山頂に平成之大馬鹿門が建つ以前の空山は、その名前に惹かれてヤブ山派が登る程度だったと思われるが、大馬鹿門が建った後は新聞に載るだけでは無く、「はりまハイキング」にも紹介されるまでになった。更には宍粟50山にも選ばれ、また兵庫100山にも加えられて、その存在はけっこうポピュラーになってきたと思える。ガイドブックには一般に登り易く親しみ易いコースが紹介されるが、「ふるさと兵庫100山」を見ると、南麓の魚町公園を起点にして、「高保木の森」の中を登って行くことになっていた。空山には過去2回登っているものの、一度目は手探りで南側の林道を足がかりに登り、二度目は雪山として南西側の池田集落からのコースで登っていたので、魚町公園からのコースは未登であった。そこで空山を魚町公園コースで再訪するのも面白いのではと思えて、三度目の空山に向かったのは2010年5月の最終土曜日だった。空は少し薄雲があるものの、空の青さがくっきりとして、意外と空気の澄んでいる日だった。公園に着いたのは朝の9時半のこと。公園駐車場には他に2台の車が止まっていたが、ハイキングのようでは無く、犬を散歩させたりと、朝の涼しさを楽しむ人のようだった。駐車場の一隅を見ると、「高保木の森」の案内標識が立っており、そばには空山の登山口標識も立っていた。近づくと、そこより遊歩道が始まっていた。その遊歩道のままに登って行けば、空山の山頂に立てるようだった。遊歩道を歩き始めると、一帯は公園として整備されているだけに、その雰囲気は悪くなかった。遊歩道の周囲には自然林が広がっており、それが新緑の盛りとあって淡い緑の美しさには圧倒される思いだった。木陰はずっと涼しく、木漏れ日の作る影も優しげで、歩くのが楽しくなる道だった。ただ木々はあまりばらけることが無かったため、展望に関しては良いとは言えなかった。やがてコースは二手に分かれたが、そこは右手の尾根コースをとった。少し傾斜が増したが、涼しい中なので、良い感じで登って行けた。登り着いた所が四等三角点(点名・大谷)のある681mピークで、「高保木の森」の中では最高点となる。その先で尾根は平坦となり、更に下り坂に変わると、公園エリアを外れたようで、周囲の木々は人工林に変わってきた。自然林の作る優しげな雰囲気は消えて、薄暗い中を下って行った。下るうちに尾根の形があいまいな所も現れたが、目印が点々と続いていたので、逸れることは無かった。周囲はずっと人工林ということは無く、ときおり左手が自然林となったりしたので、人工林と自然林が混在しているようだった。鞍部を過ぎて上り坂となったとき、程なく右手が明るくなってきた。木々がばらけており、その先は伐採地が広がっているようだった。伐採地が尾根まで達する所があり、その位置で一休みとした。東の方向を遮る木々は無く、東向かいの尾根がすっきりと眺められた。その中で大きいのは竹呂山だった。一帯は陽当たりが良いためか、サンショウの木が多く、ほのかな香りが漂っていた。その先で尾根がまたはっきりしなくなったが、目印が多く付いているため、目印を追うようにして登るうちに、また尾根がはっきりしてきた。693mピークを越すと、左手から沢音が聞こえてきた。その頃には周囲はまたすっかり人工林になっていた。尾根のままに登って山頂が近づくと、周囲にアカマツが目立ってきた。また尾根の傾斜も増してきた。展望に関しては途中の伐採地で得られただけだったが、ずっと涼しい中を登れたのは良かった。急坂を登りきると、そこが山頂だった。ぽつんと平成之大馬鹿門の立つ様子は以前のままだったが、どうもすっきりとした感じでは無かった。山頂は明るい陽射しに包まれているのだが、その周囲を取り巻く木々、特に植林が育っており、以前のすっきりとした雰囲気を消しているようだった。後山は山頂部のみが見えており、天児屋山は木々に隠されてしまっていた。かろうじて良く見えるのは南東の植松山の尾根ぐらいだった。山頂からの展望を一つの楽しみにしていたので、これは少々がっかりすることだった。ただ空山は兵庫100山に選ばれたと言えどもまだまだ静かな山のようで、登る途中で会う人は無く、山頂もひっそりとしていた。その山頂で休む所となると、大馬鹿門の土台が一番で、陽射しの当たる所は暑さを感じるものの、大馬鹿門の影に入るとすっと涼しくなった。おまけに爽やかな風も通っている。五月の季節のありがたいところだった。山頂では特にうろつくこともせず、ただひたすら風の涼しさを楽しむことにした。展望の乏しい山頂でもあり、涼しさの中で40分も過ごすと、下山に向かいたい気持ちが起きてきた。下山は始めに北の方向へ、池田集落へのコースを辿ることにする。これは冬コースとして歩いた道である。そちらも目印が点々と付いており、尾根を下ると言うよりも、目印を追っての下りだった。こちらはほぼ人工林の中を歩くことになった。登りのコース以上に展望とは縁の無いコースだった。途中から西方向への小さな尾根に入ると、両側から沢音が聞こえてきた。そしてその沢そばに下り着くと、後は沢に沿って、ずっと沢音を聞きながら小径を進んで行くだけだった。周囲は変わらず人工林が続いており、薄暗さの中を下っていたのだが、突然人工林が終わってススキの原に出ると一気に明るくなった。そして前方にくっきりと後山が見えていた。その空を見て、ちょっと残念な気持ちが起きてきた。こうくっきりと見えているのなら、もう少し展望を楽しめる山にしても良かったのではの思いだった。まあ仕方がないことなので、ここは前方に見える後山の姿で我慢することにした。そのススキの原を抜けると、池田林道に合流した。そこにも空山の登山口標識が立っていた。その先は池田集落へと入って行くことになった。昼の陽射しは強かったが、この日のからっとした空気は、昼を過ぎても涼しいのは良かった。出来るだけ県道72号線を歩かないように、千種川の左岸側を歩いていたところ、その小径は途中で行き止まりになってしまった。橋の架かる位置まで戻って、結局は県道を歩くことになった。歩くといっても歩道が付いてはいたが。その県道沿いを歩く時間がけっこう長く、回り道をしたこともあり、池田林道の登山口から駐車地点まで1時間以上かかってしまったのは、ちょっとくたびれる思いだった。
(2010/7記)(2021/10改訂) |