長水山の南東尾根は北山へと繋がっており、北山へは生谷地区から登山コースが整備されている。生谷コースは「伊沢の里」に近い位置が起点で、北山経由で歩けば長水山山頂まで90分ほどかかりそうだった。ただそのコースも南東尾根を歩くことだけに絞れば、法師ヶ谷林道を終点位置まで車を進めることで、1時間ほどで長水山に立てることになる。その林道終点からスタートする易しいコースは何度か歩いており、2006年5月もそのコースで楽しむことにした。
前日からの雨は、朝も少し残っていた。ただ天気は午後には良くなるとの予想だったので、多少の小雨でも尾根歩きを楽しめるだろうと、長水山の尾根コースに向かった。林道終点には9時20分の到着だった。小雨はもう止んでいたが、予想通り車は止まっていなかった。歩き始めると、程なく一般コースと健脚コースに分かれた。一般コースは尾根に建つ展望台への近道コースで、健脚コースは北山の近くに出て、遠回りで展望台に着くコースだったが、健脚向きとまでは言えない易しいコースで、早く尾根に着けるコースだった。いつも早く尾根歩きに移りたいとの思いから健脚コースを歩いており、この日も健脚向きコースで登って、一般コースは下山時に歩くことにした。健脚向きコースは北山にも立ち寄れるので、始めに北山に向かった。これは北山周辺で山菜採りを楽しみたいとの思いからだった。山菜採りの季節を過ぎていたことからさほど期待していなかったのだが、意外とワラビは残っており、少しばかりワラビ採りを楽しんだ。そしておもむろに尾根歩きに移って長水山を目指した。鞍部を過ぎて400mピークに建つ展望台まで歩いてきたとき、車に昼食を置いてきたことに気付いた。そこでパートナーを展望台に残して一度車に戻ることになった。そうなると一般コースで車に帰って、一般コースで展望台に戻ってきた。おおよそ30分のタイムロスだった。その頃には上空の黒い雲は薄れており、はっきり天気は回復を始めていた。南の空は青空も見えていた。この日良かったことは視界が澄んでいたことで、水で洗ったと言う表現がぴったりの鮮やかさだった。新緑が生き生きとしていた。展望台を離れると、改めて尾根歩きを開始した。歩くうちに上空の雲は割れて、陽射しが現れることがあった。易しい尾根道とあって長閑な尾根歩きと言いたかったが、その尾根にも2004年秋の台風による風災害の爪痕があり、植林地では倒木が目立った。尾根は山頂が近づくと傾斜が増してくるが、それも厳しいとは言えず、やがて宇野コースが左手から合流した。その先で登山道は一度尾根筋から離れるのだが、この日は忠実に尾根筋を辿って行くことにした。登山道を離れると、雑木の小枝を掴んで登った。それも僅かな時間で山頂の南端に位置する広場に出た。そこには燦々と陽射しが注いでおり、漸くすっきりとした展望を楽しめることになった。北東に見えるのは雪彦山から南へと続く尾根で、東には明神山が山頂部を覗かせていた。北の空は回復が遅れているようで、まだ雲は厚かった。その南の広場で昼休憩とした。その休憩を終えてから三角点ピークへと向かった。鉄階段を登って信徳寺の前に出ると、その奥へと歩いた。その一帯が台風被害に遭っていた。イチョウの木が斜めに傾いており、最高点では石碑だけでなく玉垣がなぎ倒されていた。すさまじい被害だったようである。その最高点が展望地に変わっていた。北の風景を遮っていた杉木立もなぎ倒されたことで、そこに穴が開いたように北の風景が広がっていた。そこに見えていたのは堂々とした姿の水剣山で、これには驚くだけで無くうれしくなった。この風景に出会えたことで、この日の長水山登山は大満足となった。その北の視界も鮮やかなばかりで、稜線がくっきりと見えていた。この展望を得たことで、残りの時間でもう一山登りたくなった。山頂を後にすると、忠実に尾根コースを戻った。上空は快晴になっており、木々は鮮やかに眺められた。その風景を愛おしむようにゆっくりと尾根道を戻った。
(2006/10記)(2025/8写真改訂) |