黒尾山の北に小さなピークを並べる深山は、その名に惹かれてたまに登山者が訪れる程度の静かな山だったと思われる。その深山が宍粟50山に選ばれたことで、少しは注目度が上がったと思われるが、50山の中では山の姿と同様に特に人気が出てきたようには思われない。その深山の登山コースとしてガイド本「宍粟50名山」では北からのコースが紹介されていた。これまで深山には2回登っていたが、いずれも南麓の岩上神社からのコースであったため、北からのコースにちょっと興味が起きた。林道を利用するのだが、地図を見ると林道は標高660m辺りまで付いており、山頂との標高差は250mほどしかなく、登山としては軽いと言えそうだった。
向かったのは10年7月の中旬。前日まで梅雨空だったが、この日の姫路は澄んだ空が広がっていた。まさに梅雨明けの日だった。そこで快晴の展望が楽しめると、勇躍播州北部へと向かったところ、宍粟市に入る頃より雲が多くなってきた。北部に向かうほどに雲は増えて、高い山にはガスもかかっているようだった。どうも播州も北部辺りは梅雨明けが少し遅れているように思われた。それでも晴れと言える空で、青空の部分は澄んだ色をしていた。国道29号線を波賀町有賀で離れて国道429号線へ入ると、斉木川が近づく辺りで深山の案内標識が現れた。それに従って南へと細い車道に入ると、道はすぐに二手に分かれた。そこに深山の文字が見えないため、地図を開いて左手の道を辿ることにした。程なく害獣避けゲートが現れたが、その先でもまだ民家が建っていた。ただ民家のそばを過ぎると、後は純然たる林道だった。林道を走るうちに深山の文字が現れたので、道の正しいことが分かった。林道は特に荒れた所は見られず順調に進めて、このまま終点までと思え出したとき荒れ出した。四駆なら進めそうだったが無理をしたくなく、少し戻って支林道(作業道ゴソロ線)の分岐する位置に車を止めた。そしてそこからハイキング開始とした。上空は雲が多いながらも青空も見えており、次第に良くなるのではと思えた。林道を15分も歩けば終点だった。そこは広場のように駐車には十分なスペースがあり、その奥に深山の登山口標柱が立っていた。いざ登山道を歩き出すと、登山道の周囲はすっかりシダが繁茂していた。産毛のあるシダで、イワヒメワラビかと思われる。かつて笹の茂っていた山では、アセビと共に異常に繁殖しだしている植物で、この山はその繁殖ぶりはすごいとしか言いようが無かった。ただ普通のシダと比べて柔らかいので、登る妨げにはさほどならなかった。珍しいのはそのイワヒメワラビに混じってイッポンコゴミがあることで、まだ山菜になりそうな新芽も見られた。登るうちに尾根の鞍部が近づくと、それに蔦路峠の名が付いていた。ただ登山道は峠には行かず、少し迂回する形で南東方向に折れた。峠を見下ろす位置に来ると、峠まで作業道が付いているのが見えた。その蔦路峠を通って山崎町上ノと波賀町齋木とで往来があったものと思われる。登山コースには赤テープがあり、登山道もまずまず分かるので地図を見なくとも登って行けたが、とにかくずっと周囲にイワヒメワラビが繁茂していた。15年前に深山を訪れたときは、この一帯は笹で埋めつくされていたはずだが、今はすっかりシダで覆われていることになる。登るうちに北に展望が開けて、北向かいの尾根が眺められるようになったが、そちらは雲が厚いようで、稜線は雲に隠されていた。かろうじて大甲山が見えている程度だった。ただ登るうちにに荒尾山も見えてきたので、雲は確実に減っているようだった。空はときに青空が広がるときがあり、そのときは30℃以上の暑さに感じられた。但し梅雨の最中のような蒸す感じは無かった。急坂を登り積めて小さなピークに出ると、そこは絶好の展望地だった。地図では900mの等高線が付いているピークだが、ここまで来ると、もうほとんど同じ高さで深山の山頂が見えていた。西には日名倉山が、北東には阿舎利山も見えており、どちらの山も山頂にかかる雲が消えようとしていた。この尾根上に出ると、涼しい風も現れて、暑さは気にならなかった。その位置からは深山山頂へと尾根を東へ辿って行く。暫くは左手に展望が開けているのを眺めながらだった。山頂が近づいて樹林に入ると、ごくあっさりと三角点の前に出た。そこは樹林にすっかり囲まれており展望を楽しむ所では無かったが、ここはいっそう涼しい風が通って、休むには良い所だった。11時を回っていたことでもあり、ここで早めの昼休憩をした。そして少しばかり横になって、涼しい風を楽しんだ。この後は南深山まで尾根を歩こうとパートナーに提案したところ、このまま昼寝を楽しみたいと言われてしまった。そこで一人で歩くことにした。前回の登山では地図を頭にイメージしながら歩いたものだが、今回来てみると、南深山への標識もあれば、赤テープも点々と付いていたので、ただそれを追って行くだけだった。始めは植林地の中を歩いたが、南深山が近づくと自然林が広がって、深山と同様に雰囲気が良くなった。ただ展望の悪さも深山と同じだったが。それでも南深山からは木立を通して黒尾山が眺められたのは良かった。南深山から先へと向かう気持ちは無かったので、暫しの休憩で引き返すことにした。深山に戻ると、パートナーを立たして展望地に出ることにした。空はまだ雲が多かったが、尾根は明るい陽射しをいっぱい受けていた。そこから見える山々は、後山を除いて山頂を隠す雲は見えなくなっていた。陽射しのもとでは少し暑かったが、暫しの間、くっきりと見える山並みの展望を楽しんだ。深山はこの伸びやかな風景があるから訪れたくなるのだと、改めて思った。それにしてもかつて広がっていたクマザサの海がすっかり消えてしまうとは思いも寄らなかったことで、自然も刻々と変化するものだと、この風景を眺めての実感だった。下山はイワヒメワラビの群落の中をただ下るのみ。900mピークからだと、20分とかからず登山口に戻ってしまった。その登山口まで車を進めるのであれば、深山登山は宍粟50山の中でも、ごく軽い部類に入りそうだと思えた。後はクールダウンの感じで、駐車地点へと林道歩きを始めた。
(2010/7記)(2020/11改訂) |