佐用町の中心部に入ったとき、実栗交差点で国道179号線を離れて江川川沿いの県道を北上した。そして豊福集落を過ぎた所で奥詰めの村となる平谷集落へと県道を離れた。川沿いの道を進んで平谷集落に入ると、道が二手に分かれたので、左手の川沿いを進んで行った。そして道が林道となりかけた手前の路肩に駐車とした。「佐用」の地図では南の谷から破線路が山頂まで描かれており、それを歩こうと考えていた。駐車地点より先は程良い感じで道は続いていた。その道が川沿いの道とそのまま山に入る道とに分かれると、山に向かう方が手入れが良かったため、そちらを歩いて行くことにした。しかし道はすぐに終わってしまい、その先はヤブだった。一度戻って川沿いの小径を歩いてみたのだが、その道もやがて不確かになってきた。ここで改めて地図を眺めたところ、どうやら目的の沢より一つ北の沢を歩いていたようだった。ただ近くに尾根が見えており、その尾根でも山頂に向かえるので、それを登って行くことにした。灌木の小枝が少し煩わしい程度で尾根に出ると、尾根も似たようなものだった。灌木の小枝を避けながら登って行くと、山頂まで僅かな距離となったとき、南からの尾根と合流した。そちらが本来目指していた尾根だった。はっきりとした小径もあって、程なく山頂に着いた。山頂は周囲を雑木が取り囲んでおり、展望は無かった。ただ静けさと落ち着きが取り柄と言えそうな山頂だった。その山頂でひと息入れた後、早めの昼食とした。そして食後、少しは風景を見たいと手頃な木に登って周囲の景色を眺めたところ、この日はモヤがひどかった。空気は澱みきったようになっており、薄ぼんやりとしか見えなかった。青空はほとんど白いと言ってよく、近くの山こそ輪郭が分かったが、遠くは全く見えなかった。見えていたのは北の方向だったが、高低差の少ない稜線が続くのみであまり特徴は無かった。山上に見えた白い建物は養鶏場の施設かと思われた。こうして平谷深山の山頂に立ってみたものの、少し物足りなさを感じたので、県境尾根を少し南へと歩いてみることにした。歩き始めて程なく南に向かって展望の開けた所があり、恐らく亀ヶ逧ではと思える集落が見えていた。その集落からなら逆に平谷深山の姿が見えるのではと思われ、そちらに向かうことにした。始めのうちは道こそ不確かなものの尾根を辿って行けたのだが、段々と尾根がはっきりしなくなった。それに灌木も茂って歩き難かった。蒸し暑いのも気分的に良くなかった。そろそろ亀ヶ逧集落への破線路が始まる位置ではと思える辺りまで来ると、地形が少し複雑になっていた。そこを薄ぼんやりとした気分のままに歩い行った。尾根なりに歩いていたところ、やがて前方に細竹の竹ヤブが広がった。少し遠巻きにしても良かったが、ヤブコギのほうが早いだろうと、竹ヤブを突っ切ることにした。それが始めこそ疎らだったが、やがて密集し出して本格的なヤブコギになってしまった。もうムリヤリ抜けて行くしかなかった。漸く抜け出ると、後は谷筋を辿るうちに小径と出会った。やがて道ははっきりしてきた。もう緩やかな道で、これでこの日のきつい登山は終わったの思いで歩いて行くと、河原を渡った所で民家が見えてきた。そこに来てどうも周りの見え方が違っているような気がした。あわてて地図とコンパスを取り出したところ、南東方向に歩いているはずが全く逆の北西に向かって歩いていた。念のために民家の一軒で尋ねると、そこは岡山側の小滝集落とのことだった。苦労して全く逆の方向に尾根を下ってしまったようだった。途中でコンパスも見たはずだったが、思い込みもあってか南北を勘違いしたようだった。全くの要らぬ苦労をしてしまった。しかし戻るしかない。坂がきつくないのは救いだった。竹ヤブの位置は遠巻きにして登り、県境に出ると慎重に方向を定めて下った。兵庫県側は岡山県側とは違ってさほどの苦労も無く下って行け、程なく小径を辿れるようになった。ただ十分過ぎるほど疲れていたため、思考力も無く惰性のような感じで歩いた。小径は十分な道幅の道に変わり、やがて車道に合流した。そして亀ヶ逧の集落へと入って行った。そこから見る平谷深山に期待していたのだが、見える尾根は起伏にとぼしく、どこが平谷深山のピークなのかもう一つはっきりしなかった。期待外れに疲れが倍加した思いだった。そこから駐車地点まではまだまだ距離があった。午後の車道歩きは路面の照り返しもあって、あまり楽しいものでは無かった。ひたすら暑さを我慢して黙々と歩いた。この車道歩きは1時間は続いたようで、駐車地点に戻ったときは、こんなに疲れるとはと自分にあきれる思いだった。
(2002/9記)(2008/7改訂)(2021/10写真改訂) |