改訂) |