上郡町と相生市を結ぶ県道5号線(姫路上郡線)を東から走って椿峠を越えると、程なく山あいを抜けて平地へと入るが、そのとき北に低山ながらすっきりとした山が見えて来る。道路に近いだけにけっこう立派に見えるこの山が福峰山だった。2005年11月3日の文化の日は曇り空で朝を迎えた。11月ともなれば紅葉を求めて奥播州に行きたいところだが、薄暗い景色での紅葉はどうかと思われ、そこでこの日は近場の山上で軽く昼食でもと思い直した。目指したのがその山容の押し出しの良さで記憶に残っていた福峰山だった。登山コースの知識は無かったため「二木」の地図を開いてコースを探った。そして福峰山の東麓に位置する奥集落の奥にある溜め池が目に付いた。そこからなら最短距離で登れそうだった。ただ心配なのはヤブかどうかだけだった。
その奥集落へと車を進めると、道は狭く奥に向こうほどに急傾斜となり、溜め池の位置がどうもつかめなかった。そこで里人に聞くと、やはり山頂へは溜め池そばから登っているとのこと。但し道は無く、また登るコースも最短距離ではなく、北西方向に沢沿いで登るのが少し遠回りになってもヤブの少ないことを知らされた。また昔はマッタケ山だったことも教えられた。溜め池はやはり集落の最奥にあり、着くと杓谷池と記されていた。その池そばに駐車とした。山に向かうには立派なフェンスを越さなければならなかった。教えられたフェンスの結び目の針金をほどくことはせず、池にかかるフェンスの端を回り込んで、山裾に取り付いた。そして最初に考えていた最短コースをとるべく、南西方向に向かって登り出した。道は無かったが、一帯の低木は疎らで下生えも少なくまずまず楽な登りだった。東尾根に出て少し登ると、一帯は腰丈ほどの笹原となった。優しげな風景だったが、イバラがけっこう混じっており意外とやっかいな所だった。ただ展望は良く、足元には奥集落の風景、そして南東方向には宝台山が大きく見えていた。笹原は長くは続かず、再び雑木林へと入った。もう尾根は緩やかで、歩き易い所を選んで登って行った。このとき小雨が降り出したが、雑木のおかげで雨粒はさほどかからなかった。その小雨も程なく止むと、もう山頂は間近だった。元マッタケ山らしく赤松が増えてきたが、マッタケどころかキノコはひとかけらも見えなかった。程なく平らになった山頂に着いた。疎らな雑木林にシダの混じる山頂は、のどかな風景だった。その頃には陽射しが現れており、木漏れ日がシダを光らせていた。休憩をするには程良い風景だったが、展望は良いとは言えなかった。まずは枯れ落ち葉の上にビニールシートを敷いて一休みとした。昼食を済ませたところで、辺りの様子を探ってみることにした。さほど密生した雑木林で無かったため、南東側に少し下ると木立の切れ目があり、宝台山をすっきりと眺められた。また西側にも少し下ると、共同アンテナの立つ所があって、一帯の木立は空いていた。そこからは南西方向に黒沢山がきついモヤの中にうっすらと見えていたが、その右手となると山は輪郭さえ判然としていなかった。どうやらこの日の福峰山は、展望など気にせず、のんびりと寝ころんでいるのが相応しそうだった。一休みしたところで下山とする。この下山コースとしては、里人に教えられたコースを辿ることにした。まずは北の方向へと尾根なりに歩いて行った。尾根は緩やかなうえに木々も疎らで、のんびり気分で歩けた。やがて尾根は細って馬ノ背のようになった。その東斜面を下ると杓谷池へと続く沢コースとなるため、尾根を離れることにした。そして溜め池を目指して、相変わらず適当に下って行った。足元が多少すべり易い程度のまま下りきると、すんなりと杓谷池のそばに出た。その頃には上空は薄晴れに変わっており、その明るい陽射しの中に、奥集落が美しい佇まいを見せていた。
(2005/11記)(2013/2改訂)(2022/3写真改訂) |