但馬の北東部、但東町に郷路岳のあることは知っていたが、山頂そばを林道が走っていることで、あまり興味を感じなかった。その郷路岳がガイド本「たじまハイキング」に紹介されているのを見たときは、少し意外な感じがした。ハイキングとして魅力のある山だったのかと思う意外感だった。そこで一度は登ってみようと思ったものの、但東町は同じ兵庫と言っても播州南部からは遠い地のため、行きそびれたようになって数年が経ってしまった。漸く向かったのは2010年4月のことで、この山だけを目指したのでは無く、上夜久野駅に近い兵庫京都県境の山、宝山とのセットで向かった。朝こそ晴れと言える空だったが、宝山山頂に立つ頃より雲が増えて、下山を終えた11時過ぎはすっかり曇り空だった。但し南の方には少し青空が覗いていた。その空が北へと広がろうとしている中を、郷路岳を目指して移動した。宝山からは県道63号線で県境を越えて豊岡市但東町へ。そして国道426号線に合流して西進した。ところで参考にしようとした「たじまハイキング」を忘れてきていた。ガイドブックと言っても地図を参考にする程度だが、うろ覚えで、南麓の平田集落に近い林道をアプローチにしていたように思えた。地形図は「出石」と「大江山」のどちらも持っており、それをつなぎ合わせて林道の起点を探すことにした。平田集落のそばを通過すると、林道が分かれているのが見えた。その林道かと疑ううちにシルク温泉に近づいて、やはり先ほどの林道が目的の林道と確信して引き返した。国道426号線には真新しい歩道が出来ており、路肩スペースの広くとられている所もあった。林道近くにも広い路肩スペースがあり、そこに駐車とした。林道を車で登らず、林道の起点から歩いて行く考えだった。時間は正午になっており、車の中で簡単に昼食をとってからスタートとした。その頃には上空は青空が広がっており、快晴と言えるまでになっていた。視界も悪く無かった。とにかく林道をずんずん登って行くことにした。始めに牛舎のそばを通ると、その先の林道は関係車両以外は通行止めと書かれていた。歩いて行くので問題無く進んで行った。山桜は終わっていたが、ツツジが彩りを添えていた。右手からは沢音が聞こえており、ときおり水の流れも見えていた。前日の雨で水量は増えているようだった。その沢の方向へと、途中で小径が分かれていた。入口にはトーテムポールが立っており、その先にキャンプ場があるようだった。林道歩きを続けて行くと、程なく右手前方に、お椀を伏せたようなピークが望まれた。そのすんなりとした姿に一瞬、郷路岳かと思ったが、地図を見る限りではそのような姿になっていないので、山頂から南西に延びる尾根にある500mピークかと思えた。林道は山ひだのままに作られており、ひたすら緩やかに続いた。林道の入口から50分ほど歩いたとき、始めてと思える標識が現れた。その位置で地図に載っていない林道が分かれていた。地図の発行年見ると、昭和59年なのので、地図は古くなっているようだった。ついでにこの地図では稜線近くを通る林道も、途中で途切れていた。標識では林道を離れて山道を歩くこと1.2kmで展望台とあった。稜線部にある展望台があるようだったので、ここで林道を離れて山道を登って行くことにした。始めに階段があり、その先はごく普通の山道として尾根の上に続いていた。次第に尾根がはっきりして、このまま山上に出られるものと思っていると、傾斜がきつくなると共に尾根がはっきりしなくなった。目印が付いていたが、それも途切れがちだった。山頂は北東方向なので、それを意識しながら登ると、稜線が近くなってまた山道がはっきりしてきて、標識も現れた。これでこの先がはっきりしたが、尾根のはっきりしない所にも標識を置いてもらいたいものだと思えた。その標識に展望台まで0.4kmと書かれていた。ほぼ稜線に出たようで、緩やかな小径となって東へと歩くと、左手に林道が見えるようになり、程なく左前方に東屋が見えてきた。そこが展望台のようだった。展望台に立つと、名の通りに好展望を眺められることになった。西から北にかけての展望で、さっと目に付いたのは高竜寺ヶ岳だった。となるとその左で姿の良い山は東里ヶ岳と思われた。右で尾根から抜けているのは、位置から判断して磯砂山のようだった。まずは兵庫京都の県境尾根を眺めているのだが、その県境尾根を兵庫にいながら東側から見ているのが面白いと思えた。但東町ならではの眺めと言えそうだった。この日は午後に入って視界が良くなっており、この好展望をくっきりと眺められたのは良かった。少し残念なのは、目の前にタムシバの木が立っていたのだが、花はまだツボミの状態だった。咲いておればちょっとした絵になる光景だのにと思えたことだが、それは贅沢な願いと言えそうだった。そこまで来れば目の前に見えている林道に下りて、後は林道で山頂に近づくのが一番簡単なのだが、尾根も歩き易そうだったので、今少し尾根を辿ることにした。はっきりとした道は無かったが、自然林の林は空いており、起伏も緩やかとあって気楽な散策だった。その尾根歩きも林道が稜線と接する位置が現れて、自然と林道に下りることになった。林道は立派な舗装路で、鄙な山にしては少しお金をかけ過ぎではと思われた。その先で林道脇に広々とした広場が現れた。そこには「民有林道郷路線開設記念碑」が立っており、そこに書かれた文を読むと、やはり過疎対策として作られたようだった。その広場も展望地になっており、今度は北から東へかけての展望が得られた。遠く丹後半島の山並みや、また江笠山がけっこう近くに見えていた。もうそこまで来れば郷路岳の山頂は間近に見えていた。山頂と言っても林道との標高差は20メートルも無いので、ただの丘にしか見えなかった。どこから取り付いても簡単に山頂に立てそうなので、適当に取り付くと、数分で一番高い位置に着いた。そこに三等三角点があり、郷路岳山頂だった。周囲は目に優しい自然林の風景が広がっており、この山頂に着いて林道から最短距離となる北から小径の来ていることが分かった。林道を利用すれば3分ほどで山頂に立てる山となってしまった郷路岳だが、林道を利用せず、麓からじっくりと山頂まで登れる登山道があっても良いのではと思える山頂の雰囲気だった。ただ山頂は木々に囲まれて、ほとんど展望は無かった。僅かに南の方向が空いており、そこに台形のどっしりとした山が見えていた。その方向からして、三岳山ではと思われた。最初の考えでは一時間少々で山頂に立てるのではと軽く考えていたのだが、始めに歩いた林道が屈曲していたこともあってけっこう距離としてはあったようで、結局二時間近くかかってしまっていた。もう14時を回っており、山頂では長い休憩を取らずに下山を始めることにした。下山はさっと林道に出て、林道歩きで展望台まで戻ったが、その途中の広場で、車で来た人と出会った。麓の平田集落から歩いてきたことを話すと、こんな便利な道があるのにわざわざ歩いてきたことに不思議がられてしまったが、歩いて登りたかったとしか言いようがなかった。東屋のある展望台に戻ると、そこからは登ってきた通りに尾根を歩いて行った。尾根のはっきりしない所は方向を南西方向に定めて下ると、再び小径を辿れるようになり、無理なく下の林道まで戻って来られた。その先はただ林道を歩けば駐車地点に戻れるのだが、林道歩きばかりでは味気ないので、途中ではショートカットをしたり、またトーテムポールの立つ位置からは林道を離れてキャンプ場への道に入った。沢に架かる橋を渡ってキャンプ場に入ると、そこは子供自然村と名が付いており、ログハウスなども見られたが、季節外れとあってひっそりとしていた。キャンプ場の範囲は狭く、そこを抜けると車道が始まっており、その途中には害獣除けゲートが作られていた。その車道で下り着いた所は、平田集落の東外れだった。国道を避けて集落内の道を抜けて行くと、集落の西外れで国道426号線に合流した。そこからは国道沿いに作られた立派な歩道を歩いて戻るだけだが、駐車地点とはさほど離れておらず、5分ほどで駐車地点に戻り着いた。
ところで帰宅後に「たじまハイキング」を手に取ってみると、この日歩いたコースはほぼ紹介コースと合っていたが、登りの順路が違っていた。こちらはただ林道を起点から歩いていたのだが、本ではその林道に沿って続く渓谷沿いを歩くことになっていた。知っておればそこを歩いていたのにと、これはちょっと惜しいことだった。
(2010/5記)(2021/10改訂) |