淡路島の山を登ろうと考えたとき、明石海峡大橋と高速道を乗り継いで行くことから、どうしてもメリハリのある登山をしたいとなるので、諭鶴羽山など有名山に目が向かってしまうことになる。そのため300m前後までの里山にはあまり関心が向かなかったが、高速道の休日割引制度が出来たとなると、考えが変わってきた。ごく低山を幾つかまとめて登るのも面白いのではと考えたのは2009年の秋に入ってのことで、出来れば低山が紅葉期を迎える11月下旬に行こうと照準を定めた。一日を淡路島で過ごすとして、二つの低山では物足りないように思えて、三つ登ることにした。そして選んだのが淡路市南部の高倉山、一等三角点を持つ竜宝寺山、そしてこの摩耶山だった。摩耶山を選んだのは標高がまずまずあることが理由の一つだったが、紅葉の名所とされる東山寺に近いことも選んだ理由だった。摩耶山を下山した後、東山寺で紅葉を楽しもうと考えた。その摩耶山へのコースだったが、「志筑」の地図を見ると山頂近くまで車道が付いている。それを使ったのではあまりにも簡単過ぎるので、登山としても楽しむために、西側を通る破線の道を利用することにした。但しヤブなら無理はしない考えだった。向かったのは11月の最終土曜日となる28日だった。
この日の天気予報は午前は曇りで、午後は晴れるとなっていた。その通りに朝は曇りで、まずは高倉山を登り、昼となって少し青空が見られるようになったときに竜宝寺山を登った。その竜宝寺山の下山を終えたのは13時半ごろだった。時間としては午後に入っていたが、どうも空が予想とは違っていた。一時は晴れ間が広がろうとしていたのだが、空は再び雲が広がろうとしており、青空がほとんど見えなくなってしまった。その薄曇りの中を竜宝寺から摩耶山を目指した。始めに西海岸の郡家に出て、そこから東へと県道88号線を走る。伊弉諾神宮のそばを通り、津名市街が近づいて県道463号線に入った。道路地図では県道の太さで書かれていたが、実際は林道と変わらぬ細い道だった。舗装路にはなっていたが、車一台分の幅しかなく、それがくねくね道でずっと続いた。気をつけないと路肩から落ちてしまいそうだった。どう見ても県道とは思えず、途中で行き止まりになるのではと心配したが、それを見透かしたように行き先が東山寺であることを示す標識が現れた。希望通りに東山寺と摩耶集落との分岐点に着いたときは、ひと安心だった。結局、道は最後まで細いままだった。ただ大きな坂も無く緩い起伏が続いていただけなので、淡路の中部が丘陵地形であることがよく分かった。分岐点からは摩耶集落への道に入って行くと、程なく集落の端に着いて、そこに林道が左手方向に分岐しているのが見えた。それを確かめたことで、引き返すことにした。駐車出来る場所を探すためだった。道脇に注意していると、竹ヤブのそばに車一台分の駐車スペースを見たので、そこに駐車とした。そのそばに道標があったが、摩耶山の方向を指の形で示しているのが珍しかった。車道を歩き出して、数分で林道分岐点に着いた。そこより林道に入ると、細々とながらも舗装路で続いていた。ただ途中から土道となり、草が増えてきた。どうもあまり使われていないようだった。程なく摩耶山方向への尾根が現れてそこに小径を見たので、そちらへ入る。道ははっきりしなかったが、緩い登り坂で山頂へと近づいた。周囲は雑木林で紅葉も見られたが、特にきれいな感じでも無かった。その雰囲気で山頂かと思っていると、山頂が間近となって突然右手から小径が合流した。その小径に沿って点々と小さな祠が建っていた。祠には二体ずつ石仏が収まっていたので、どうやら遍路道のようだった。その石仏を眺めながら登ると、僅かな時間で山頂の三角点の前に着いた。そのそばに一段高い位置があり、そこには小ぶりな神社が建っていた。山之神の名が付いていたが、木立に囲まれて寒々しかった。あまり長居をしたい雰囲気でもなかったので、山頂に立ったことを良しとして下山することにした。下山は山頂近くまで来ている車道を歩いて戻ることにした。山之神からは南の方向のごく近い位置にお寺の建っているのが見えており、そこに車道が来ているように思えた。急斜面を下れば僅かな時間で着けそうだったが、遍路道がそのお寺から続いているのではと考えて、遍路道を下って行くことにした。その遍路道だったが、ごく気楽に歩いて行けると思っていたところ、どうも訪れる人が少ないのか、途中から荒れ出した。陽当たりの良い所が草ヤブになろうとしていた。イバラも混じっており、ちょっとしたヤブコギだった。これは難儀なことだと思っていると、突然開けた所に出た。摩耶山展望所となっており、ベンチもあってひと息入れることにした。南東方向が開けており、曇り空の下に大阪湾の風景がうっすらと見えていた。その展望地からお寺まではごく僅かな距離だった。寺の名は鷲峰寺で、淡路西国三十三カ所の第二十七番札所だった。境内に人は見かけず、ひっそりとしていた。この鷲寺山の山門から石段を下りると、そこに駐車場があり、考えていた通りに車道が始まっていた。その車道を歩いて駐車地点を目指す。車道沿いのカエデの色付きを見ながら下ると摩耶集落を抜ける車道に合流した。そして鷲峰寺から20分とかからず駐車地点に戻り着いた。これでこの日の三つの山を登る予定は終わり、最後に東山寺の紅葉を楽しむことにした。東山寺は山中にある寺だったが、案内標識に従って車を走らせると、10分とかからぬ時間で山門前の駐車場に着いた。時間は16時が近づいており、曇り空とあって少し薄暗さがあったが、まだ数人が境内を散策していた。ただ楽しみにしていた紅葉は盛りを過ぎており、多くの木で落葉が進んでいた。それでも幾本かの木が黄色に赤にと、鮮やかな色付きを見せており、来た甲斐があるだけのモミジ鑑賞を楽しめた。境内にいたのは20分ほどだろうか、はっきりと夕暮れの迫る気配が漂ってきたため、東山寺を後にすることにしたが、駐車場に戻ってきたとき、東の方向に梢越しで摩耶山が見えていた。東山寺の境内からも少し望めていたが、今少し良く見えそうに思えたので、摩耶山の方向へ少し歩いてみることにした。少し下る形で駐車場を離れると、ちょっと高台の上に出た感じになって、前方に摩耶山がすっきりと眺められた。山肌をモミジ色に染めて、周囲の尾根から頭一つ出していた。やはり名の付く山は周囲から目立つものだと、その薄暗い空に浮かぶ摩耶山を暫し眺めていた。
(2009/12記)(2021/4改訂) |