たつの市御津町は瀬戸内に面する町だが、町の多くの部分を300m台までの低山が占めている。その山並みは東は揖保川近くより西は相生市域まで続くが、俗称で御津山脈と呼んでいるようである。この山域で一番高い山がこの野瀬奥山で、東麓にある近藤池付近から見るその姿は、雄鷹台山と並んでなかなか良い形をしている。近年、この御津山脈は縦走路が整備されて、気楽にハイキングの出来る山域となり、訪れる人も増えている。(但しゴミも増えているのは困りものだが。)
この野瀬奥山は御津山脈の中央部に位置するが、アプローチとしては雄鷹台山からの尾根コース、野瀬集落からのコース、また天下台山からのコースなど幾つかのコースを選べるようである。その一つの雄鷹台山からの尾根コースで野瀬奥山を目指したのは2005年7月の暑い盛りだった。ごく低山なので気楽に登れるものと考えていたのだが、この日は暑すぎた。9時の時点で30℃に近い時間になっており、雄鷹台山の中腹辺りでばててきた。それでも何とか雄鷹台山までは登ったが、もうぐったりで、それ以上の登山は無理だった。
その後、再挑戦の機会を窺っていたが、この2005年はなかなか涼しくならず、9月もずっと残暑が続いていた。そして彼岸の中日を過ぎて、一気に秋の気配となった。この秋の涼しさをどこかの山で楽しみたいと考えたとき、雄鷹台山から野瀬奥山コースの再チャレンジを思いついたものである。向かったのは25日の日曜日。但し午前は出かけられず、午後に入ってからの時間となった。その空は昼を過ぎてもまだ十分に澄んでおり、国道250号線の七曲がりを走っていると、家島諸島だけでなく小豆島もくっきりと見えていた。そして四国の輪郭もうっすらと望まれた。前回と同じく、屋津坂に入ってのすぐの空き地に車を止めた。そして登山口へと薄暗い屋津坂を歩き、鳩ヶ峰のそばの登山口より雄鷹台山への道を登って行った。気温は24℃と幾分低い程度だったが、湿度が少なくからっとしていた。木陰に入るとすっと涼しくなり、快適だった。おかげで前回の苦しい登山がうそのように、気軽な足取りで登って行けた。雌雄の大岩の展望台と山頂間近の展望台で一息つくだけだった。展望台からの風景は見慣れたものだったが、澄んだ視界で見る瀬戸はやはり美しかった。青い海に島がちらばっている。小豆島の洞雲山もくっきり見えており、手前を見れば、南東方向に室津の加茂神社の緑が濃かった。展望台を過ぎて着いた山頂は、雑木に囲まれて薄暗い。今回着いて気になったのは、ゴミの目立つことだった。3年前の登山でもゴミに出会ったが、ゴミを捨てる人はどうしても現れるようである。それと辺りの雑木が枝打ちされたのか、その枝が放置されたままで、三角点もそれに隠されていた。そこで三角点周りだけでも掃除することにした。やはり山頂は美しくあってもらいたいものである。雄鷹台山の山頂に立ったときは14時を回っていたが、予定通りに野瀬奥山へと向かった。雄鷹台山へは何度か訪れていたのだが、その先の野瀬奥山までは初めて歩くことになる。北へと歩き出すが、雄鷹台山山頂はなだらかなため、始めは緩やかな下りだった。雄鷹台山までも歩き易い小径が付いていたが、変わらず歩き易い道が続いていた。ただ一気にクモの巣が行く手を遮りだした。それを払いのけながら進まなければならない。どうも雄鷹台山までは登山者があっても、こちらには来ていないようだった。道は程なく野瀬奥山との鞍部へと、きつい下り坂に替わった。きつくとも道は良かったので、すべらないように注意するだけである。坂がきつくなるとともに、木立を通して行く先に野瀬奥山が望まれた。鞍部まではおおよそ130mの下りで、そこより山頂へと150mの登り返しとなる。この登りが一段と急坂で、すべり易い所が何カ所もあった。ただ周囲の木立が低木主体となり、周りが明るくなってきた。振り返ると、先ほど立っていた雄鷹台山が間近にすっきりと見えており、その先には瀬戸内と、そこに浮かぶ家島諸島が見えていた。東には近藤池辺り、西は木立を通して相生湾と、展望が一気に広がっていた。この急坂を登り切ってようやく野瀬奥山に着いたと思ったところ、そこは野瀬奥山の一つ手前の290mピークだった。まずはその小ピークで一休みとする。ピークには岩場があって、そこからはすんなりと南に展望が広がっていた。先ほどの急坂で眺めていた瀬戸内の風景を、一段高い所から見ることになった。この日の澄んだ空気のおかげで、久々に見る透明感のある瀬戸内の眺めだった。このピークを離れて10分ほどで、ようやく野瀬奥山山頂となった。但し、そこは雑木が茂って展望は悪かった。展望にしろ休憩にしろ、手前のピークの方が優れているようだった。これでは単に山頂に立っただけなので、これでは寂しいと、今少し北へと尾根を辿って尾根続きとなる天下台山を眺めることにした。山頂からは緩やかな坂で尾根道は北へと続くが、周囲の木立が大きく、どうも天下台山を目に出来ない。諦めて途中で引き返したが、少し悔しいので手頃な木に登ってみた。するとうまく北西方向が開けており、西になだらかな尾根を持つ天下台山が木立を通して眺められた。そして北の方向、遠くを見ると、三濃山の尾根も澄んだ視界でくっきりと見えていた。そうこうするうちに16時が近くなってきたので下山とする。この日はスタート点の屋津坂へと引き返すのだが、そのまま天下台山まで足を延ばすのも面白そうに思えた。下山では再び雄鷹台山山頂近くの展望地で休憩としたが、夕方の時間となっており、そこから眺める瀬戸の風景は、夕方の遮光線に鮮やかさを増していた。その光の中を、昼の漁を終えた室津の漁船が、一団となって戻って来ていた。その風景を暫し眺めていた。
(2005/10記)(2010/3改訂)(2020/3改訂2) |