加西市の北を限る鎌倉山の尾根は、その南に播州平野が広がっているため、遠くからでもよく目立っており、加古川市辺りの低山から北を眺めたとき、鎌倉山の端正な姿がまず目に飛び込んでくる。その鎌倉山を1999年に鎌倉谷からの登山道を歩いて柳峠経由で登っていたが、その後にコースが整備されて、鎌倉山だけでなく東へと続く尾根までもハイキングが楽しめるようになっていた。そこでその一般コースでもう一度登ってみたいとの気持ちを、淡いながらも持ち続けていた。2009年に入って5月に丹波市を目指したとき、ルートとして加西市を北上する県道79号線を走ったのだが、このとき正面に見えていたのが鎌倉山だった。久々に鎌倉山を間近に眺めて、改めて美しい山だと思った。そして急に登りたくなってしまった。その気持ちが起これば、もう翌週に行くことを決めてしまった。向かったのは5月最終土曜日の30日。曇りから薄曇りと言ったちょっとぼやけた空の日だった。この日は加西市は田植えが最盛期を迎えており、あちらこちらで田植機に乗る姿が見かけられた。鎌倉山を正面に見ながら県道79号線を北上して、河内バイパス交差点で県道24号線に合流する。そして24号線を西進すると鎌倉山の標識が現れたので、それに従って右に折れた。鎌倉山の麓に通じるその車道を走って行くと、登山口の標識が現れ、そばに案内板も立っていた。その図を見ると、近くの普光寺に駐車場があり、コースもその普光寺から尾根に通じるコースもあるようで、そちらに車を止めておくのが無難なように思われた。但し、鎌倉山を先に登りたい気持ちがあるので、登山は今立っている位置の登山口からと決めた。まずは普光寺のそばに車を進める。その普光寺は新緑に包まれた美しい古刹だった。ただ何やら工事の最中で、タンクローリーが何台も行き来していた。その普光寺の前が駐車場だったが、少し手前にハイキング用の駐車場も作られていた。そちらの方が普光寺側の登山口が近いようで、そのハイキング用駐車場に戻ってそちらに車を止めた。その駐車場に幹回り4メートルの見事なケヤキの大木が立っており、目を瞠らされた。その駐車場から鎌倉山登山口へは、山裾を巡る近道で近づいた。その頃は上空に晴れ間が広がっており、このまま晴れるのかと思わされたが、歩くうちにまた雲が広がってきた。先ほどの案内板の立つ位置まで来たが、そこに登山口標識はあるもののまだ登山口では無く、西へと分かれた車道を数分歩いた位置が登山口だった。小橋がありそれを渡った位置から登山道が始まった。始めは植林の中を歩くことになり、あまりハイキング道の雰囲気は無かった。もう上空は曇り空になっており、少し薄暗くなった中を登山道はつづら道で続いていた。風が少しあり、涼しい中を登って行けるのは助かった。中腹を過ぎて植林地を抜けると、小さなお堂が現れた。そのお堂には鎌倉寺の名札が付いていた。その鎌倉寺を通り過ぎたとき、「西ののぞき下」の標識が現れた。その標識から展望地のように思え、コースを離れて「西ののぞき下」に向かうと、さほど歩かず大きな岩壁が現れた。そして予想通りに南に向かって広々と展望が開けていた。加西市の田園風景が一望だった。コースに戻ってひと登りすると、そこが「西ののぞき」で、先ほどの下の位置よりも更に広々とした展望が広がっていた。暫し足を止めて展望を楽しんだが、前回の登山で広い展望をここから得たことを思い出した。その前回に比べるとこの日の視界はうっすらとしており、六甲の山並みはかすんでほとんど見えていなかった。ただ今回はその「西ののぞき」の位置から、岩壁に彫られている磨崖仏が眺められることが分かった。そこまでも特に急坂も無く登って来たが、その先も無理のない坂だった。穏やかな雑木林の中を登って行くと、「西ののぞき」の位置から6分も歩けば山頂が目前になった。林の中から飛び出すような感じで一気に空が広がって、ひょいと言った感じで山頂に立った。その山頂が10年前と一変していた。目立つ木がすっかり切られてしまっており、「西ののぞき」よりもいっそう素晴らしい展望地に変わっていた。新たに西から北への展望も加わっている。その山頂の中心には変わらず法起菩薩像があり、三角点のそばには小さなお地蔵さんが置かれていた。これだけだと鎌倉山の名に相応しい山頂と言えるのだが、他にも俯瞰図があったり望遠鏡まで設けられているのは、ちょっとやり過ぎではと思われた。そのことは置くとして、この日の山頂は本当に涼しかった。絶えず北から爽やかな風が吹いており、ひたすら快かった。その風に吹かれながらパートナーと二人っきりの静かな昼どきを過ごした。そしてお腹を満たしたところでゆっくりと展望を楽しんだ。望遠鏡は南の方向を向いているだけに、そちらが一番の展望だったが、山頂展望としては西から北への方向が面白いと言えそうで、何と言っても北の笠形山が大きかった。その北の空には黒い雲が広がっていたが、その暗い中で笠形山がシルエットの姿となって重量感たっぷりに眺められた。西には明神山に雪彦の山並み、そして北東には千ヶ峰と、やはり北の眺めが楽しかった。ところで山頂にはワラビがけっこう繁っており、よく見ると芽生えたばかりのものもちらほらと覗いていた。そこでパートナーと共に暫しワラビ採りも楽しんだ。この鎌倉山山頂を離れたのは、まだ12時前の時間で、次の目標の鉢尾峰(大天井)までは2.7kmの距離がある。登山道はその先も優しげな道で続いており、のんびりとした気分で下って行く。孔雀明王の像の前を過ぎると前方が少し開けて、これから向かう鉢尾峰の尾根が眺められた。尾根には鉄塔が幾つか建っているのが目に付いた。そのうちの二つの鉄塔とはその先の登山コース上で出会うことになった。やがて柳峠へとやや急な下り坂となる。柳峠は標高310mほど。一帯は植林地とあって薄暗い峠で、鎌倉谷からのコースが合流していた。登り返しは緩やかで、程なく「東ののぞき」に着いた。ここも岩場の展望地で、「西ののぞき」と同じく鎌倉谷から播州平野へと広がる風景が眺められた。うその先も登り坂が続き、最初に着いたピークには大日如来像が置かれていた。ここは標高460.8mとあり、このハイキングコースの最高点だった。展望も無いのでそのまま通過する。もう緩やかな尾根道で、455mの小さなピークを踏んで、その次のピークが小天井(460.2m)だった。ここでハイキングコースの尾根は境界尾根を離れて南へと折れた。そして僅かな距離で大天井(460.5m)に着いた。大天井の別名が鉢尾峰で、ここは少し展望があったのでひと休みとする。このときは陽射しが現れており、また風が止まっていて少し暑さを感じながらの休憩だった。この鉢尾峰から尾根は下り坂となった。その坂が一度緩んだときに西に展望が現れて、そこに鎌倉山がどっしりと立っていた。鎌倉山は富士山型では無く台形の姿で見えていたが、やはり美しい山だった。そのまま下りを続けると、周囲は植林地となって薄暗い風景となった。その中で普光寺へのコースの分岐点に着いた。尾根なりに最後まで下る行者道コースで麓に戻る考えもちらりと浮かんだが、駐車地点までの車道歩きを考えると、当初の考え通りここから普光寺コースに入ることにした。植林地の急斜面をジグザグで下って行くと小さな尾根に出て、そこでも送電塔に出会った。このコースは巡視路になっているのかも知れない。概ね植林地を下ることになり、最後に林道に下り着いた。そこが普光寺側の登山口になっていた。その林道を数分歩いて普光寺の参道となっている車道に合流した。そこは駐車地点とは指呼の距離だった。この後はゆっくりと普光寺を見学しても良かったが、何だか鎌倉山ハイキングだけで十分に満ち足りた気持ちになっており、後は山門付近を散策しただけで帰路についた。この鎌倉山ハイキングは低山にしては見所が多くあり、展望も十分に楽しめて、手頃なハイキングとしてはお薦めコースでは、がこの日の感想だった。
(2009/6記)(2021/7改訂) |