丹波市春日町の中心部はJR黒井駅の北に広がる地域と思われるが、その市街地の間近に小ぶりな山が、一目で城山と分かる姿で立っている。山頂が平らになっており、いかにも城跡が広がっている雰囲気が伝わってくる。地図には城山の名が付いており、別名、猪ノ口山とも言うとか。その城山だが単に城山と言うよりも、春日局が育った黒井城跡がある山と言った方が分かり易いように思われる。その城山は城跡ハイキングが出来る山としても知名度が高く、一度は歩いてみたいと考えていた。ただ城山だけで済ませるとハイキングコースとして短すぎるので、西へと続く尾根を歩いて千丈寺山、ヨコカワ峰と組み合わせるのが一般的のようである。
2010年12月に入っての最初の土曜日に、このハイキングに向かった。この日は快晴。澄んだ空にほとんど雲は見られなかった。舞鶴自動車道では西紀SAに立ち寄ったが、この好天に誘われてか、多くの車であふれており、車を止めるのは一苦労だった。その西紀SAの先の春日ICで高速道を離れた。もう車道はいたって静かだった。国道175号線を走って黒井駅に近づくと黒井城跡の標識が現れたので、それに従って町中の細い車道に入って行った。車道は坂道となり、黒井小学校を通った先に登山口駐車場があった。10台も止まればいっぱいになりそうな小さな駐車場だったが、3台の車が止まっているだけだった。その駐車場の東隅が登山口。手早く準備を済ませて登山口に向かう。始めに石段が急坂で続いていた。その石段を登りきった先から登山道が始まっていた。本丸まで700mとあった。すぐに害獣避けゲートがあり、それを通る。道は歩き易い山道と言った雰囲気で続いており、ごく軽いハイキングだった。快晴の空は澄んでおり、燦々と注ぐ陽射しを浴びながら、登山道を登って行く。登山道の周囲は雑木林で、常緑樹が多いようだったが、紅葉の木もけっこうあり、その落葉が進んでいた。登山道はその落ち葉で埋まっている所もあった。落ち葉を踏みながら登って行く。登山道には100mおきに標識が立っているようで、山頂まで何メートルの標識がよく現れた。その長閑な散歩のような登山を続けているとき、「石踏の段跡」の広場に出た。そこはけっこう広さがあり、赤門が建っていた。そして好展望台になっていた。東から南、そして西へとすっきりと春日町の山並みが眺められたが、展望は山頂でも出会えるだろうと、小休止にとどめて登りを続けた。その先も落ち葉を踏みながら優しい道を登って行くと、石踏の段跡から10分ほどで山頂が近づいた。石垣が見られるようになり、城跡の雰囲気が漂いだした。木立も少なくなり、展望が一気に広がり出した。東曲輪跡を通って本丸跡に上がると、そこは想像以上に広々とした場所で、解放感たっぷりだった。てっきり誰かは居るものと思っていたのだが、人影は無く、ただあっけらかんと明るかった。これだけ開放的だと展望は360度と言えるもので、どの方向を見ても丹波の山並みが広がっていた。暫し飽きずにこの展望を楽しんだ。ひとしきり展望に時間を過ごしても誰も来ず、早めの昼食を終えた頃より、ようやく次のハイカーが現れた。それで関を切ったのか、ぽつぽつとハイカーが現れた後、一気に20人ほどのグループが登ってきて、先ほどの静けさから一変して、大賑わいの山頂になってしまった。やはり城跡では静けさの中で過ごしたいもので、喧噪から離れることにした。尾根の縦走開始である。始めに北の方向へと鞍部まで80mほど下るが、やや急坂の上に道も細くなって、里山道と言うよりも一般登山道と呼ぶのがふさわしい佇まいの道だった。一度岩場を巻く所では岩場を下ってしまい、思わず滑落しそうになった。二ヶ月前に滑落しているので、慎重の上に慎重に下った。パートナーには正しい巻き道を歩いてもらう。これはちょっとマイナーな道ではと思ってしまったが、その先で尾根が緩やかになると、一気に優しい道となった。道幅もゆったりとなり、両側を自然林が囲む様は心安らぐ風景と言えた。その雰囲気を味わいながらの尾根歩きは、丹波で久々に気持ちの良い尾根に出会えたとの思いを持てた。ただときおり雑然とした所が現れたが、それも自然と言えるものだろう。その雰囲気で千丈寺山が近づくと、なぜか山頂を迂回するコースが分かれた。その先で少し傾斜がきつくなって、30mほど登った所が千丈寺山だった。狭い範囲で平らになっていたが、一帯は雑木が広がってあまり山頂らしさは無かった。また山名標識は見えず、「砦跡」と書かれた札が木にくくり付けられているだけだった。そこも城跡の一部のようだった。展望は南の方向に少しあり、足下に氷上高校が見えていた。その千丈寺山の先は大野峠へと下って行くが、急坂の植林地に倒木があったりして、少し雑然としていた。千丈寺山に着くまでの雰囲気の良さは消えていた。まずはごく普通の尾根歩きと言った感じで下って行く。千丈寺山を迂回していたコースが合流した先で、大野峠に下り着いた。そこにははっきりと峠道が交差していた。下山はその峠道を南へと下る予定だったが、まだヨコガワ峰を目指すので、峠道を横切って尾根歩きを続けた。そのヨコガワ峰への登りは、はっきりと道の分かる所もあれば目印テープを頼りとする所もあったが、基本的に西へと尾根を登って行く。登るうちに周囲は雑木林となったが、傾斜がきつくなって、一歩一歩を踏みしめて登って行く。あまり汗をかかない冬の日に、じっくりと登れるのはむしろ楽しいと言えた。道がはっきりしなくとも、目印は的確に付いているので、ただそれを追うだけだった。最後はすんなり山頂には着かず、少し回り込んで南側から山頂に着いた。山頂には四等三角点(点名・稲塚)がぽつんとあり、そこだけは木立が少ないようで陽射しが当たっていた。その陽射しの中に腰を下ろしたが、周囲はすっかり雑木が囲んで展望は無かった。登山道は更に西へと続いており、標識では次は三日月山となっていたが、そちらに向かう気は無いので、小休止の後は引き返して行く。登るときに道のはっきりしなかった山は、下るとなると更に分かりにくいので、目印テープをひたすら注意して下った。その下りで前方の木立が空いたとき、東に二つのピークを望めたが、それはこの日登った猪ノ口山と千丈寺山で、どちらもかわいらしいピークだった。大野峠に戻ってくると、峠道を南へと下る。周囲は植林地で、その薄暗い中を下って行くと、左手に堰堤が見えてきた。それを横目に見て今少し下った所に害獣避けゲートがあり、それを通って大野集落へと入った。後は山裾を通る車道を東へと歩いて、駐車地点へと戻って行った。空には雲はほとんど見られず、その快晴の下を歩いていると、冬の陽射しがちょうど良い暖かさだった。城跡の雰囲気漂う猪ノ口山、優しげな尾根歩きの先で着いた千丈寺山、そしてしっかりと登れた思いを持てたヨコガワ峰と、それぞれ味わいの違う三つの山に登れたことに十分に満足な思いとなって、閑静な城下町を抜けて駐車地点へと近づいた。
(2010/12記)(2021/8改訂) |