鶴ヶ嶺は豊岡市日高町の南部にあって、阿瀬川と観音寺川に挟まれる位置に立っている。最初、「栃本」の地形図を眺めたとき、鶴ヶ嶺の三角点(点名・鶴ヶ峯)は山頂には無く、少し東寄りに離れた所にあることが気になったが、感想としてはただそれだけで、地図を見ただけでは登りたい気持ちは起きなかった。その鶴ヶ嶺が別名、三方富士と呼ばれる姿の良い山で、しかも山上に鶴ヶ嶺城跡が広がっていると知って、漸く登りたい気持ちが起きてきた。
向かったのは2011年7月22日のこと。登山経路は分からなかったので、地元で聞けるものなら聞こうと考えたが、ごく小さな山なので分からなければ適当に登るつもりでもあった。その22日の天気は、前日の予報では曇りながらも午後より徐々に晴れるとなっていたのだが、その日の但馬の空は曇りながらも晴れる気配は無く、逆に今にも雨が降り出しそうだった。しかも高い山はすっかり雲に隠されていた。日高町に入って国道482号線から県道へと車を進めたとき、前方にすっきりと三角錐の姿をした山が現れた。一目で鶴ヶ嶺だと分かった。ただその山頂にはガスがかかっていた。天気予報を信じて、ガスの薄れることに期待することにした。前方の鶴ヶ嶺を見ながら車を走らせると、森山集落を抜けて観音寺集落へと入った。鶴ヶ嶺には観音寺集落からのアプローチを考えていたので、車は観音寺公民館の駐車場に止めた。そばでお年寄りがゲートボールを楽しんでいたので、その中の一人に鶴ヶ嶺のことを聞くと、登山道はあるようだったがどうも要領を得なかった。そこでこちらが考えていた一番易しそうな尾根を登って行くことにした。低山なので少し無理をする程度で主稜線に出られるのではの考えだった。集落内を歩き始めると、すぐに観音寺仁王門の前に出た。その門を潜ると右手に神社への石段が始まっていた。その神社の背後から登って行く考えだった。急坂の石段を登りきって、小ぶりな神社の前に出た。その神社の裏手に回ってみると、登山道と呼べるほどでは無かったが、けもの道程度の小径が始まっていた。辺りは植林地で、竹が混じっていた。やや傾斜がきついもののヤブでも無いので、無理なく登って行けた。登るほどに周囲はすっかり植林地に変わってきた。その登る途中で山道に出会ったので、それが山頂への登山道かと思って歩いたところ、山腹をトラバースするだけのようだった。すぐに山道を離れて、小さな尾根を登って行くことにした。登るほどに急坂になってきたが、そこも植林地で下生えは少ないため、しっかりと踏ん張って登る感じは悪くなかった。登りきって主尾根に出ると、そこは小さなピークになっていた。地図を見ると、どうやら290mほどのピークと思えた。もう後は西へと主尾根を歩いて行くだけだった。尾根歩きとなって、周囲は自然林が多くなってきた。はっきりとした山道にはなっていないものの、か細い道と言った感じで無理なく歩いて行けた。ときに痩せ尾根になっていたり小さな岩があったりして、自然な感じは悪く無かった。但し周囲は樹林が占めており、空いた所から覗くのはガスのみだった。歩くうちに尾根の傾斜が増してきた。ときに尾根が崩れたようになって歩き難くなったが、それは城跡のエリアに入って堀切のような所を通っているためかと思われた。そして山頂が近づいたとき、ロープの張られた急斜面が現れた。そこを登りきった所は小さなピークになっており、三等三角点(点名・鶴ヶ峯)をそこに見た。辺りは自然林の優しげな風景で、うっすらとガスが漂っていた。緩く下って緩く登り返すと、一段と広く平らな所に出た。そこが山頂だった。そこも自然林が広がっており、落ち着いた佇まいを見せていた。西には一段下がって平らな所があり、はっきりと城跡の地形を見せていた。その風景は悪くないものの、うっすらガスが漂うとあって、展望は全く無かった。木々の空いた所から見えるのは、ただガスのみだった。そのうちに霧雨が降ってきた。どうも天気は良くなるどころか悪化しているようで、天気予報は完全に外れたようだった。大きな木の下で雨宿りをする感じで休憩とした。霧雨はときに小雨になったりしたが、降ったり止んだりで、あまり濡れることは無かった。静かなひとときを過ごした後、下山に移った。下山を始める前に改めて本丸と呼べる山頂を散策したが、一本の桜の大木が印象的だった。春の季節にその桜の木の下に立ってみたいと思った。下山のコースだったが、山頂まで歩いて来る間に登山道らしきものは見えなかったため、山頂から南へと延びる尾根を下ることにした。地図を見ると等高線の間隔が狭くなっており、けっこう急傾斜のようだったが、それだけにてっとり早く下れそうだった。地図の通りに急坂が続いたが、概ね植林地で、尾根なりに下って行った。相変わらず霧雨が降ったり止んだりで、その中を足下に注意しながらも、けっこうテンポよく下った。尾根はほとんど緩むことは無く、麓が近づくと一段と急坂になってきた。そこはさすがに慎重に下って、無事に観音寺川沿いの林道に下り着いた。後は林道を東へと歩くと、程なく観音寺集落が見えてきた。
(2011/8記)(2021/6改訂) |