播州と但馬を限る尾根を代表する山に藤無山があるが、その藤無山から東へと播但尾根は緩やかに下り坂となって続き、冨土野峠の位置が最も低い位置になっている。そして再び標高を上げて笠杉山、段ヶ峰へと続いて行く。この播但尾根は晩秋の頃になると、その山肌を赤や黄に美しく染めて目を楽しませてくれるので、11月に入ると行きたくなる山域として自然と頭に浮かんで来る。2007年の紅葉期は主に奥播州の三久安山を始めとする高峰を楽しんだが、11月の中旬となって少し低山となるこの山域に狙いを変えた。そしてまずは冨土野峠の東に位置する明延山を目指した。その明延山を冨土野峠から歩き始めたのだが、そのとき峠の西の尾根もきれいに紅葉しているのを見て、そちらも歩いてみたいと思った。そこで翌週に早速実行とした。計画したルートは単純に冨土野峠から西へと播但尾根を歩くもので、とりあえず目標は大路山とした。この尾根では以前に大路山より西の尾根は歩いていたが、冨土野山は初めてとなるので、その雰囲気がどのようなものかの期待もあった。
この日は朝から雲一つ無い快晴の空が播州にとどまらず兵庫全域を覆っていた。但しいくぶんモヤがかっており、空の青さはやや淡くなっていた。県道6号線を走って冨土野峠に着いたのは9時を回った時間だった。快晴とあって朝は冷え込んでおり、峠の気温は5℃だった。車は冨土野トンネルの宍粟市側入口にあった駐車スペースに止めた。一週間前と同じ駐車地点だった。トンネルの西に広がる植林地に適当に取り付くと、すぐに小径に出会った。それはトンネルの上部に向かっており、その小径を辿って行くと荒れた作業道に合流した。その作業道は前週にも出会った道で、トンネルの真上を通っていた。作業道を北へと歩くと、但馬側の県道6号線が見える位置で終わっていた。そこより西へと播但尾根に取り付いた。尾根には害獣避けネットが張られており、そのネット沿いを登って行った。けっこう急斜面で、左手は植林地、右手は伐採地となっており、その伐採地からは東向かいの尾根が眺められた。急斜面は長くは続かず緩やかになると、害獣避けネットから離れることになった。その辺りより尾根は自然林へと変わって雰囲気が一変した。自然林は優しげな佇まいを見せており、朝の柔らかい陽射しに照らされていた。地表はすっかり落ち葉に覆われており、そこをサクサクと音をたてながら歩くのは、晩秋ならではの楽しさだった。ただ尾根はその自然林に包まれているため、展望は木々を通して見るだけで、それも近くの尾根が覗くだけだった。ただ落葉の分だけ少しは良く見えていた。そこで展望を期待せず歩いていると、一度だけ東の方向がすっきり開けて御祓山から須留ヶ峰、明延山までがすっきりと望まれた。尾根なりに登って冨土野山の三角点に着いた。そこからはそのまま播但尾根を辿らず、少し寄り道をすることにした。地図を見るとピークから南へと支尾根が分かれているのだが、暫くはほぼ平坦なまま続いていた。のんびり歩けるのではと思えて、尾根の傾斜がきつくなる辺りまで歩いてみることにした。いざ歩き出すと、その支尾根は思った以上に歩き易かった。平坦に近いうえに木々は空いているとあって、公園を散策している雰囲気だった。そこも地表はすっかり落ち葉に覆われていた。紅葉は終わりかけていたが、カエデ系は遅れているようで、むしろ見頃になっており目を楽しませてくれた。その歩き易さのままに南へと歩いて行くと陽溜まりを見つけた。そこはただひたすら暖かく、その心地良さには足を止めずにはいられなかった。ついでに昼食もとっていると、瞬く間に1時間が過ぎていた。改めて播但尾根に戻り、尾根歩きの続きに入った。とにかく自然なままの尾根で、こちらも自然体で歩いて行く。ちょっと痩せ尾根になっている所もあったが、危ないと言う感じは無かった。ただただ尾根歩きを楽しむ気持ちで進んで行くと、急尾根となって大路山の一つ手前のピークに着き、そこを越すとその先に二つのピークが重なって見えていた。先に手前となる左のピークに向かうと、そこが大路山山頂で四等三角点(点名・大路)が置かれていた。尾根と同様にそこも木々に囲まれて展望は無し。ただ陽射しはあって休むには手頃な所だった。暫しの休憩とする。その大路山は二度目なのだが、どうも前回の記憶がよみがえらなかった。それだけ平凡なピークと言うことだろうか。そこで大路山を少し印象付けたく、周りの山並みを見て現在地を確認することにした。大路山から南に真っ直ぐ延びている尾根があり、それを少し下ってみることにした。すると僅かに開けた所があって、そこからはけっこう大きく藤無山が眺められた。その展望を得て少しは大路山の位置が認識出来たことになり、ここまで歩いてきた甲斐があったと漸く思えた。その後は北隣のほぼ同じ高さのピークに立ち寄ったが、そちらは三角点ピーク以上に平凡な感じで、単なる尾根の膨らみにしか感じられなかった。これでこの日の尾根歩きを終えることにした。その位置でも実は冨土野峠からさほど離れていないのだが、この日はのんびりと歩いたり所々でゆっくり休憩したため、朝のスタートから既に4時間が経過していた。後は冨土野峠へと歩いてきた道を引き返して行くだけだった。寄り道はせず、すんなりと播但尾根を冨土野峠へと歩いた。午後も快晴。視界は午後に入って更にうっすらとしていたが、そんな視界のことよりもこの日はただ尾根の歩き心地を最上の楽しみとして歩いた。再び尾根の風情に目を楽しませながらのんびりと峠を目指した。
ところでこの播但尾根にはいろいろ興味のあるピークが並んでいるのだが、どうも山名のはっきりした山が少ないようだ。最近になって点名・筏(954mピーク)が宍粟50山に選ばれたことで銅山と知ったが、ここに書いた冨土野山も大路山も一般的に認知度は低いようである。冨土野山の点名は古屋山とあり、別の山名になっているが、古い資料では冨土野山と紹介されてるのでここでは冨土野山の名を使ったが、大路山は点名では大路とだけで山の字は付いていなかった。ただ遠くから見るその姿はどうも山の名を付けて呼びたくなり、ここでは大路山の名を使ってみた。
(2008/7記)(2024/3改訂) |