雪彦山の北には姫路市と宍粟市を限る尾根が横たわっており、幾つかのピークが並んでいる。標高も千メートルに近いものもあって、遠くからでもよく分かる尾根なのだが、地形図には山名は付いておらず、標高916mの三等三角点ピーク(点名・皆河)を三辻山と呼ぶことがある程度だった。それが宍粟50山が選定されたとき、尾根にある標高961mの別の三角点ピーク(点名・小原)が選ばれた。そして紛らわしいことにそちらも三辻山と呼ぶことになった。そうなるとそれまでの三辻山は何だったのかとなるが、どうもこれからは962mピークの方が三辻山として定着することになるのではと思われる。その宍粟50山を紹介するガイド本を見ると、三辻山はファミリーコースとして紹介されていた。かつては坂の辻峠側から尾根歩きで挑戦する山だったのだが、それが雪彦峰山林道が出来、また尾根に送電塔が立って巡視路が出来たおかげでのことと言えそうだった。こう簡単にハイキングを楽しめる山となるとかえって興味が薄れるもので、どうも足が遠のくことになってしまったが、巡視路からの展望は良いので、尾根からの展望を楽しめる山としての新たな魅力が出てきたことは確かだった。その展望を久々に楽しもうと、2010年4月のみどりの日に出かけた。この日はゴールデンウィーク休暇の初日だったが、気温が低めで風が強かった。そこで厳しい山では無く、簡単に登れて展望を楽しめる山で過ごそうと考えたときに、三辻山が思い浮かんだものである。但し簡単にとは言っても、林道利用で登山口に着くのではあまりにも簡単過ぎるので、雪彦峰山林道が県道8号線から分かれる起点から、尾根歩きで三辻山に向かうことにした。
朝を少しゆっくりしてから出かけたので、県道8号線で雪彦峰山林道の入口に着いたときは、10時半になっていた。その林道口には立て札が立っており、災害復旧工事のために通行止めと書かれていた。始めから林道を走らぬ予定だったため、かえって山が静かで良いのではと思えた。車はその通行止めの林道を少し入った位置にあった、路肩が広くなった所に駐車とした。そしてそのそばから急斜面に取り付いた。急斜面は植林地になっており、数分も登ればもう尾根に出た。この尾根を歩いて行こうと考えた理由は他にもあって、それは三辻山を少し離れた位置、つまり尾根上から眺めてみたいと思ったことだった。尾根を歩き出すと、尾根もすっかり植林地で、これはどうかと思っていたところ、最初の860mほどのピークを越したときに希望は叶えられた。ピークより少し下ったとき、一帯の斜面が伐採地になった所が現れて、南向かいにすんなりと三辻山が眺められた。その後も尾根を辿っていたところ、一度林道に下りることになった。ただそこは林道が僅かに接しているだけで、すぐに尾根の続きを歩くことになった。また小ピークがあり、その先で今度は黒滝がすっきりと眺められた。そのまま尾根を歩いて行くつもりが、下り坂で尾根を外してしまった。しかも倒木地に突っ込んでしまった。そこで目の前に林道が見えていたことでもあり、林道に下りることにした。その林道を15分も歩けば三辻山の登山口標識が立つ位置に着いた。林道入口から車なら数分で着くところを、一時間半かけて歩いてきたことになる。後はハイキングコースを歩くだけなので、気分的には楽だった。巡視路を登って行くが、周囲は植林が囲むとあって、何となく稜線に出るだけのアプローチとして登っている感じだった。前方が明るくなって稜線に出ると、もう三辻山の山頂は目前だった。登山口から山頂まで15分なので、この標高にしては何とも気楽に山頂に立てる山と言えそうだった。山頂に出て冷たさのある風を受けるようになったが、その風のおかげで視界は良く澄んでいた。北の方向がすっきりと見えており、暁晴山から夜鷹山までが一望で、遠くは氷ノ山も覗いていた。この展望をごく簡単な登山で得られることに、得をした気分になると言うよりも、今少し苦労をかけて登ってきた方が良いのではと思えた。南の方角も、明神山、七種山が多少送電塔に視界を妨げられながらも程良く見えていた。この三辻山で昼食とする。山頂には他に人影は無かったが、近くから人の声が聞こえていた。どうやら送電塔付近で何やら作業が行われているためのようだった。三辻山でひとしきり展望を楽しんだ後、巡視路を西へと辿って行くことにした。次の目標は黒滝との中間点ピークだった。巡視路はササと植林とで覆われており、風情としては少し足りないようだった。中間点ピークの手前で巡視路は送電塔の方向へと尾根を離れたため、そこより軽くヤブコギをして930mピークに立った。眼前に送電塔が立っており、そこでも作業が行われていた。作業は雑草刈りで、数人が草刈り機を使って黙々と作業を続けていた。それを横目に西へと向かう。中間ピークを離れると、再び巡視路を歩くようになった。その巡視路だが、作られてから数年が経ったためか、傷みが目立ってきていた。黒滝の登りにかかると、プラ階段の崩れている所も見られた。手入れを怠ると、不自然に作られたものはすぐに壊れるようだった。黒滝のピークを巡視路は通るが、そこはササに囲まれており、通過するだけの雰囲気だった。姫路市の最高地点としては、少し寂しい感じだった。ただピークを過ぎると北の展望が開けて、三辻山と変わらぬ風景が眺められた。その北も良かったが、この黒滝には南面に広大な伐採地が広がっていた。害獣避けネットを通ってそちらに入ると、あまりにもあっけらかんと樹木が無いので、、ちょっと寂し過ぎる風景と言えそうだったが、とにかく抜群の展望だった。ここが再び植林地となって山肌を埋めるのは何十年後のことかと思いながら、その遮るものの無い展望に目を泳がせた。東には笠形山、そして七種山、雪彦山、そして西には黒尾山と飽きない眺めだった。暫しの休憩の後、展望地を後にして稜線に戻った。そしてササの中の切り開き道としての巡視路歩きを再開した。その切り開き道のままに下ればすんなりと林道に下りられると考えていたところ、道は北へと向かい出した。そのうちに急斜面になると共にトラバース道となって、今度は東へと向かい出した。どうも中途半端な道のようだった。それでは林道から離れてしまうので、切り開き道は諦めてクマザサの中に突っ込むことにした。急斜面の中を勢いのまま下って行くと、程なくササ地を抜け出して植林帯に入った。後は適当に下って行くと、長くもかからず林道に下り着いた。下山としてはちょっといただけない下り方だったが、早く下りられたことで良しとする。林道は未舗装で、その支林道を東へと歩いて行くと、長くも歩かず雪彦峰山林道に合流した。舗装路歩きとなってハイキングの雰囲気からは遠かったが、林道は通行止めとあって静かなもので、山頂展望の余韻を楽しみながら駐車地点へと戻って行った。この日のハイキングでは豊かな樹林を味わうことは出来なかったが、展望に関しては一級だった。気軽に好展望を楽しめるコースとして、宍粟50山に選ばれたのではと思えての三辻山ハイキングだった。
(2011/7記)(2020/9改訂) |