御祓山中に”幻の大桜”があると、神戸新聞に紹介されたのは1994年のこと。そのときからいつかはこの桜を訪れたいと考えていたが、開花期とのタイミングがうまく合わず、いつのまにか10年が経過してしまった。その間にこの桜はどんどん有名になり、名前も「みづめ桜」と名付けられて、大屋町の県道を走るとその標識も目に付くようになった。またその桜の尾根から御祓山を登るコースも紹介されるようになった。漸く登る機会を得たのは2004年4月17日のこと。この年の桜は全国的に早咲きの傾向があり、この日では盛りを過ぎてしまているのではと懸念を持ちながら向かった。大屋町糸原にある登山口に着いてみると、数十台が駐車出来る広い駐車場が出来ており、案内板も立派なものが作られていた。その案内板を見ると、みづめ桜にいたるまでに二つの登山コースが示されていた。いざ歩き出してみると、最近になって整備されたのか、道が真新しい感じで続いていた。程なくあずま屋に着き、コースが二つに分かれた。従来からの尾根道がある左手の道を登ることにしたが、この道も真新しくなっており、しかも従来の尾根道を無視して、新たな道が作られていた。思うに小学生でも無理なく登れるようにしているようで、ひたすら傾斜を緩くして作られていた。そのため無意味と思えるほどのつづら道になっていた。やがて尾根にコバノミツバツツジが見られるようになった。それも群落となって現れた。みづめ桜が目的だったが、このツツジも今が見頃で、尾根を薄紫とピンクの色で美しく染めていた。ただここでも気になったのは、ツツジ以外の灌木がほとんど伐採されており、ちょっと切りすぎの印象を受けた。道も削られたばかりの土色で、花はきれいがちょっと荒々しい印象だった。これからの年月で落ち着きのある風景に戻ることを期待しながら登って行く。ただ途中からは新しい道を歩くのがまどろっこしくなり、旧道と言える尾根筋の道で登った。やがて尾根は植林地となり、やや急坂となってきた。登山コースを離れて歩いていたため足元は杉の小枝が積もっており、その枝につまづかないように足元に注意して歩いているうちに、ふと上を見上げると暗い森の中に一箇所だけ真っ白になっている所が見えた。一瞬の間をおいてそれが満開のみづめ桜であることが分かった。もう吸いつけられる様にして近づいて行った。想像以上の美しさでしかも豪華な咲き誇り様だった。登山コースに合流して大桜のそばまで来ると、そこにはベンチが置かれていた。それに座ってじっくりと鑑賞する。エドヒガンザクラとのことだが、ほぼ白に近い色合いが山深い中で咲く桜として似つかわしく、清楚な美しさが感じられた。ちょうど風が出ており、花吹雪となって花びらを散らせていた。その風情も好いものだった。花びらが、大きな体に似合わない小ぶりなことにも驚かされた。なお桜の周囲は伐採されており、そのため展望もあり、桜の左手には残雪の氷ノ山も遠望された。この日はモヤが強く、氷ノ山はうっすらとしか見えていなかったが、澄んだ日であれば、みづめ桜と見事な絵になったことと想像された。この後は、御祓山山頂を目指す。新しい道はみづめ桜までで、その先は以前からの佇まいのままだった。その美しい雑木林の尾根を登っていると、古びた登山道は落ち着きがあって良いものだと思わずにはいられなかった。そして急坂も全く気にならず、楽しく登ることが出来た。二度目の山頂は以前より少し広々とした印象を受けたが、山頂を占めていた共同アンテナは取り払われており、展望に関してはむしろ悪くなっていた。また訪れる人が多くなったのか、ゴミも少々目に付いた。ここで昼食をと考えていたのだが、展望を楽しめるわけでもないので、それならみづめ桜のそばで昼食をとりたいと、再びみづめ桜に向かった。これは正しかったようで、豪華な桜を愛でながらの昼食時を楽しむことが出来た。
(2004/4記)(2012/8改訂)(2020/4改訂) |