粟鹿山は但馬の朝来市と丹波市にまたがる姿の良い山だが、その山頂の電波塔群が目印となって兵庫にあっては遠くからよく分かる山の一つになっている。この粟鹿山へは山東町粟鹿の「山東少年自然の家」からのコース、青垣町小稗からの尾根コースを登っていたが、山東町与布土からの与布土コースで登るのも面白いのではと考えていた。その与布土コースは雪山コースとして考えていたのだが、その前に雪の無い季節にも登ってコースの様子を知っておこうと向かったのが2008年の5月連休最終日だった。
前日の5日が少し雨のぱらつく天気だったためその雨に空が少しは洗われていることを期待したが、播但道から見る空はもう朝から淡い色合いになっていた。ただ視界としては悪くなかった。期待通り半分、期待外れ半分の気持ちだった。国道312号線を竹田で離れて与布土集落へ続く道に入った。緩やかに与布土集落へと下って行くと、程なく前方に粟鹿山が現れた。その粟鹿山へと次第に近づいて行くのは悪くない雰囲気だった。この与布土コースは与布土川沿いの県道276号線(桧倉山東線)を東へと走って奥山林道の分かれる位置が起点となるが、その県道を走って登山口まであと3kmほどとなったとき、与布土川に架かる川上新橋の位置で県道は通行止めになっていた。近くで行われているダム工事によるものだった。仕方なく近くの路肩に車を止めて歩き出すことにした。通行禁止の位置から100mほど歩くと、ダム工事に伴う県道付け替え工事が行われており、そこで県道は寸断されていた。そして大きなループ橋が作られていた。但しこの日は工事は休みのようで、工事現場に人影は無くひっそりとしていた。工事現場を過ぎると再び与布土川沿いの県道を歩くようになり、県道は舗装路として緩やかな上り坂で続いた。両側は山が迫っており、その木々は新緑で緑がまぶしかった。また川端の一部が公園風に整備されている所も見られた。40分ほど歩いて登山口とされる奥山林道の分岐点に着いた。そこには駐車スペースがありトイレもあったが、トイレの建物は朽ちていた。一息ついてから奥山林道を歩き出す。林道に入っても林道も緩やかな上り坂だった。その林道も沢沿いを続き、沢の風景を眺めながら歩くことになった。沢の一部で滝のようになっている所も見られた。林道は始めこそ少し荒れている程度だったが、途中からはっきり荒れ出し、道は抉られて廃道と言ってもおかしくなかった。30分ほど歩いて林道終点に着いた。そこより植林の尾根に取り付いた。枝打ちされた杉の枝で道は隠れ気味だったが、目印テープが点々と付いていた。コースはそのまま尾根を登るのでは無く、一度右手の小さな沢を渡って北東方向へ歩くことになった。その辺りも植林地で、その中を登山道はくねくねと続いていた。適当にショートカットしたくなったが、目印テープが適度な間隔で続いていたので目印テープのままに歩いて行くと、山頂まであと1kmの標識が現れた。そしてその先で植林地を抜け出して雑木の尾根を登るようになった。新緑の木々が陽射しを受けて輝いている。振り返ると展望が良くなっており、青倉山が間近く見えていた。そして山頂まであと500mとなると、下草としてクマザサが増えて来た。ただクマザサは枯れかかっており、以前の尾根歩きで感じた煩わしさはあまり感じられなかった。いずれは消えるのではと思えた。そのクマザサが自然林と調和して優しげな風景を作っており、良い雰囲気で歩いて行けた。そして程なく東からの尾根が合流し、その先で山頂まで通じる舗装路に出た。その車道との合流点には立派な公衆トイレが作られており、登山者にはありがたいことだった。その先は車道を歩いて山頂へ。ほんの僅かな距離だった。山頂そばに着くと車道の脇の平坦地に一組のファミリーが休んでいた。小学生の女の子を二人連れていた。その地点より数メートル登って山頂へ。そこには人影は無く静かな山頂だった。ちょうど昼どきとあってまずは昼休憩とした。そのとき下にいたファミリーが山頂に上がってきたが、ちらっと覗いただけですぐに下山してしまった。後はパートナーと二人きりだった。5月連休としては何とも静かな山頂だった。空は良く晴れており、はや白っぽくモヤがかったようになっていたが、視界はけっこう遠くまで見えていた。この粟鹿山山頂は電波塔群があって東の展望こそ遮られているものの、他は素晴らしい展望だった。これまでに三度山頂を踏んでいたのだが、四度目にしてようやく粟鹿山の山頂展望を楽しめることになった。山頂は丹波と但馬の国境にあるので、但馬の山がやはり近かった。近くには床尾山に鉄鈷山、そして遠くには氷ノ山から妙見山と但馬の高峰が並んでいる。南から南西には奥播州の山並みもよく見えており、千ヶ峰に段ヶ峰とそうそうたる山並みが一望だった。今少しくっきりしておればとも思われたが、そう贅沢も言っておれない。それにしてもこの粟鹿山を見ると全体でクマザサの枯れが目立つようで、二度目に登った15年前は厳しいヤブコギをさせられたものだが、その辺りは裸地も見られて面影がなかった。登ることでは良さそうだったが、やはり寂しいことだった。少し昼寝をしたりと山頂にいたのは50分ほど。次の登山者と言うか子供の声が聞こえたので、それを合図に腰を上げた。登ってきたのは孫と思われる小学校低学年の男の子を連れたおじいさんだった。先ほどのファミリーと言いどうも粟鹿山は子供連れで気軽に登る山のようだった。下山は往路をすんなり戻った。前回に歩いたダンノからの尾根コースも良かったが、与布土コースも植林を抜けてから山頂までの優しげな雰囲気は悪く無く、下山でもその風景を楽しみながらゆっくりと下った。ごく気楽に粟鹿山を楽しめる与布土コースだったが、このコースが賑わいを見せるのはダム工事が終わってからになりそうだった
(2008/5記)(2021/12改訂) |