兵庫丹波の代表格として三嶽の名を挙げたくなるが、その三嶽を眺めると西に西ヶ嶽、東に小金ヶ嶽を従えて多紀三山として一つの山岳風景を作っている。その三嶽を登る一般的なルートとしては南麓の火打岩から登り始めて三嶽へ、そして小金ヶ岳へと周回するコースではと思える。三嶽を初めて訪れたのは1993年1月のことで、そのルートで登っており、西ヶ嶽は三嶽からのピストンで立ち寄っていた。そのときの西ヶ嶽の印象は、その日の曇り空の天気のせいでもあったが、ただただ登山コースのクマザサが煩わしく、山頂に着いてほっとしただけで、山についての強い印象は残っていなかった。ただ漠然と、三嶽と比べて少しマイナーな山頂とは思えた。その西ヶ嶽を2006年3月の春分の日に、三嶽とは関係無く、単独の山として訪れた。その日は三嶽を目指して篠山市に向かっていたのだが、空はすっかり曇り空で、黄砂の影響でもあるのか視界は薄ぼんやりとしていた。三嶽には青空の下でこそ登りたいと考えていたので、この空を見てあっさり諦めることにした。そしてこの日は小さな山を二つ登ろうぐらいの考えで、まず登ったのが、篠山盆地の北に佇む小ぶりな山である盃ヶ岳だった。盃ヶ岳には南麓の浜谷池のそばから手頃なハイキング道が続いており、30分ほどであっさり山頂に立ってしまった。その山頂から見えたのが三嶽の美しい姿だった。そして西隣の西ヶ嶽が、三嶽に劣らず存在感のある姿で立っていた。三嶽にこそ登らないと決めていたが、西ヶ嶽は間近いこともあって、是非登ってみたい気持ちが湧いてきた。地図を見ると、西ヶ嶽の南西に藤岡ダムがあり、そこから山頂まで破線路が示されていた。藤岡ダムは浜谷池からはごく近くであり、そのルートで登ろうと即決した。盃ヶ岳の山頂を離れたのは11時前。麓に降りて藤岡ダム湖の西岸にある駐車場に着いたときは11時半になっていた。本当に短距離だった。湖岸の木々はまだ冬姿で、曇り空とあって、風景は何となくうら寂しい感じだった。人気と言えば、湖岸に釣り人が見えるだけで、閑散としていた。駐車場を離れて暫くは湖岸道路を歩いて行った。ダム湖の北端に着くと、沢沿いに更に北へと土道で車道が延びていた。道は少々荒れており、四駆なら無難かと思える程度の道だった。その車道の終わりに登山口を示す大きな標識が立っていた。漸く山道の始まりとなった。西ヶ嶽、三嶽への参考タイムも示されており、確実に山頂に着けることが分かった。ごく普通の山道として始まったが、道の傾斜が増して来ると、そばの沢は渓谷の様相を見せ、ちょっとしたナメ滝になっている所もあって、悪く無い雰囲気だった。登山口からおよそ10分で溜め池に着いた。ごく小さな溜め池だったが、山中とあって落ち着いた風情を感じた。ちょうど昼どきでもあり、そこで小休止とした。薄ら寒さがあったが、山中の池そばでの昼食も悪く無かった。そこを過ぎると足下にクマザサが目立つようになり、それと共に道が分かり難くなって来た。目印テープこそあったが途切れがちで、どうもマイナーなコースのようだった。沢沿いに続いていた道は、その沢を離れると、クマザサの中を通っていることもあって、いっそう分かり難くなってきた。ただクマザサが疎らなため、適当に道と思えそうな所を進んで行った。すると階段道が現れて、急斜面を主稜に向かって一気に登り出した。その階段道にクマザサが被さっていた。クマザサをかき分けて階段道を登って行くのは、久々にあえいでの登山となったが、やはり登山はあえぐ所があってこそ楽しいと、その急斜面をむしろ歓迎して登って行った。その急登も長いと言うほどでも無く主稜に着くと、そこにははっきりとした尾根道が付いていた。もう気楽なもので、山頂もそう遠いとは思われなかった。尾根道は雑木林とクマザサに囲まれており、穏やかな風景を作っていた。少し登ると木々の隙間から三嶽を見るようになった。その頃には尾根は平坦になっており、程なく山頂到着となった。山頂は中央に露岩があり、狭いながらも開けて少しは展望があった。無人の山頂は曇った空のためもあってか、うら寂しい雰囲気だったが、その静けさも悪い感じはしなかった。まずはザックを下ろして一休みとした。そこから見える三嶽は近かった。ただ木々が少々邪魔をしており、すっきりと見えているのは山頂部分だけだった。展望としては西から北にかけてが好く、西には丹波の有名どころと言える三尾山に黒頭峰、夏栗山が望まれた。ただこの日の視界は空と同様に淡い見え方で、フラットな風景だった。まずは久々に見る丹波の山並みに目を楽しませた。そしてただのんびりと山頂で静けさを楽しんだ。山頂でぼんやりとしているうちに気が付くと1時間が過ぎていた。もうすることは下山だけだった。その下山は適当に南に向かって尾根を下ろうと考えていたのだが、クマザサの密集を見て諦めた。結局は往路を辿っての下山とした。クマザサの中を下りながら、次は主峰、三嶽を登ろうとの思いを抱きながら藤岡ダム湖へと下って行った。
(2006/4記)(2025/8写真改訂) |