市川町には城山と名の付く山が幾つかあるが、2009年に入ってその一つが俄然、注目されることになった。稲荷山城跡のある鶴居城山で、鶴居中学校の北西に位置している。東側からその姿を見ると、すっきりと富士山型をして悪く無い山容なのだが、その西にある大中山の存在が大きすぎて、播但道を走っているときはその大中山ばかりに目が向いていた。その目立たなかった鶴居城山が注目されることになったのは、その山頂の姿が一変したためだった。それは山頂の木がほとんど切られて、すっきりした山頂に変わったことだった。そこに日の丸の揚がることもあり、いやでも目に付くようになって、大中山よりも鶴居城山に自然と目が向くようになったものである。どうみても登山道も整備されていることだろうと思われた。そこで一度登ってみようと興味が出てきたが、ただ小さな山なので簡単な登山で終わってしまいそうに思え、そのうちにでもと考えている間に数ヶ月経ってしまった。漸く向かったのは5月の中旬、16日の土曜日だった。この日は午後に雨が予想されたため、午前を軽い登山で過ごそうと考えた。そこでこの鶴居城山を登ろうと思い付いたものである。
播但連絡道を市川南ICで下りて、西に見える城山へと近づいた。登山道の知識は無いものの、小さな山なのでどこから歩き出しても時間はかからないだろうと、鶴居中学校の西に見えた墓地に車を止めることにした。そこからスタートして中学校の西の道を歩き出すと、すぐに案内標識が現れた。「城山登山道入口」の方向が示されており、鶴居環境委員会の名があった。予想したとおり地元の有志で登山道が整備されたものと思われる。山裾が近づくとそこにも墓地があり、また案内標識が立っていた。墓地そばは空き地になっていたので、そこに車を止めておけばすぐに登山口を登り出せそうだった。山裾は害獣避けのフェンスが張り巡らされており、登山口の扉を開けて中に入った。登山道は竹林の中を緩やかな上り坂で始まった。やはり登山道は真新しく、削られた部分には荒さが見られたが、過度に整備されておらず、手頃な山道の雰囲気があるのは悪く無かった。丸太の階段も間伐さ米地橋の近くれた木をそのまま使っており、整備の努力が感じられる登山道だった。その登山道には100m単位で道標があり、山頂まであと何メートルと表記されていた。涼しい中を登っていると、あと500mの位置で四等三角点に出会った。地図を見るとその位置で標高286mだった。ちょっと中途半端な位置だったが、測量には良い所なのかもしれない。周囲の木立がヒノキの植林に変わると傾斜が増してきた。この日は曇り空とあって気温は16℃と低めで、登るには適度な涼しさだった。植林はまだ若木で、登るほどに南西の方向に展望が現れてきた。七種槍、七種山が間近だった。その植林が雑木林へと変わると一度傾斜は緩んだが、次に急坂となって階段道が続いた。その階段も間伐材が利用されており、里山の雰囲気を残しているのは好感が持てた。急坂を登り切ると尾根のはっきりした所に出た。一帯には季節がらモチツツジの花が多く咲いていたが、そこからは東への展望も開けていた。そこで一休みをと考えたが、山頂の展望が良いのは分かっていたので、休まず山頂を目指した。その位置から尾根は緩やかになり、ほんの数分で山頂に着いた。その山頂は遠くから見えた通りに、ほとんどの木が伐られて数本が残るだけで、何ともあっけらかんと開けていた。そして予想通りに大展望が広がっていた。まずはその素晴らしい展望を楽しんだ。南西に見える七種山に七種槍は、間近にあるだけに迫力十分だった。それ以上に大中山がどっしりとしていた。北の方は少しうっすらしていたが、白岩山の尾根が望まれた。その右手には笠形山が山頂だけを覗かせていた。そして東向かいは市川を挟んで初鹿野山の尾根が対峙している。南にはうっすらとながら瀬戸内海も見えている。本当に城跡と考えれば、素晴らしい物見台だったことと思われた。この日の視界はくっきりとは言えなかったので、快晴の日にはさぞかし素晴らしいことだろうと思わずにはいられなかった。ひとしきり展望を楽しむと、山頂のベンチに腰掛けて一休みとした。そのベンチも残材で作られたものだった。山頂は休むには適度な場所だったが、ただ木蔭がほとんど無かったので、陽射しの強い夏は厳しいのではと思えた。また城跡と考えればさほど広さは無く、せいぜい物見としての出城程度だったかと思えた。ところで山頂には木製の小棚が置かれていたが、中を覗いてみると雑記帳があり、既に多くの人に登られているようだった。雑記帳以外にも登山地図が入っており、それを見ると大中山方向に今少し尾根を歩いて、周回でこの城山を楽しめるようだった。その地図を見て、いっそうのこと大中山まで足を延ばせばけっこう歩き甲斐があるのではと思えたが、この日はどんよりとした曇り空でもあり、またピストン登山のつもりで登ってきたため、予定通りに登ってきたコースを引き返すことにした。山頂から足下に広がる田園風景を今暫く眺めた後、下山へと向かった。その登山道を下りながら、特に新たに切り開かれた道とも思えなかったので、以前から多少のヤブながら登山道があったことと推測された。下りは楽なもので、どんどん下ると20分少々でゲートの位置に下り着いた。そのゲートを抜けながら、良く晴れた日に、鶴居城山から大中山までの縦走をぜひしてみたいとの思いが、改めて胸に湧いてきた。
(2009/6記)(2020/9改訂) |