播州を奥へと進んで行くと高い山は1000mを越すようになり、700m程度の高さの山は低い部類に入ってくる。それも人里から見えれば話題にもなるのだろうが、尾根に出ないとお目にかかれないとなると、ほとんど関心が向けられないようで、この明延山もどうもその一つではと思われた。その明延山が華やぐのは紅葉の季節で、落葉樹に覆われた山頂付近が見事な色付きを見せてくれたのが印象的だった。それは初めて訪れた1995年の秋のことで、彩りだけでなく長閑かな雰囲気にも魅了されて、再訪を考えたい山になっていた。その二度目は12年後になってしまったが、2007年11月中旬という低山の紅葉期に合わせて訪れた。その明延山へのルートとしては色々と選択肢があるが、ごく気楽に尾根歩きを楽しもうと考えて、冨土野峠から播但尾根で歩いて行くことを計画した。
この日は快晴の予想だったが、宍粟市に入ると北部の空は雲が多いようだった。その北へと車を進めて県道6号線に入った。そして播但境の冨土野峠に着いてみると、上空は雲が多いながらも晴れていたが、西の空は雲が広がっていた。それとは違って東の空は快晴になっており、ちょうど天気の境目に居る感じだった。車は冨土野トンネルの播州側の駐車スペースに置いた。朝の気温は7℃ほどで、さほど冷え込みは感じなかった。その辺りの山肌は植林地になっていたが、そこに小径らしきものは見えないため、適当に取り付いて尾根を目指すことにした。やや急斜面を登って行くと作業道に出会った。作業道は山腹を横切っているだけなので、それを辿らず尾根方向へと向かった。10分と歩かぬうちに尾根に出ることになった。もう後はその播但尾根を辿るのみだった。するとすぐに別の作業道と出会ったが、それも横切って尾根登りを続けた。尾根には害獣除けネットが張られており、それに沿っての登りだったが、ときおりは展望もあって藤無山がすっきり見えることがあった。その尾根歩きで最初のピーク(標高730m)に着くと、そこは北面が伐採地になっており、すっきりと展望が広がっていた。西の空こそ雲が多かったが上空から東は青空が広がっており、その空の下に西の藤無山から東の須留ヶ峰まで見事な展望だった。これから向かう明延山も東の方向に間近く見えており、その山肌はすっかり紅葉していた。尾根は終始植林が広がっていたが、展望ピークを過ぎると手入れの悪さが目に付くようになった。刈り取られていない下枝を避けながら進んで行く。ただちょっと気になる程度のもので、歩度が鈍るほどでは無かった。歩くうちに急坂となり、小さなピークに着いた。地図を見ると748mピークで、そこから尾根の向きは北東へと変わった。ちょっと灌木混じりの尾根となり、あまり紅葉の木も見えないままに緩やかな尾根を歩いて行く。その尾根の傾斜が少しきつくなって来ると、辺りは雑木林に変わってきた。木々は空いており、その中を適当に登って行くと次第に展望が広がって来た。背後を振り返ると三久安山から藤無山がすっきりと見えていた。どうやら明延山山頂へと最後の登りにかかったようだった。ただどうも風景が以前のイメージと違っているようだった。なぜかと思っていると、急に気が付いた。以前あれほど茂っていたクマザサが全く見られないことだった。この山もどうやら鹿の食害にやられたのかもしれなかった。前方に見える風景は、なだらかな丘にほとんど木々は見えず、地表はただ落ち葉に覆われているだけの長閑な景色だった。その中を歩いて最高点と思える位置に着くと、ぽつんと三角点が置かれていた。12年前に見た山頂を覆い尽くすクマザサは一本も無くなっていた。そのあまりの変わりようにはただ唖然とするだけだった。山頂の南東面側にはほとんど木々は無く、そちらの展望が良かった。南に間近く向かい合うのは798mピークで、明延山より僅かに高いピークだった。その右奥には点名・横山の855mピークが見えている。明延山の山頂に着いた頃には上空は西から広がって来た雲に覆われて薄暗くなっていた。また風もあって肌寒さを感じるようになっていた。そこで木々の広がる北面側に入って一休みとした。そちらの尾根は緩やかに北に延びていたが、自然林が広がっており地表はすっかり落ち葉に覆われていた。まるで落ち葉の海と言ったような風情で、それも悪くない風景だった。昼に近いこともありその位置でごく簡単に昼食を済ませた。そして今少し尾根歩きを楽しむことにした。それは南に見えている798mピークまで歩いてみようというもので、また明延山に戻って来る考えだった。西から押し寄せる雲に薄れる気配が見えており、その尾根歩きの間に曇っている上空が晴れてきて明るい明延山を期待する意味合いもあった。向かう先の798mピークはその山頂直下が伐採されているようで、そこに草地の広がっているのが見えていた。そこで休もうと目指して行く。明延山を離れるとクマザサの消えた尾根はあっけらかんと明るく、そして歩き易かった。この尾根は鞍部の辺りがきれいに紅葉しているのが山頂から見えていたが、実際に近づいてみると色づいた雑木林はやはり良い感じだった。798mピークへの登りにかかると、伐採の倒木もあって少し歩き難くはなったが、それでもさほど手間取らずに目指す伐採地に出た。その頃には予想通りに上空の雲は薄れようとしており、今度は北向かいとなった明延山が陽射しを受けようとしていた。そのクマザサの消えた山頂は地肌も見えて茶色く見えており、少し哀れな姿だった。その伐採地での一休みを終えると明延山へと引き返した。そして青空の広がった明延山の山頂でも改めて憩いのときを過ごした。それにしても何とも静かな山頂で、聞こえて来るのは鳥の声とときおり遠くからの鹿の鳴き声のみだった。人の訪れの少ない山の新鮮さに十分に満足の思いだった。この明延山再訪を楽しく終えると、後は往路のままに播但尾根を辿って戻って行くことにした。この下山では朝に見た作業道を少し歩いてみたが、冨土野峠からは離れて行こうとするので、結局は播但尾根を辿ることになった。その尾根は午後の光に包まれて見頃の紅葉が明るく輝いているのが印象的だった。こうして冨土野峠と言うか冨土野トンネルの上へと戻ったとき、そこにも作業道があってそこが終点位置になっていた。その作業道こそ冨土野トンネルに近い位置より来ていると思われたため、今一度作業道を辿ってみることにした。すると順調に県道へ向かって下って行き、予想した通り冨土野トンネルの入口とはさほど離れていない位置に下り着いた。ただ峠の位置と駐車地点との距離は僅かなため、別に作業道を歩く必要は無さそうだったと思いながら駐車地点へと戻って行った。
(2008/7記)(2023/5改訂) |