生野の981mピーク(点名・辻ヶ淵)を再訪したい思いは以前からあったが、登るとなれば別ルートをとりたく、また他の山とも組み合わせたいと考えると、どうも良い案が浮かばなかった。それでも登ることを優先して考え、二つの案を持って登ることにした。一つは981mピークからフトウガ峰へと足を延ばす案で、もう一つは981mピークから南東へと尾根を辿り889mピークまで歩く案だった。どちらの案も中田路集落を起点とする考えだった。「但馬新井」の地図を見ると、山頂から北東方向へと延びる尾根の東側の谷に破線路が描かれていた。その破線路をアプローチとして北東尾根を登ることにした。
この日の姫路の空は快晴だった。ところが播但連絡道を北上していると徐々に雲が増えてきた。神崎町に入ると国道312号線に降りたのだが、その頃にはほぼ曇り空になっており、青空の部分は僅かだった。それでも天気は良くなる方向にも思えた。国道312号線を離れて中田路集落への道を目指すと、前方に三角錐の形をした見栄えの良い山が見えてきた。それが981mピークだった。中田路集落に入ると、目的の谷に近い橋の傍らに駐車とした。近くにいた里人に山のことについて尋ねると、最近山仕事の人が入っており、沢沿いには途中まで小径が続いているとのことだった。ついでに山名を聞くと答えは無く、一帯の山域を字名の「橋ヶ谷」で呼んでいるようだった。田路川に架かる橋を渡って山道を歩いて行くと、道は害獣避けネットの前で終わってしまった。その先に進みたかったが、ネットを越せる所が見当たらなかった。仕方なくネット沿いを川そばまで戻り、ネットの端を回り込んでネットを漸く越した。その先の荒れ地に小径は無く、どうなっているのだろうと思いながら目的の沢に近づくと、そこにはっきりとした小径を見た。この道までの正しいルートはどこだったのかと訝しく思いながら小径を歩き始めた。小径は作業用程度の細い道で、沢沿いを緩やかな上り坂で続いていた。目印もあり気楽に登った。途中からは沢そばを離れて斜面を登るようになった。ただ尾根には向かわず、沢から少し離れた位置で沢と並行して歩いた。左手の沢が終わりかけて急斜面になりだすと、小径もはっきりしなくなった。そこで北東尾根を目指して植林地の斜面を適当に登ることにした。尾根までの距離は少なかったので、さほど時間はかからず尾根に着いた。尾根は緩やかであったが、登るほどに灌木が増えて少々歩き難くなってきた。それを我慢しながら登って行くと北からの尾根に合流した。するとその尾根には小径が付いており、その先も続いていた。北尾根の方が田路側からの主ルートかと思えたが、確信は出来なかった。とにかく有り難く小径を歩いて行った。はっきりとした道を楽々登って行くと岩場が現れた。その岩の上へと登り始めると一気に展望が良くなってきた。岩場の上に出ると、そこは素晴らしい展望地だった。北半面が一望だった。東には千ヶ峰も望まれた。ただ氷ノ山は黒雲に隠されていた。その黒雲がどうも南へと広がり出そうとしていた。その展望地を過ぎると小径は尾根から離れて、フトウガ峰の方向に逸れだした。後は山頂を目指して直登とする。尾根筋にも杣道があり、木に掴まりながら登って行くと、さほど時間はかからず山頂に出た。そこは意外とすっきりしていた。以前と比べて山頂一帯の木が伐られたようだった。おかげで北東方向に展望があった。先ほどの展望地ほどでは無かったが、展望の良い山頂に替わっていた。その山頂からは南のフトウガ峰が見上げる形で眺められた。山頂で昼休憩としたが、その休憩中に北の雨雲がどんどん南下してきた。最初に北の視界が閉ざされ、次に北東もガスに隠された。そして上空にもガスが広がってきた。フトイウガ峰もガスに隠れたので、フトウガ峰に向かう案は諦めて、889mピークを目指すことにした。そこで南東尾根を下り始めたのだが、直後に小雨が降り出した。どうも天気はこのまま悪化するように思われた。そこで889mピークに向かうことも諦めて下山することにした。下山としては小径のあった北尾根を下ることにした。手頃な尾根道がどう言う形で続いているのかにも興味があった。暫く下ると左手に林道が見えてきた。小径はその林道に繋がっているように思えた。そのまま林道に下ってしまえば中田路集落には大回りで戻ることになるので、中田路集落に近づける尾根を下ることにした。その尾根の分岐点に注意しながら北尾根を下っていたのだが、歩き易い所を探るようにして歩いていたためか、分岐点を通り過ぎてしまった。気付いたときはけっこう下ってしまっていたため、そのまま北尾根下りを続けて奥田路集落へと向かうことにした。その尾根がけっこう歩き難くなってきた。尾根筋には害獣避けネットがあり、そのネット沿いを歩けばよいのだがネット沿いはイバラが多く、離れると灌木ヤブに捕まった。出来るだけ歩き易い所を探るも、結局はイバラをハサミで切りながらだった。そして最後に林道が見えたとき、大失敗をしてしまった。もうそこだとの思いからか足下が不注意になり、木の根に躓いて急斜面を転んでしまった。Tシャツ姿だったので、両手、両肘が血だらけになってしまった。血は流れていたが大怪我でもなかったので、とにかく林道に下りると沢で血を洗い止血した。もう意気消沈となり、とぼとぼと言った感じで林道を歩いた。その頃には空はすっかり晴れ上がり、澄んだ空が広がっていた。晴れると分かっておれば889mピークを目指していたのにと思ったが、後の祭りである。林道から県道へと入って、結局駐車地点までは50分ほどもかかってしまった。
ところで二度981mピークを山名を知らないまま登ったのだが、二度目の直後に「たじまハイキング」というガイド本が出版され、この山がとり上げられていた。しかし、その山名を見てがっかりした。「トンガリ山」と、どこでもありそうな平凡な名前だった。これなら点名の「辻ガ淵」で呼んだ方が、この山には断然相応しいと思えてしまった。
(2003/10記)(2021/4改訂) |