今は豊岡市の一部となった但東町へ行くときは、いつも不思議な感覚を味わう。国道9号線を東へと走って漸く京都府に着くも、更に県道56号線を北へと走って天谷峠を越える。その峠越えで漸く着いた但東町がまた兵庫県であるという感覚である。これも但東町がコブのようになって京都府に食い込んでいる地形のなせるわざと言えそうだった。その但東町で目立つ山は法沢山に高竜寺ヶ岳、そしてこの東里ヶ岳。法沢山と高竜寺ヶ岳が兵庫百山に選ばれて知名度があるのに対して、東里ヶ岳は姿としては引けを取らないのに、登山対象の話題に上がることは少ないようである。その理由は1997年に東里集落から登ったときに、おおよそ掴めた。登山道は山頂まで付いておらず、その山頂もササヤブで、展望も僅かだった。姿の良い山なのにもったいないと思ったものである。その東里ヶ岳に登山道が作られて、山頂も木が切られて展望が良くなったことをWEBで知った。そうなると再訪の気持ちが起きてきて、さっそくの行動とした。
向かったのは2011年9月の第三日曜日だった。その新たに作られた登山道は、深く考えもせず、東里ヶ岳の名からして北麓の東里集落からと思い込んでしまった。前回も東里集落からの山道を歩いており、沢沿いを続くその山道は途中で消えてしまったのだが、その先が整備されたのではと勝手な推測をしてしまった。いつも但東町に向かうコースとして、国道9号線を離れて夜久野町で県道56号線に入った。そして兵庫に入って、合橋小学校前で国道426号線に合流する。太田川に架かる大田橋を渡ると、右手に東里集落への道が分かれた。その辺りで登山標識が現れるかと思っていたのだが、何も無かった。集落内を抜けて林道に入っても同じだった。その林道が以前と違っているのは、電気柵が出来ていることだった。この十数年で害獣被害が大きくなったようである。電気柵を通った先にまたゲートが現れたが、その手前に駐車スペースを見たので、そこに駐車とした。この日は曇り空だったため、ガスのかかることを心配していたのだが、北に見える高竜寺ヶ岳はすっきり見えていたので、まずは一安心だった。林道を歩き始めても標識の見えないことから、どうも東里集落側には登山道は作られていなかったようである。漸く思い込みが強かったことに気付いた。ただ山頂までの道が無くとも、ここは前回に歩いたコースなので、山頂まで特に難しくもなく登れると分かっていることもあり、不安も無く歩いて行けた。林道は堰堤の位置で終わので、その手前で右手に分岐した枝林道に入った。その道は堰堤の上に出て、その先は山道だった。暫く沢沿いを歩いて行くと、道は小橋を渡って左岸に出た先で不確かになった。前回はその先をも沢沿いを歩いたのだが、尾根の歩き易さが分かっているので、その位置で右手の斜面に取り付いた。急斜面だが下生えは少なく、ただ踏ん張って登るのみ。周囲は自然林で、その木に掴まりながら登るうちに、次第に傾斜が緩くなってきた。この東里ヶ岳もササが枯れてしまったようで、ササはほとんど見られず、むき出しの地表が広く現れていた。おかげでスムーズな登りだった。北尾根に出ても同じで、スムーズな登りが続いた。ササが消えたとなると何ともあっけらかんとした尾根で、何やら寂しくもあったが、そのうちに別の植物が繁り出すことであろうと思いながら、その様を眺めた。北尾根は急斜面になることも無く続き、山頂が近いと思われた頃、広々とした所に出た。そこには真新しいマイクロウェーブ反射板が建っており、一体の木々が伐られているので、西に向かって展望が開けていた。そこに見えたのは妙見山から蘇武岳に続く尾根だったが、そちらは今にも雨が降り出しそうな空だった。また北には法沢山がさほど距離を置かずに立っていた。そこは少時足を止めただけで山頂に向かった。その先も特に傾斜のきつくなる所は無く、歩き易いままに山頂へと近づいた。そして反射板の位置から10分少々で山頂到着だった。山頂はなるほど木が伐られたようで展望が良くなっていた。南北は尾根となるため展望は無かったが、東と西に展望が開けていた。特に東が良く、遠く日本海まで眺められて、そこには天橋立も望まれた。西もここに来て、床尾山から鉄鈷山の尾根が間近に眺められた。山頂はひたすら静かで、風も涼しく快かった。その風に吹かれながら風景を眺めたり、横になって体を休めたりと、一時間ほどをのんびりと過ごした。その東里ヶ岳の下山だが、同じルートを引き返すのでは芸が無いので、ルートを変えることにした。但し、東里集落へ向かうのは同じこととしてだが。「出石」の地図を見ると、朝に歩いた集落内を通って始まる林道とは別に、西側にも林道が近くに付いていた。しかも起点は東里集落だった。そこでその林道に向かって下ることにした。まずはマイクロウェーブ反射板の建つ位置まで戻り、そこから北西方向へ下って尾根を目指した。尾根をすんなりと辿れだしたものの、はっきりとした尾根では無いため、何度か尾根を外しそうになった。ただ方向だけは法沢山の方向、北西と定めて下って行く。尾根からの展望はほとんど無かったが、この尾根もササが消えたようで、無難に歩けた。ただ少し傾斜のきつくなることはあった。植林地に入って、尾根があやふやになり、また急傾斜になった先で林道が右手に現れた。そこが林道の終点位置だった。後は林道をただ下って行くだけだった。こちらの林道も東里集落が近づいたときに害獣避けの柵が現れたが、その柵のゲートを通ったとき、そばの檻に小さな鹿が捕らわれているのを見た。鹿はこちらを見て必死に逃げようと体を檻にぶつけていたが、こちらとしてはただ眺めるだけだった。そこを過ぎて集落が見えたときに、近くの草むらから鹿が飛び出した。やはり鹿は多いと言うか、増え過ぎているようだった。山裾で畑をするのもけっこう大変なことだと思いながら、東里集落へと入って行った。
(2011/9記)(2021/6改訂) |