篠ヶ峰を南東のイタリ山の方向から眺めると、篠ヶ峰のどっしりとした姿も良いが、それに負けないぐらいに岩屋山が鋭い三角形の姿をその左に並べている。また篠ヶ峰の右手には、なだらかな姿で点名・赤井のピークも並んでいる。この三つの山が前衛の尾根の向こうに高度感を持って並ぶ姿に惹きつけられたのは、2008年11月に石戸山に向かっているときだった。この三つの山を「丹波和田」の地図で見ると、どうやらうまく周回で歩けそうだと言うことが分かった。但し時間はかかりそうだった。逆に言えばじっくりと長い時間かけて歩きたいときに向いているコースだと言えそうだった。この長く歩きたくなったのが2009年4月に入ったときだった。海外出張で飛行機移動を10時間ほどすると、何となく体がなまってしまった感覚を覚えた。そこで休暇となった7日の日に、ちょっと長く体を動かしたいと、この篠ヶ峰周回ルートに向かったものである。
この日は快晴。朝は少しひんやりとしていたが、春らしく視界はややうっすらとして、春爛漫と言いたい日だった。播州から丹波へはまず高坂トンネルを通って多可町へ、そして小野尻トンネルを通って丹波市に出た。県道86号線を富田交差点で左折して、岩屋山へと近づいた。周回の起点は五ヶ野集落辺りからと、その五ヶ野集落を抜けたときに、カザシの東麓辺りと思われる位置で小ぢんまりとした神社が見えた。そばには駐車場もあったので、そこに駐車とした。境内は桜の木が満開の見ごろを迎えており、ちょっとした花見気分にさせられた。車道を歩き始めると神社の先で橋を渡ったが、その先にゲートが設けられていた。その害獣避けゲートを通った先からは地道の林道となって山中に向かい出した。暫くは植林の中を進んで行ったが、左へと林道が緩やかに曲がり出すと、程なく北に向かう小径が分かれた。そこには道標が立っており、「いわや」と書かれているようだった。その小径が地図の破線路と思われたので歩いて行くことにした。小径は枯れ葉が深々と積もっており、また低木がトンネルを作っている所もあって、雰囲気は悪く無かった。それが登るほどに倒木が目立ってきた。幸い倒木はぶつ切りにされていたので、少し面倒なだけで進んでは行けた。その倒木地を過ぎると、小径は踏み跡程度になってしまった。涸れ沢に沿って進んで行ったが、涸れ沢の中を歩くこともあった。次第に傾斜がきつくなってきたとき、突然「二丁」と書かれた標柱が現れた。登山道としては続いていたようだった。ただ道ははっきりしないので、登り易そうな所を選んで登って行くことにした。その先で岩壁が現れたが、何とか登って行けそうに見えたので、迂回はせず正面突破で登ることにした。木の根に掴まってムリヤリ登ると、その岩の上から先は尾根を歩くようになった。少し登ると傾斜が一気に緩やかになった。地図を見ると標高529mのポイントで、その先に岩屋山との間の小さなピークが見えていた。尾根道は程良い歩き易さで、松の木が多いのか松葉に覆われていた。620mの小ピークを過ぎると、岩屋山が木々を通して見えてきた。その山頂直下に大きな送電塔が建っていた。傾斜がきつくなってその送電塔に着くと、そこは木々が切られており一帯の地肌がすっかり現れていた。おかげで南に向かって遮るものの無い展望が広がっていた。山南町の山並みを思いっきり眺められると言いたいところだが、この日の視界はあいにく濁っていた。黄砂の影響でもあるのか幾分黄色味を帯びており、妙見山もうっすらとしか見えていなかった。そこよりほんのひと登りで岩屋山山頂だったが、狭い上に倒木もあって雑然とした印象だった。展望も良く無かった。すぐに先へと進み出すと、そこでも倒木が行く手を塞いでいた。ただ倒木のために少し展望があり、篠ヶ峰山頂がけっこうすっきりと見えていた。その右隣には点名・赤井も並んでいる。北の空は濁りが少ないようで、篠ヶ峰山頂の電波塔群がはっきり見えていた。その倒木地を過ぎると尾根は緩やかなアップダウンとなり、無理なく歩いて行けた。尾根にはシャクナゲの木が目立つようになり、所によっては道に被さるように茂っていた。はや蕾の膨らんでいる木も見られ、そのシャクナゲの多さに花の咲く季節にもぜひ歩いてみたいものだと思った。気温は15℃まで上がっており、暑くも無く寒くも無くちょうど良い感じで歩いて行けた。その尾根でまた送電塔と出会い、その先は終始巡視路のプラ階段を歩くことになった。尾根は優しげで道幅は十分にあり、すっかりハイキング気分だった。播丹尾根に合流すると、前方に山頂の電波塔群が間近に見えていた。その先で舗装路に合流した。そこからは南北に並んでいる電波塔群を見上げながら舗装路を歩き、そしてNHKの電波塔のそばより山頂への道に入ると、ほんのひと歩きで山頂だった。山頂には二等三角点(点名・篠ヶ峰)が埋まっている。平日の山頂は他に人影は無く、ひっそりとしていた。三角点のそばで軽く昼食をとると、後は篠ヶ峰山頂からの展望を楽しんだ。電波塔群で視界は塞がれるものの、あちらこちらと歩けば南の方向を除いてけっこう展望の良い山頂だった。やはり西向かいに対峙する千ヶ峰の尾根は、何度眺めてもその伸びやかさには気持ちが晴れやかになる。東も弘浪山に白山、そして五台山とどこまでも丹波の山並みが続く。気温は更に上がって18℃になっていたが、弱く吹く風はあくまでも涼しく快いばかりだった。一休みしたところで、次は南東尾根に入った。電波塔群の北端はNHKとサンテレビの電波塔だが、そのそばから尾根道が始まっていた。少し下ると関西電力のマイクロウェーブ反射板が建っており、そこからも東に向かって展望が広がっていた。尾根道は巡視路の様相で続いており、けっこう歩き易いと言えた。ただ巡視路なだけに尾根の途中で送電塔の建つ支尾根へとその道は向かってしまい、尾根には小径が続くものの一気にマイナーな雰囲気になってしまった。もう役に立たなくなった害獣避けネットに沿って細々と続いていた。イバラも現れてきてこのままヤブかと思うと急に歩き易くなったりと、まずまずと言った感じでは歩いて行けた。ときおり前方に次の692mピーク(点名・赤井)が望めることもあった。その692mピークが間近となったとき少し傾斜がきつくなった。そして篠ヶ峰を離れてからちょうど1時間で点名・赤井のピークに立った。そこは雑木に囲まれており、四等三角点があるだけで特に特徴は無かった。そのまま南隣の670mピークへと進んだが、そちらも同様だった。尾根はその先で幾つかに分かれており、南の方向を意識しながら下ると、また主尾根を追えるようになった。木々を通して前方に送電塔がちらちら見えていた。その送電塔へと向かっている頃より、白い花をいっぱい付けた木が目に付くようになった。コブシのようにもタムシバのようにも見えた。送電塔の位置に着くと、それは二つの送電塔が並ぶようにして建っていた。そこがけっこう展望が良く、朝から歩いてきた尾根が一望だった。東には高釣瓶のどっしりと姿が間近に見えていた。そしてそこに着いて、タムシバの花が一段と目に付いた。そこかしこと言った感じだった。そこは木々が少ないだけに陽射しをまともに受けることになり、暑さを感じるまでになっていた。気温はと見ると20℃を指していた。この日の予定では尾根なりにずっと歩くつもりだったが、暑くなってきたこととけっこう長時間歩いてきたことで、そろそろ終わっても良いかとの思いが頭をよぎり出した。それを見計らっていたかのようにその先で西の谷へと小径が尾根道から分かれていた。ただ尾根歩きにも未練があって今少し尾根を辿って行くことにした。すると尾根の小径はなぜか尾根から離れて左手となる東の谷へと向かい出した。尾根はと言うとヤブ尾根だった。その左手に向かい出した小径は再び尾根に戻る可能性もあったが、ヤブ尾根を見たことで気持ちが萎えたというか、下山へと一気に気持ちが傾いてしまった。そこで引き返して西の谷へと向かう小径に入った。これは全くの巡視路でプラ階段で一気に下れることになった。谷との標高差は250mほどとあって、20分も下ればはや谷の林道が見えてきた。林道に下り着くと、巡視路の入口には「大空谷滝奥」と「大空谷段」の二つの標識が付いていた。後は五ヶ野川に沿って南へと真っ直ぐ延びる林道を歩いて行くだけだった。林道はほぼ平坦路として続いているため、もうごく気楽に歩いて行くことになった。その林道を歩いているとき何度もしつこいぐらいに、この一帯がマッタケ山であることを示す貼り紙を目にした。その秋の季節さえ外せば、周回で篠ヶ峰を楽しめる悪く無いコースだと、この日のハイキングに満足した気持ちで駐車地点へと戻って行った。
(2009/4記)(2021/12改訂) |