福崎町の北を占める七種山塊は、主峰の七種山でも標高は700mに足りず、ごく低山の部類に入るが、山容はどの山もちょっと鋭さがあって登って面白い山域になっている。近場でちょっと足を疲れさせたいときに思い浮かべる山域の一つになっている。この薬師峰の登山道として「新・はりまハイキング」で東南麓にある野外活動センターからのコースが紹介されていた。これまでは南側からひたすら尾根を歩くハードな登山で登っていただけに、この短い距離で山頂に立てるコースに興味を持った。ただこのコースをピストン登山で登るだけでは少し短すぎるので、薬師峰に立った後は七種山へと縦走することを試みることにした。
向かったのは2007年9月の半ばのことで、天気予報から雲の多い晴れぐらいかと思っていたのだが、この日の朝になるとほとんど曇り空と言ってよく、しかも梅雨どきも負けそうなぐらい異常に蒸し暑い日だった。七種山への車道に入り、野外活動センターのそばに来ると、駐車場はキャンプの客以外はお断りと大きく書かれた注意書きを見た。どうやら登山者とトラブルになっているようだった。そこで縦走することでもあり、今少し車を進めて七種山の登山口となる旧山門前の駐車場に車を止めた。そして車道を引き返す形で歩き始めた。20分ほど歩くと作業道と言ってよさそうな林道が西の方向に始まっている地点に着いた。その分岐点に登山口がその林道方向にあることが示されていた。登山口は野外活動センターのそばだと思っていたのだが、そちらまではまだ数分の距離がありそうだった。林道に入ると、その数十メートル先で、実際の登山道が右手から始まっていた。そこにも案内標識が立っていた。登山道はごく普通のそま道で、初めは植林地の中を通っていた。木立はすぐに雑木林に変わると、道幅が狭いためかクモの巣が多く見られるようになった。それを払い除けながらの登りは少し面倒だったが、それ以上にこの日の蒸し暑さが厳しかった。梅雨どきでも少ないのではと思えるほど粘り着くような湿った空気で、一気に汗が噴き出てきた。そして中腹まで歩かないうちに、全身ずぶ濡れ状態になっってしまった。道もシダが増えて足元が隠され出し、荒れ気味の登山道かと思えてきた。その状態のまま山頂まで続くのかと少し覚悟していると、シダは次第に少なくなり、木立も空いてぐっと歩き易くなった。クモの巣も無くなり、むしろ良い感じで登れるようになった。但し蒸し暑さは続いており、汗の引くことは無かったが。主尾根が近づき出すと、木立が切れて七種山方向の開ける所に出た。そして見えたのはただただガスだけだった。そのうちに周囲もうっすらとガスが見えるようになって来た。歩き易いままに山頂に近づき、主尾根に合流した。もう後は知った道で、10分ほどで山頂に出た。蒸し暑さでさほど歩度は上がらなかったが、それでも登山口から1時間少々で山頂に着けたのだから、他のコースと比べると何とも簡単に山頂に立てたことになる。山頂は小さく開けて少し下りた所に石仏の祠がある風景は以前と変わり無し。とにかく蒸し暑さに参った体を休まそうと、祠のそばで一休みとした。この山頂がこの日は過ごし易かった。尾根での蒸し暑さを忘れさせるかのように涼しい風が山頂を渡っていた。風には少し湿っぽさがあったが、十分な涼しさでその快さにただじっとして風に吹かれるまま暫し佇んでいた。そのうちにうっすらかかっていたガスも消え、上空の雲も薄れて陽射しも見られるようになった。南東方向は麓も見え出し、うっすらと福崎町の市街地も望まれた。但し北の方向となる七種山の方向はまだまだガスの世界だった。この山頂にいたのは1時間ほど。蒸し暑さに参った体も一休みで回復していたが、その一休みで心は緩んでしまっており、七種山へ縦走しようと言う気持ちはすっかり消えていた。ねっとりとした空気の中をこの先も歩いて行くことはもう考えられなかった。下山はあっさりと登って来た道をたどる。急尾根は下山では楽なもので、45分ほどで登山口に着いてしまった。そして下り着いた頃には、空には青空が広がろうとしていた。
(2007/11記)(2013/2改訂)(2021/3改訂2) |