但馬をゆったり流れる円山川は、八鹿町で八木川と合流してその流れを大きく屈曲させ、北へと向きを変えている。その河岸の道を北へと走っていると程なく見えてくるのが、進美寺山から須留岐山へと続く尾根である。どちらも500mに満たない山だが円山川に間近に迫っており、周囲の山とは別世界を作っている。その二つの山を楽しもうと但馬に向かったのは、2004年2月20日のことだった。例年なら小ぶりな山にもまだまだ雪が残っているはずだったが、2月に入ると暖かい日が続き、特に訪れる数日前からは異常な暖かさで、但馬には春風が吹いていた。景色も霞みがかって、どこにも冬の厳しさは見られなかった。まずは進美寺山を目指すことにした。進美寺山は但馬三十三霊場の第一番札所である進美寺を抱く山で、コースとしては北に位置する日置神社からのコースもあったが、手軽に登ろうと西麓の赤崎集落からのコースで登ることにした。そこで駐車地点を赤崎集落に求めて集落内に入ったのだが、これが恐ろしく狭い路地ばかりで、方向転換もままならなかった。仕方なく集落を離れて、集落近くにあった農道の路肩スペースに駐車とした。歩き出すと進美寺を示す標識があり、それに従って進んだ。山裾の傾斜地に寄り添うように固まった集落を抜けると、古びた神社に出たが、その前に駐車スペースが有るのを見た。そこに駐車しても良かったようである。進美寺道と名付けられた参道は、その神社の横から始まっていた。尾根をつづらに登って行くが、あまり歩かれていないのか落ち葉がうず高く積もっており、少し歩き難くなっていた。ただ参道らしく丁石地蔵が点々と置かれていた。暖かい陽射しを受けての登りなので、Tシャツだけの姿だったがすぐに汗をかいてしまった。低山なのでさほど時間もかからず山頂が近づいて来ると、山頂に向かう道とは別に進美寺への道が分かれた。進美寺に寄るのも目的の一つだったので、まずは進美寺に向かった。道は北へとトラバースするが、むしろ下り気味だった。山陰となるので雪も見られるようになった。今少し下るのかと思いかけた頃に、進美寺が現れた。本堂は雪囲いがされ、その周囲は雪が多く残っており、そこのみは冬の姿だった。雪囲いでよく分からなかったが、なかなかの古刹で、古さの醸し出す重厚さが漂っていた。その先に庫裡を見たが、かつてはユースホステルでもあった庫裏は今は無住となっており、裏寂れた雰囲気になっていた。ただその庭先は陽当たりが良く、もう紅梅がちらほらと咲いており、そこは春の華やぎが少し感じられた。少し辺りを歩いてみると、進美寺を囲む木々の切れ目から東の方向に展望があり、尾根続きとなる須留岐山が間近く見えていた。庭先で陽射しを甘受した後は、山頂へと向かった。この進美寺からは来た道を戻らずとも、山頂方向へ向かえる別の道が見えたので、その小径を辿った。程なく赤崎集落からの直登ルートに合流した。もう山頂は目前だった。尾根道の周囲の木々は低くなり、振り返ると江原の家並みやその背後の尾根、さらにその背後にモヤに煙った妙見山から蘇武岳へと続く白い尾根が眺められた。そして山頂へ。三角点の無い山頂は木立が茂っており、その中にぽつんと小ぶりな白山権現堂が建っていた。そしてお堂の辺りにだけ明るい陽射しが降り注いでいた。その進美寺山を後にすると、いよいよ須留岐山を目指しての尾根歩きを開始した。ところがてっきり尾根道があると思っていたのに、それらしき小径が見当たらなかった。仕方なく雑木の繁るやや急斜面を、方向を定めて下りて行くと、山腹を巻くように延びている山道と出会った。どうやら進美寺から来ているようで、尾根歩きは進美寺山から始めるのが正しかったようである。はっきりとした道に出会い、もうのどかなものである。暫くは尾根上を歩かず、尾根筋から少し離れて尾根と平行して登山道は続いた。最初の小ピークを巻いた先から尾根筋を歩くことになった。ちらちらと前方に須留岐山の見えることがあったが、まだまだ遠かった。しかしこの尾根歩きは楽しかった。葉を落とした自然林の佇まいが美しく、小さなピークを幾つか越して行くのだが、ごく自然な山道は少し小笹が現れることがあったものの踏み心地は良く、近頃よく見かける階段ばかりの遊歩道など足元にも及ばない鄙びた美しさがあった。展望が開けないことなど気にもならず、歩いていること自体が楽しい尾根だった。新緑の頃など更に楽しいのではと思えた。ただこの日の冬枯れの景色を見ながらの尾根歩きも悪くなかった。Tシャツ姿でもちょうど良い感じで、ほんのり汗をかきながら歩を進めた。それでも2月とあって、山陰にはまだ雪の残っているのが見られた。次第に須留岐山が近づいて、その手前の370mほどのピークにかかると急坂登りとなった。それまでが楽に歩けていたこともあり、足に疲れは無かったので一気に登って行った。その急坂登りで後ろを振り返ると、木の間越しに進美寺山が見えていた。その辺りの雑木の風景も良い感じだった。程なく須留岐山への最後の登りにかかる所で、この尾根一番の展望地に出た。南の方向のみだったが強いモヤの中、円山川流域の山並みが見渡せた。そこより一登りした所が山頂だった。歩き易さのままに歩いて、進美寺山から一時間弱での到着だった。尾根ではほとんど見かけなかった雪だったが、須留岐山の山頂には多く残っていた。三角点の周りに高い木は見られず、展望が期待出来そうに見えたのだが、周囲の樹林が展望を遮っていた。僅かに北の方向、豊岡平野あたりが眺められる程度だった。その山頂を見て、展望など気にせず春の季節に新緑の中でのんびりと風に吹かれるのが相応しい所ではと思えた。それでもどのような景色が広がっているのだろうと気になり、手頃な木に登ってみた。すると西の方向は進美寺山がすんなりと見え、その後方の山並みも広く見渡せた。しかし遠くの山はモヤで輪郭しか見えていなかった。山頂の東端に立つと、そちらからは梢越しに雪を残した床尾連山がちょっとした高山の雰囲気を持って眺められた。山頂に立ったときが昼どきでもあったので昼食としたが、この日は本当に暖かい日で、食事を済ませると少々眠気を催してきた。山頂よりも先ほどの展望地のほうが寝転がるのにちょうど良い所と思えたため、そこまで戻って一時間ばかりの昼寝を楽しんだ。須留岐山を十分に楽しんだ後は、往路を引き返して駐車地点へと戻って行った。
(2004/3記)(2016/9改訂)(2020/4改訂2) |