播州の真ん中に住んでいると、同じ兵庫県と言っても北摂の山は遠く感じられ、小さな山はどうしても縁遠くなっていた。距離的には但馬へ行くのも変わらないのだが、山の雰囲気だけで無く交通量や駐車のし易さを考えると、同じ遠出なら但馬へと出かけていた。その結果として、北摂にはまだ登っていない山が多くあるのだが、その一つの大峰山が2009年春に選定された兵庫百山の中に入っていた。この大峰山は羽束山に登ったおりに、一帯では少し大ぶりなどっしりとした山容で眺められ、登ってみるのも悪くないと思っていた。また西麓の武庫川沿いを歩く廃線ハイキングも面白そうだった。そこで久々に北摂の山を登ろうと向かったのは2009年9月の最終土曜日だった。空は良く晴れており、山陽自動車道を快適に走った。問題は起点となる武田尾駅周辺に駐車場があるのかだったが、無ければ離れた所に止める考えで向かった。山陽道が中国道に合流してすぐの西宮北ICを下りる。国道176号線を北上し、道場交差点で道場駅へと通じる県道327号線に入った。そのまま武庫川沿いを順調に行きたかったが、車道は武田尾駅までは通じていなかった。そこで川下川ダムの西側を通って大回りで県道33号線出て、その県道を南下して武田尾駅に着いた。駅に着く前から駐車出来そうな場所があるかと車道沿いを見ていたが、山あいに空き地は無く、見ないままに駅に着いてしまった。また武田尾駅の周辺は総て月極駐車場になっていた。そこで駅に立ち寄ってみたが、無人駅のようだった。ただそばに駐輪場の管理小屋があり、そこには駐輪料金だけで無く、駐車料金も記されていた。管理人に駐車のことを尋ねると、一日500円で借りられることが分かった。さっそく申し込むと、駅から離れていたが、むしろ大峰山に近いハイキングにとっては好条件の位置に駐車することが出来た。準備を済ませて歩き始めると、すぐに鉄橋のような小橋があり、それを渡って武庫川の左岸に出た。もう廃線ハイキングのスタートだった。ここはJRが福知山線の複線化で新たに線路が敷かれたときに廃線となった所で、枕木が残されており、その上を伝うようにして歩いた。右手には武庫川の清流が眺められて、駅に近い所でこの雰囲気は悪く無いと思えた。程なくトンネル内を歩くことになった。照明は無かったが、短いトンネルなので出入り口からの光で十分に歩いて行けた。トンネル内はひんやりとしており、外が少し暑かっただけに快く感じられた。トンネルを出るとその先でまた次のトンネルが現れた。今度は少し長いトンネルのようで、中ほどまで来ると、ちょっと目を凝らさないと足下が見えなかった。ただこの日は良く晴れていたので、暗やみに慣れるとおぼろげに枕木を見ることが出来たが、曇天の日はつらいのではと思えた。その二つ目のトンネルを抜けた先に桜の園の入口が現れた。廃線ハイキングは武田尾駅の次の駅である生瀬駅までの長いルートなのだが、この日の目的は大峰山なので、廃線歩きはそこまでとして、桜の園の中に入って行くことにした。案内図があり、それを見て大峰山に通じる「さくらの道」コースを歩き出した。小橋を渡って山裾をつづら折れで登って行くが、遊歩道と言うよりもごく普通の山道の雰囲気だった。コースは名の通りに桜の木が多いようで、春には大勢のハイカーが訪れることと思われた。つづら折れの道が終わると東へと緩やかな道になり東屋が現れた。ちょっとお腹が空いていたこともあり、ここで休憩とした。陽射しの中でこそ暑かったが、やはり季節は秋で、木陰には涼しさがあった。お腹を満たしてハイキングを再開する。東屋の近くから大峰山への登山道が分岐しており、そちらに入ると尾根を登るようになった。ごく普通の低山の雰囲気だった。登り出して一度、武庫川の流れとその周囲の山並みが眺められたが、後は常に木々に囲まれた中を登ることになり展望は悪かった。その登りを続けているときにカップルのハイカーとすれ違ったが、大峰山の山頂が分からなかったとのこと。この先でピークに立ったが三角点が無く、その先は下り坂になっていたので引き返してきたそうだった。地図では特に複雑な地形でも無いので、不思議に思いながら緩やかになった尾根を登って行くと、なるほど三角点の無いピークに着いた。そして先は緩やかな下りだった。こちらは「武田尾」の地図を持っていたので確認すると、どうもこのピークは山頂手前の510mピークのようだった。ここで思ったのは、先ほどのハイカーが勘違いしたのも、大峰山の登山道に入ってから標識を見ないことだった。桜の園ハイキングの延長で気軽な気持ちで大峰山に向かう人もいるはずなので、今少し標識を立てた方が親切ではと思えた。ピークを越えて緩やかに下ったが、すぐに緩やかな上り坂になった。ずっと木々の中を歩くため、けっこう涼しい中を歩いて行けた。道は終始緩やかなので、だらだらと歩く感じだった。その雰囲気のままに山頂に着いた。ここまで先ほどのハイカーに会っただけなので、てっきり無人の山頂かと思っていたのだが、高齢者の6人グループが賑やかに休んでいた。山頂は三角点を中心に平らに開けていたが、周囲はすっかり木々が囲んでいた。こちらはグループから少し離れて休憩とした。涼しい風が木々の中を吹き抜けており、良い感じで休めたが、声高なグループの声が離れていても聞こえてきた。それはかまわないのだが、その話が北アルプスのことばかりだった。どうもいつもの光景ながら、兵庫の山で兵庫の山の話をしないのはいかがなものかと思ってしまった。こちらは軽く昼食をとった後、辺りを散策した。少しは周囲を眺められるのではと思っていたが、辺りの樹林は濃いようで、どうも展望は無さそうだった。山頂に戻るとグループは下山しており、パートナーと二人きりになれたのは良かった。ただ山頂には30分と居らず、次の安倉山に向かった。尾根なりに東に歩くとすぐに南へと下る小径が現れた。そこに標識は無かったが、方向としては安倉山へと向かっていそうだったので、特に気にせずその小径に入った。100m以上下って、漸く上り坂となった。その登りが始まったときに少しだが西に展望が開けたが、そちらには目立ち山は見えなかった。安倉山は大峰山と比べると100m近く低い山なので、登りはすぐに終わって平坦な山頂部に出た。ここで漸く安倉山の標識が現れたが、そこはまだ山頂では無かった。ただそばに木々の切れた所が見えたので、そこに立つと北向かいの大峰山が見えていた。ちょうど雲の下となって陰っていたため、陽射しが現れるまではと休んでいると、結局15分ばかりを過ごすことになった。この安倉山は広く平坦なので三角点を見つけ難いのではと思っていたのだが、登山コースを西へと歩いて行くと、三角点の案内標識が現れた。メインコースから少し離れており、南へ100mほど歩いた位置に四等三角点(点名・桜小場)が置かれていた。その辺りも平らになっており、案内標識が無ければ探すのに苦労しそうに思えた。こうして安倉山の山頂に立ったが、大峰山と同様に全く展望の無い山頂だった。どうもどちらの山も登山としては平凡さを否めなかった。すぐにメインコースに戻って尾根歩きを続けた。もう下り坂で、後は桜の園に戻ることになった。わざわざ北摂の山まで来て展望が得られないのは、少しばかりがっかりする気分だった。暫く下ると桜の園の遊歩道に合流した。そしてそこに立つ標識で展望所がごく近くに有ることが分かった。しかも二ヶ所あるようだった。てっきり展望の無いままハイキングが終わるものと思っていただけに、これはちょっとうれしいことだった。何ならどちらの展望所にも立とうと、まずは「あかまつ展望所」に向かった。尾根を西へと200mほど歩いた所に展望所があった。それまでのこまぎれの展望とは比較にならないすっきりとした展望がそこに広がっていた。北西方向が良く、目立つ山が二つ並んでいた。羽束山と大船山のようだった。大峰山のなだらかな姿も間近に見えていた。位置を変えると六甲の山並みも一望だった。快晴の空の下で、この大展望を楽しんだ。次に戻る形で遊歩道を歩き、「つつじガ丘展望所」へ。こちらは北西の展望だけだったが、「あかまつ展望所」よりも広く眺められた。この二ヶ所の展望で十分に満足の思いとなり、後は桜の園の園地内を抜けて戻るだけだった。「瀧見の道」を歩いて行くと、昼前に立ち寄った東屋に出た。そこからは「さくらの道」で隔水亭の前へ、そして「もみじの道」で桜の園の入口へと下りて行った。「もみじの道」を歩くようになって漸くハイカーと会うようになった。再び廃線を歩いていると、朝とは違った光が武庫川を照らしており、その優しげな風景を眺めながら駐車地点へと戻って行った。
大峰山だけでは兵庫百山に選ばれたことは疑問となるが、廃線ハイキングと桜の園ハイキングを加えることによって、けっこう良いレベルになっているようで、それを合わせての兵庫百山ではと納得した。
(2009/10記)(2012/6改訂)(2021/10写真改訂) |