神河町から高坂トンネルを抜けて多可町に入ったとき、まず目に入ってくるのは妙見山だが、加美区へと下りてきたとき、右手に現れるのが烏帽子山で、その端正な姿を見れば当然登りたくなる。姿の良さだけでなく、その山上からは笠形山が間近く眺められるのではと期待して登ったのは2002年7月のことだった。寺内集落側から林道を途中まで歩いて、登山としては易しい部類で山頂に立ったのだが、雑木の茂る山頂は展望は悪く、少々失望したものである。そこで少しは展望を得ようと、北東方向へと尾根を下ったとき、出会ったのが展望抜群の岩場だった。その上に立つと、北から東へと全く遮るものの無い展望が広がっており、いたく感激したものだった。その烏帽子山を10年経って再訪したくなった。再び展望岩に立ってみたいとの思いからだった。但しコースは変えることにした。「中村町」の地図を開くと、緩やかに延びる南尾根に魅力を感じた。小さなピークを二つ越すことになるが、峠から山頂までは適度な距離とあって、手頃なハイキングを楽しめそうだった。
向かったのは2012年3月の春分の日。晴れてはいるものの、春らしくうっすらとした空の日だった。高坂トンネルを抜けて加美区へと入ると、県道8号線を離れて南へと向かう県道143号線に入った。烏帽子山の西麓を走って八千代区坂本に入ると、左手に烏帽子山の南を通る車道が分かれた。その峠に向かう道へ入った。すぐにヘアピンカーブがあり、峠までも僅かな距離だった。峠のそば、南側の山際に2台分の駐車スペースがあり、そこは「老人会山」の名が付いていた。車を止めていても問題無さそうなので、そこに駐車としたが、問題は北側の尾根にどう取り付くかだった。そちらは法面工事によってコンクリートの急斜面になっており、どう見ても登れそうに無かった。そこで車道を戻る形で西へと歩いて行く。峠に向かうとき、少し手前に水道設備なのか北側の斜面に白い建物が見えていたので、そこを手がかりにする考えだった。その白い建物へは峠道から分かれて車道が通じていたが、入口はクサリで閉じられていた。その車道の入口にも数台分の駐車スペースがあったので、そこに車を止めてもよさそうだった。クサリを越えて緩やかな車道を登って行くと、すぐにコンクリート作りの白い建物のそばに出た。八千代東簡易水道坂本配水池とあり、やはり水道設備だった。車道はそこまでだったが、その先もそま道があり、目印テープも付いていた。それを追って行くと、自然と南尾根を登るようになった。もうそこから先は、ただひたすら北へと尾根を辿って行くだけだった。その登山の様子は、下の写真帳を見ていただく方が分かり易いので、詳細は割愛させていただくこととする。南尾根は始めこそシダヤブがあったり、灌木が煩わしかったりしたが、352mピーク(点名・山カイ)を越すと、ごくスムーズに歩けるようになった。途中に480mピークがあってそれを越えて行くも、急坂になる所は無く、ほとんど穏やかな尾根歩きだった。山頂は露岩があって休むには良さそうだったが、周囲はすっかり雑木林で展望は無かった。その山頂から北へと少し下った位置に四等三角点(点名・冷谷)が置かれていた。そこも展望は無かった。すぐに尾根なりに北東方向へと下って行く。岩場の急坂があったりと少し注意が必要で、慎重に下った。程なく登りとなり小さなピークに出ると、そこで漸く展望が開けた。そこが目的地では無く、そこから急斜面を少し下った位置にあるのが、展望岩だった。そこに立ってみると、以前と変わらない見事な展望が広がった。間近には妙見山が対峙しており、北は千ヶ峰に竜ヶ岳がすっきと見えており、東は石金山までも遮るものも無く眺められた。ただこの日は北西の風が強くあり、まだ冷たさもあって穏やかに眺めるとはいかなかった。また風は花粉をいっぱい散らしているようで、目も鼻も痛くけっこう辛い思いをしながらこの風景を眺めた。その展望岩は狭いので、昼休憩は一段高い位置のピークでとった。そこから妙見山を眺めながらの昼食だった。下山はすんなりと登ってきた南尾根を引き返した。展望が無いようでも、注意しておれば見つかるもので、途中の木々が空いた所で、笠形山の姿を楽しむことも出来た。午後に入って空は薄雲が広がり出したため、風景は幾分淡い色合いになっていた。後はのんびりと下って、13時を少し回った時間に峠に戻ってくることが出来た。前回の烏帽子山は最短ルートで登ろうと、北側の林道をアプローチに登ったのだが、この日の南コースは長く尾根を歩きを楽しめたことで、こちらの方がハイキングとして面白いのではと思えた。また来るとしたら、冬の日にこの南尾根を再び登って、多可町の雪化粧を眺めるのも悪くないと思いながら、この日の烏帽子山登山を終了した。
(2012/4記)(2021/6写真改訂) |