播州南部の山の多くは瀬戸内海を眺めることが出来るが、旅情をそそる山となると御津山脈が一番ではと思っている。その中でも雄鷹台山にある展望岩は室津港に大浦湾、家島、小豆島と、視野いっぱいに瀬戸の風景が広がって、自然と写真を撮りたくなる。2010年2月の第2土曜日は、午後に用事があって遠くに出かけられなくなった。また北部の天気も思わしくなさそうで、そこで午前中を近場の山で過ごすことにした。手短にハイキングを終えるために、始めに考えたのは姫路東部の山だった。これは少し気軽過ぎるかもと思いながら、自宅を離れたのは9時を過ぎた時間だった。始めに西に向かって走り出したのだが、そちらに見えたのが御津山脈だった。明るい空に下にくっきりと稜線を描いていた。それを見て姫路東部の山への気持ちはなぜか消えてしまって、御津山脈を登りたい気持ちに一気に傾いてしまった。そこで目標を御津山脈に切り替えたものの、3時間程度のハイキングで済まさなければならない。そう考えたとき、すっと思い付いたのが鳩ヶ峰のそばから始まる雄鷹台山への登山コースだった。そのコースにある展望岩から瀬戸内海を眺めたいと思った。その雄鷹台山だけでは時間が短すぎるので、山頂に立ったあと尾根を北へと進んで、野瀬奥山のピークまで歩こうと考えた。その野瀬奥山までのピストンコースなら3時間までで終えられそうで、午前のハイキングとして手頃と言うか、ちょうど良い感じがした。
鳩が峰へは北東側から向かって行く。ダイセル化学工業のそばを通って林道へと入って行くと、程なく道は荒れ出したが、長くは走らず鳩が峰の標識が現れると、そこよりほんの僅か進んだ所が登山口だった。登山口には2台ほどの駐車スペースがあったが、鄙な山なので他に車は無く、ゆうゆうと止めることが出来た。歩き始めたのは9時半。ごく自然な山道をマイペースで登って行く。すぐに大岩のある展望地に出た。上と下に分かれて大岩があり、上が雄岩で下は雌岩と名付けられているが、どちらも展望は良かった。ここに着いて早くも大浦湾を前景に小豆島が眺められた。そこを離れて登りを続けるが、山の南面を登るので、暖かい陽射しを十分に浴びながらだった。急坂が続くが体が温まることになって、ここは冬のハイキングが最適のようだった。鉄条網の境界線に沿って登山道は続いた。その鉄条網は嫦峨山を含めてこの山域の北東部を立入禁止とするためで、ダイセル化学工業播磨工場の敷地になっている。同工場では爆薬関係を扱っていることでもあり、仕方のないことだろう。山頂が近づいてまた岩の目立つ展望地が現れた。そこは雌雄大岩よりも更なる展望地だった。左手には室津港を、足下には大浦湾、右手には七曲がりの海岸線、そして前面は瀬戸の海が広がっている。ここでは当然足を止めたいところだが、帰路にゆっくりとする考えだったため、息を整えただけで先に進んだ。程なく山頂に着いた。ダイセル化学の標柱のそばに三角点は置かれているが、少しササに隠れ気味になっていた。そこから先は尾根をまず東へと歩いて行く。久々に歩くが、どうも以前と比べてササが茂っているようだった。3ヶ月前に登った嫦峨山もすっかりササの山頂になっていたが、ここも同時進行でササが増えているようだった。やがて尾根は北向きとなり、野瀬奥山との鞍部へと急坂で下り出した。辺りはウバメガシなど常緑樹が多く、いかにも瀬戸内の山らしい雰囲気だった。鞍部までは130メートルほどの下りが続き、そこから野瀬奥山まで150mほど登り返すことになる。この登りもけっこう急坂で、運動としては良い所である。その登りでまた鉄条網に沿って登るようになった。急坂とあって登るほどに背後に雄鷹台山の尾根が広がってきた。ただこの登りでは足下にイバラの絡むことがあり、以前と比べて荒れている印象だった。それも自然さがあると思って登って行く。急坂を登り切って290mピークに着くが、そこは山頂手前の肩に当たる所で、展望地でもあった。そこも岩が点在しており、雄鷹台山を中心に東西に延びる尾根が広く眺められた。今回そこに着いて気が付いたのは、この場所が奥山南展望台と名が付いていたことと、西の方向の木立が切られたのか、そちらにも広く展望が開けていたことだった。そちらは足下に相生湾があり、その背後の山並みから黒鉄山が頭一つ抜き出ていた。また北西遠くの姿の良い山は八塔寺山ではと思われた。そこを離れて北へと少し登った所が野瀬奥山の山頂だった。そこは相変わらず展望が悪かった。時間があれば天下台山まで歩きたいところだが、予定通りに引き返すことにした。当初の予定では奥山南展望台で早めの昼休憩と考えていたが、そこに戻ってきてもまだ11時前だった。これは昼休憩には早過ぎるので、一番展望の良かった雄鷹台山山頂そばの展望地で昼休憩をすることにした。鞍部へと急坂を下り、雄鷹台山へと登り返す。もうここの往復だけでも十分な運動量だった。山頂そばの展望地に着いたときは11時半になっており、昼休憩としてちょっと早い程度の時間になっていた。穏やかな瀬戸を眺めていると、漁を終えた船がぽつりぽつりと室津港に戻っていた。その風景を眺めながらの昼食だった。登山口に戻ってきたのは、12時を少し過ぎたばかりの時間で、予定通り3時間内でミニハイキングの終了となった。誰に会うこともなく、暖かい陽射しを受けてのハイキングで、午前だけだったとは思えぬ充実感を持って終わることが出来たのは良かった。
(2010/3記)(2020/2写真改訂) |