伊和三山の一つ、花咲山は三山の中では一番目立っており、国道29号線を北上してきたときは、この山を見て一宮町に入ることを実感している。そのボリューム感ある姿は頼もしいが、登山となると山頂まで車道があることや、南尾根を登るにしてもコースとして単調のきらいがあり、1997年の1月に一度登った後はご無沙汰していた。その花咲山が宍粟50山に選ばれて、ガイド本も発行されてコースが紹介されていた。そのガイド本「宍粟50名山」を覗くと、花咲山登山は車道も利用して周回コースになっていた。そのコースに早速興味を持って向かったのは2009年6月のことで、ちょっとモヤのきつい日だった。その日の前日は波佐利山から大ボウシまでを歩くというけっこうきつめの登山をしており、その日は疲れた体を休めていたかったのだが、パートナーに誘われてしまった。そこで空の様子と体の疲れ具合、そしてこれが一番の理由だが、パートナーの希望で産直市場が近くにある山と、これらのことを考え合わせたとき花咲山が思い浮かんだものである。花咲山なら特に展望を楽しむ山でも無く、また登山としても手頃で、紹介コースに興味を持っていたことで、すんなりと決まった。
軽く昼どきを過ごすぐらいの気持ちで、朝をゆっくり出発した。始めに道の駅「播磨いちのみや」の産直市場に立ち寄って、さて駐車地点を南麓の三軒屋側にするか北西麓の嵯峨山側のどちらにするかだった。コースを時計回りで登る考えで、そうなると登山口は三軒屋にあるセンター一宮のそばとなる。下山後にそのセンター一宮まで車道歩きをしたくなく、始めに車道を歩こうと、駐車地点は嵯峨山側と決めた。その嵯峨山側の登山口となる林道入口に近づくと、その辺りの地名は本谷で、墓地が現れた。その前が駐車するには十分な広さがあったので、そこに駐車とした。一宮の空もモヤがきつく、駐車地点から見えた黒尾山はうっすらとしか見えていなかった。まずは県道6線を歩いて国道29号線へと向かって行くが、車道沿いに歩道は無く、ちょっと車を気にしながら歩くことになった。やはり下山後にこの車道歩きをするのは登山をしていた気持ちを薄れさせると思え、先に歩くのが正解のようだった。この日はモヤが強いだけでなく気温は高めのようで、蒸し暑さも感じながら歩いて行く。国道29号線に合流すると、すぐに山沿いの裏道に入った。車の通行はほとんど無く、ぐんと歩き易くなった。センター一宮に着くが、センターの南端に進んでも登山口が見えなかった。このときなぜかガイド本を持っておらず、地形図だけを持参していたのだが、てっきり登山口は南尾根の端と思い込んでいた。そこに登山口が見えないので、念のためにセンターの北に向かってみると、そちらに登山口があった。どうもガイド本は中身を読まず、地図だけをさらっと見る癖があるので、ときおりこうなることがある。緩やかに登り始めて、植林地へと入って行く。植林地内の道ははっきりしておらず、目印テープを頼りに登らないとコースを外しそうになることもあった。倒木もあり、やや雑然とした印象か。北東方向へと登って行くので、その方向で南尾根に合流するものと思っていると、コースの道は途中で東の方向となり、そしてジグザグに登って南尾根に近づいた。その尾根に出る手前に「磐座」と名付けられた大岩があり、岩の傍らに小さな祠が安置していた。そこよりひと登りして南尾根に出た。ようやく植林地を抜け出して雑木林が周囲に広がった。どう考えても植林地内など歩かず、センター一宮のそばからすんなりこの尾根を登って来る方が楽しいのに思ってしまった。尾根に着けば山頂までは二度目のコース。尾根では弱いながらも涼しい風が吹いており、気温は高くても爽やかさが感じられた。その良い雰囲気となって尾根を登って行くと、周囲に植林が見られるようになった。そこは間伐と言うか伐採がされて木立は疎らになっており、視界が開けてきた。低木としてアセビも見られるようになった。登るうちに尾根は伐採地のようになって展望が更に良くなってきたので、一休みとする。そこは標高500mと記されていた。展望地と言ってもこの日の視界はモヤがひどく、ただうっすらとした山並みを眺めるだけだった。空は晴れと言うよりもモヤで薄晴れのようで、その陽射しの中で少し蒸し暑さを感じた。そこより少し登ると、NHKの一宮安積中継放送所が建つ位置に着いた。そこはまだ山頂では無かったが、12時を回っていることでもあり、展望もあったので昼休憩をすることにした。建物の陰に入って、僅かな風を受けながら薄ぼんやりとした風景を眺めていた。その先は道幅が広くなり、その尾根道に沿って電柱が続いていた。やや急坂を登って行くと、車道の終点に着いた。その位置まで来ればもう急坂は無い。その車道を歩くことは無く、車道を横切って尾根歩きを続けることになった。すぐにNHKのアンテナ(一宮安積FM中継放送所)の前に出て、そのそばを通って涼しい雑木林の中を数分歩いた位置が山頂だった。山頂は眼前に通信設備(兵庫県嵯峨山中継所)があるものの東から南東に向かって開けており、白倉山の尾根が眺められた。山頂の北側は雑木が広がっており、適度な木陰があった。そして涼しい風が吹き抜けていた。山頂は静かさと涼しさがあればもう十分だと、20分ばかりの休憩を楽しんだ。下山は嵯峨山集落へと通じる車道を歩くことになるが、始めは尾根歩きの続きのように北へと雑木に囲まれた小径を歩いて行く。そして車道を横切る位置で尾根歩きは終了となった。その合流点からは北東に行者山が眺められたのは、ちょっぴりうれしかった。その後は緩やかなダートの車道をひたすら下って行くので少し退屈さはあったが、ときおり足を止めてウツギなどの花を眺めたりした。なお花咲山の北面を下って行くのだが、その地形は深い谷と尾根が重なっており、麓から見る姿とは違っていた。車道は途中から舗装路に変わって、その車道歩きを50分ほど続けた頃、ゲートが現れた。そこを抜けて僅かに歩いた所が駐車地点の墓地だった。結局、周回コースを3時間近くかけて歩いたことになり、軽いハイキングでも無かったが、それだけ花咲山がどっしりとした見かけ通りに少し手応えがあったと言えそうだった。市街地のごく近くでこのようなちょっぴり手応えのある登山が楽しめるのは、さすが宍粟市だと思った。
(2009/7記)(2020/2写真改訂) |