市川町から見る笠形山は一等抜きん出た姿で、周囲の山を圧倒している。そのため手前には500メートル台の山が点在するのだが、いずれも小さなピークにしか見えず、興味の対象から外れていた。それが市川側から見える初鹿野山の姿に興味を持って、2003年にその初鹿野山と共に奥山を登ってみたところ、ちょっと味のある山域だと認識させられた。またそのおりに奥山の山頂からもう一つ骨格のしっかりした山が眺められたが、それは東隣に見えた山で、地図を見ると三角点記号の付いた562mピーク(点名・河内)だった。次に登るのならこの山だと思わせる存在感があった。ただ思いはしたものの、何となく行きそびれてしまい数年が経ってしまった。それが2010年に入った一月に、ひょんな思い付きで登ることになった。冬場の登山の楽しみとして下山後、温泉に浸かることがあるが、先に温泉として笠形温泉に行ってみたいと考えた。理由は単にまだ行ったことが無かったからだが、次に登山としてどの山に登るかと考えたとき、この562mピークを思い出したものである。登ると決めて、さてどのルートを登ろうかと「粟賀町」の地図を眺めると、562mピークを間にして北と南に破線路が尾根を横断しているのが見えた。これを見て、東麓の河内集落側から周回コースで歩くのが面白いのではと、すんなりと決めた。この考えをまとめたのが22日で、翌23日の土曜日に早速の実行とした。
この日は風も少なく、穏やかに晴れていた。河内集落への道順は簡単で、リフレッシュパーク市川を目指せば良いだけだった。県道34号線を河内口で離れてリフレッシュパーク市川への車道に入る。破線で示された林道の入口はどこかと左手に注意をしていたが、結局リフレッシュパーク市川まで走ってしまった。そこで引き返すとき、地図の神社記号を見て神社に注意することにした。それは大河内神社で、そこを基準に改めて左手に注意すると、市川町消防団河内分団の横から林道が山中に向かっているのが見えた。ここだと確信して、車を消防団前の空き地に止めた。この辺りの山すそも害獣除けの柵が巡らされており、林道の入口にはゲートが付けられていた。そのゲートを通って歩き出した。林道は平坦な道で始まり、周囲が植林地の風景となって山中に入った。次第に傾斜が増してくると林道は終わって、山道が谷筋に続いていた。その谷筋の小径だが、登るほどに倒木が増えてきた。間伐されたものであろうが、切り倒されたまま放置されているようだった。その倒木をまたいで行くのはけっこう面倒だったが、これも全身運動と考えて登って行く。もう小径ははっきりしなくなっていたが、谷筋を登って行けば問題は無いはずなので、コースを逸れることは無かった。傾斜が次第に増してきたが、周囲が植林のうちは倒木の多さは変わらなかった。その植林が尾根に近づいた頃になって、漸く雑木林に変わってきた。陽射しも差し込むようになり、明るい中を登れるようになった。傾斜はきついままだったが、掴まる木があったので、さほど無理も無く登れた。もう歩き易い所を登るだけだった。歩き始めてから一時間ほどで尾根に出た。尾根の木々は空いており、歩くのは易しそうだった。その尾根だが、尾根の方向は北東になっていたので、どうやら地図の破線路が尾根を横切る位置よりも少し北の位置に出たようだった。辺りは雑木林と言うか自然林になっており、落ち着きを感じる尾根だった。しかも緩やかな尾根だった。展望は無いものの、自然林の雰囲気を楽しみながら登った。山頂までには小さなピークを三つほど越すことになり、そのピークの手前は少し傾斜がきつくなった。そしてピークでは少しは展望も開けていたので小休止とした。南の方向が眺められて、近くに日光寺山が見えており、少し離れて市川流域の山並みも眺められた。歩くうちに尾根はすっきりと歩けるようになって、一段と優しい道になった。山頂手前のピークでも小休止して、尾根に出て40分で山頂到着となった。山頂には傷一つ無い四等三角点がポツンとあり、人の訪れの少ないことを窺わせた。その三角点の位置は少し木々が茂っていたので、少し南に戻って枯れ葉の散り敷いた場所で昼休憩とした。木漏れ日が優しい影を作って、落ち着ける所だった。パートナーと二人して静かなひとときを過ごしたが、そこは展望が無かったので、単に林に包まれている感じでもあった。そこで三角点の先へと少し歩いてみることにした。するとすぐに露岩の目立つ細尾根となって、そこはけっこう展望に恵まれていた。何と言ってもうれしいのは笠形山が間近に大きく眺められたことで、迫力ある姿に暫し惹きつけられてしまった。他の方向も少し木々に視界を妨げられるものの、東には丹波の山並み、西には近くに奥山があり遠くには雪彦の尾根、また南西には七種山の山並みと、この展望の良さにすっかりそこが気に入ってしまった。その展望に別れを告げて、下山は北の方向に向かった。尾根は始めに北西方向に向かい、そのまま下ってしまうと西の谷に下りてしまうので、途中で北へ向かう尾根に入った。そちらが笠形山へとつながる尾根なのだが、始めは急傾斜となっているため、尾根筋が少し分かり難かった。下るうちに尾根ははっきりして辿り易くなったが、あまり斜度は緩くならず、木に掴まりながら下った。植林地に入ると程なく鞍部に着いた。そこを地図では破線路が横切っていたが、その通りに山道が鞍部まで来ていた。後はその山道を下れば、河内集落へと下り着くはずだった。山道には測量用の赤い杭がなぜか2本ずつ打たれており、その目印もあって植林地内をごくスムーズに下れた。植林地を抜けると少し視界が開けて、その先でミツマタが点在する所を抜けると山道は林道へと変わった。その林道を長く歩くこともなく、河内集落内へ入って行った。その後はリフレッシュパーク市川につながる車道を南へと戻るだけだった。
ところで下山で最後に林道に出てきたとき、山仕事をしている人に出会った。この562mピークはマッタケ山であり、その権利を持っているとのことだったので、この山の呼び名について聞いてみると、「この岳」と呼んでいるとのこと。ただ漢字での表記は分からなかった。その方も小さなピークが続くこの山を気に入っているようで、暫く山頂には立っていないので、また立ってみたいと言われた。そこでこの日登ってきたことを告げると、なぜかえらく感心されてしまった。
(2010/3記)(2021/10改訂) |